フィーネル救出作戦
バディ。
悪魔を倒すためには祈りも剣術も、両方の力が必要不可欠である。
しかし殆どの聖騎士は本来、剣術に特化すれば祈りが、祈りに特化すれば剣術が疎かになる。否、どちらかに特化しなければ悪魔に通用する力を得られない。
故に、剣術特化の聖騎士と、祈り特化の『祈り手』がバディを組んで悪魔に立ち向うのである。
かくいう俺も、ある一件以降祈りと剣術両方をそれなりに扱える聖騎士として知られたものだが、最初の頃。
――親父に舞神の神子として、免許皆伝を言い渡されてすぐ。「成人してないし、まだ家業なんて継ぎたくない!!」と家を飛び出して、ルーナ教会に駆け込んだばっかりの頃は、ルーナ教のことなんて殆ど知らなかったし、当然、ルーナ神への祈りなんてちっとも出来なかった。
ただ、舞神の神子となるために修行した俺は身体能力に関してはそれなりに自信があったので、とりあえず『剣術』の使い手として聖騎士見習いになったのだ。
その時のバディが丁度俺と同じく見習いだった、フィーネルだった。
まぁ、見習いの時期に俺は祈りも出来るようになってしまったから。聖騎士になる頃にはバディが事実上の解消になったけど。
それでも、確かにフィーネルは俺の友だちだった。
悪魔狩りをしてるとき、俺の怪我を治してくれたのはフィーネルだったし。
それに、勇者パーティに居たときも「毎晩見張りやらされて寝不足で辛い」とか、「勇者とギスギスしてるから、どうすれば仲良くなれるだろうか?」とか。
文通で、だったけどよく相談に乗ってくれた。それがまぁ、ためになったかと問われれば微妙だけど、それでも、こう言ったパーティでの悩みを、パーティメンバーじゃない誰かに打ち明けられるってのは、スゴく精神的に救われるのだ。
そんなフィーネルが、悪魔になり下がった勇者に攫われた。
酷くショックで、哀しくて。悔しくて。
この街に、間に合わなかった無力さを痛感した。
「セラフィ」
「……なんですか?」
セラフィも、表情がスゴく青ざめている。
そりゃそうだ。フィーネルはセラフィの妹なのだ。……俺は聖騎士時代の、三年かそこらの付き合いだけど、フィーネルはもっと長い。それに家族のピンチなのだ。
気が気でないのだろう。
俺以上に、セラフィは辛いのだろう。
でも、もっと辛いのは間違いなく。あの、悪魔に成り下がった糞野郎に連れ去られてしまったフィーネルなのだ。
「フィーネルを、助けに行こう」
「……カグラよ。それが、どういう意味なのか解ってるのか?」
セラフィが応える前に、教皇が口を挟む。
どういう意味。俺が、フィーネルを助けることに意味も、理由もない。助けたいから助けるのだ。
しかし、教皇様は聡明な人だ。無意味な質問はしない。
であれば……。俺はその質問の意図を考える。
「教皇様。……レンヤの悪魔化。それには、魔王が絡んでいると言うことですか?」
「そうだ。間違いない。レンヤの悪魔化の際、魔王の残滓を感じだ。フィーネルもおそらくは、魔王の居城に居ると考えて良いだろう」
「なるほど。魔王の居城ですね。ありがとうございます!!!」
フィーネルの居場所が解ったのは、幸いだった。
助けに行こう。無鉄砲にそう言った手前なんだけど、実はレンヤとフィーネルがどこに去ったのか解らなかった。
だから、居場所が解ったのは本当についている。
やはり、これも神様の巡り合わせなのかもしれない。
「八咫烏、魔王の居城まで飛べる?」
『ガァァァ!! 容易いゴヨウ!!』
ナイス!! 肩に乗るサイズだった八咫烏が、馬くらいの大きさになる。俺はそれにひらりと跨がった。
「カグラ様!! ……その、私も連れてってください!!」
「当たり前じゃん。早く乗って」
ずっとしゃがみ込んだままだったから、ショックのあまり聞こえてないのかと思ってもう一度声をかけ直すところだったくらいだ。
魔王の居城にフィーネルが居る。
ならば、助けに行くしかない。
◇
「魔王様!! ……三日後に、舞神の神子がこの城に攻め込んできます!!」
「なんと!!」
魔王の居城、魔王の間。
数日ほどの衝撃的な未来を見通すという、占い師は魔王に予報とも言えるような、予言を告げた。
