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 がんばった。


 彼女を見返したくなって。


 人生で一番勉強した。


 つらくなったら、彼女が撮った自分の写真を、Fフォルダを見て、またがんばって勉強した。


 ぎりぎり大丈夫とは、言わせなかった。トップで合格してやる。


 彼女にふさわしい人間になって、彼女と同じぐらいの頭のよさになって。容姿も気を付けて。


 合格は当然だったけど、首席かどうかが気になった。

 結果、一位ではなかったらしいけど、特待生待遇にはなんとか滑り込めた。


 特待生待遇だと、学内に名前が張り出されるし、入学式でも表彰される。彼女に、自分が来たと、大っぴらに示すことができるから。


 あなたと同じ学部だ。


 勉強したぞ。


 頭もよくなったし、容姿もけっこう絞って、綺麗にしたぞ。


 入学式が終わって。


 彼女の姿を、サークル勧誘の渦のなかで探した。


 女性から声をかけられるが、間に合ってますと断って、とにかく彼女を探す。


 この大学に写真サークルはない。


 僕が。


 僕が来て、二人になれば、大学に申請して。


 また写真を。


「あっ」


 いた。


 彼女。


 たくさんの男女からサークル勧誘を受けている。二回生でしょあなた。新入生よりも、ちやほやされてるじゃないか。


 見てましたか。


 特待生待遇で。


 入学しましたよ。あなたと同じ学部で。


 彼女。


 声が聞き取れる距離。


「すいません。恋人を待っているだけなので」


 それが聞き取れたので。


 とっさに立ち止まった。


「あぶない。あぶなかった」


 彼女の目の前に突然現れる元彼みたいな感じに、なるところだった。


 気付かれないように、ゆっくり、後退りする。



 勉強して。


 容姿を整えて。


 思ったことがある。


 世界は基本的に、頭のいい人と、容姿の端麗なひと向けにできている。そういうひとは、自分にふさわしいひとを探して、そして、恋人になる。


 彼女は、頭が良い。そして、綺麗。


 だから、自分でなくても。たくさん、ふさわしいひとがいるはず。


 勉強するたびに。身体を鍛えるたびに。鏡の前でヘアスプレーをかけるたびに。それを思った。


 一目惚れと、純粋な恋愛は、頭のレベルが普通のひと向け。

 頭がよくて容姿端麗なひとの恋愛は、意味が、違う。


 だから、彼女に恋人がいても、驚かなかった。むしろ、当然なことだと、思う。


「さて」


 この大学も。


 この容姿も。


 彼女からもらったようなものだから。


 大学にいるうちは、彼女に見つからないように、生きよう。彼女の身の回りを、ざわつかせないようにしよう。


 写真フォルダ。Fフォルダも。帰ったら消しておかないと。


 ありがとう。


 感謝の言葉は、彼女に届かず。


 遅咲きの桜と一緒に、風に待った。


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