いや、でも冷静に考えれば不自然ではない。
部下が言っていたが、舞神大社の現当主はつい最近まで『ルーナ教最凶の悪魔狩り』として悪魔たちに恐れられていたらしい。
レンヤが攫ってきた女子は確か、ルーナ教の祈り手だったと聞く。
もし、彼女が攫われたと知ったら。顔見知りだったりしたら、あるいは舞神の神子が魔王城に攻め込んでくるのは不自然では無い。
故に、占い師の予言は論理的に考えても信憑性があるし、それに、いままでの当たりの精度から考えても信頼に足る情報だと魔王は判断した。
「(だとしたら、今が最大の好奇かもしれぬな)」
『レンヤよ。すまぬが今から、舞神大社へ向かってくれぬか?』
『は? ちょ、ちょっと待てよ!! 今からってところなのに!!』
レンヤの応答に、魔王は歩いてレンヤの部屋に向かった。
レンヤの部屋には、顔を赤らめ呼気を上気させ明らかに発情した様子のフィーネルと、それを押し倒す妖艶な笑みを浮かべるリーム。そして、半裸で臨戦態勢になっているレンヤの姿があった。
「お、おい。魔王……勝手に入ってくんなよ!!!」
リームの催淫によって、先ほどまで着丈に歯を食いしばりリームの責め苦のような愛撫に耐えていたフィーネルも、とうとう墜ちて、いよいよレンヤが押し倒す。
そんなタイミングだった時に、魔王はずかずかとレンヤの部屋に入っていく。
その姿は黒い靄のようで、ドロドロに溶けたタールのようで。放たれる雰囲気は圧倒的な闇の気配。
脱童貞を前にした、性欲旺盛なレンヤの圧倒的な高ぶりも一瞬で萎えてしまった。
「……すぐ終るから、ちょっと待ってくれたって良かっただろ」
「終らぬだろう。初めての交わいはやみつきになる。レンヤほどの体力があれば、三日三晩は軽いだろう」
「「三日三晩」」
リームもフィーネルも、雰囲気もあってその言葉にギョッとする。
レンヤは童貞だった。
勇者になる以前は貧乏で、容姿も性格も良いわけでは無いから全くモテず。勇者になってからは旅路の過酷なスケジュールと、パーティに女性が多い割にメンバーからは好かれていなかったために、性行為の機会に恵まれなかったのだ。
満を持しての脱童貞。
リームに解され、とろとろになったフィーネルの処女を食らおうとするその時に、魔王に邪魔立てされて、レンヤはひたすらに不機嫌だった。
「それで、なんの用だよ」
「今から、舞神大社に言って本殿を壊してきて貰いたい」
「舞神大社……って、カグラの糞野郎の実家だよな。どうしても、今じゃなきゃダメなのか?」
「ああ、ダメだ」
カグラの不在が確実に解っている機会はそうそう無い。
しかし、魔王は現状のレンヤの実力ではカグラには叶わないであろうことを知っていた。だからこそ、不在のうちに、舞神の本殿を叩きたい。
あわよくば、あの神社に封印されている無数の妖魔の数々を解放したかった。
「セント・ルーナの時みたいに瞬間移動すれば良いだろ」
「いや、それが出来ぬのだ。舞神の神子の結界は、大社がある島国を丸ごと覆うほどに大きい。故に、大陸の国に転移した後、船で直接島に渡ってから、舞神大社に向かわねばならない」
空路も、魔王の持つ手段は全て結界に弾かれる形で失敗するし。魔王自身も、結界の中には入れない。
あの結界の中で動けるのは、元勇者のレンヤ以外には居ないのだ。
そして、そのレンヤでもカグラが不在の時に叩かねば返り討ちに遭う可能性が高い――それが、舞神の神子なのだ。
こっちに攻め入られれば、切り札はあれど魔王は死ぬかもしれない。
そして、それは魔王城にレンヤが居たとしても未来はそう変わりはしない。
ならばせめて、舞神の総本山。舞神大社だけでも道連れに……。
そんな魔王の決死の思いが通じたのか否か、勇者は酷く不機嫌そうに服を着直した。
「……報酬、覚えとけよ」
「あぁ。今回は、できうる限りのものを用意する」
レンヤは、新たな女を要求するか。貸しとして取っておくか。それとも……帰ったらどんな要求をしてやろうか。そんなことを考えながら。
舞神大社のある島国に最も近い、大陸の国へ魔王の力によって転移した。
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