勇者に「無能はいらない」と追放されたけど、他の仲間が全員俺についてきた件

破滅

第一部 勇者無能篇

どうやら無能はいらないらしい

「無能はいらない。今すぐ俺のパーティから出て行け!!」


 腐敗の潮風に、鉄鋼が腐り果てていた傷跡が残るものの。元凶であるクラーケンの討伐によって、吹き付ける潮風はさわやかな磯の匂いがするようになった港町ポートマス。

 クラーケンの討伐祝いにと、招かれた酒場にて若干酒に酔った様子の勇者が酒瓶をテーブルに叩き付けながら俺にそう怒鳴り散らかしていた。


「無能……」


「そうだ。お前は無能だ。お前は聖騎士という上級職に就いているらしいが、回復魔法は聖女に大きく劣っているし、剣術は勇者である俺に劣っている。

 このパーティにおいて何一つ秀でた才能が無いお前は無能だ、よってこのパーティには必要ない」


「確かに俺は、回復の祈祷はセラフィに劣るし。剣術だって、お前には勝てない。でも、自分で回復出来るからヒーラーの視界に入らない範囲でも無茶な動きが出来る」


 だから、一概に無能と言われるのは釈然としない。

 そう反論する俺に、勇者はうるさいうるさいうるさい、と怒鳴り声を上げた。


「いいから、お前はもうクビなんだよ。邪魔すんなよ、俺のハーレムを……」


 そんな切実な勇者の声に、俺は納得する。


 俺が無能とか、劣っているとか。そう言うのは全部建前。


「なるほど。確かに、俺が居なくなればお前以外の全員が女の子になるもんな」


「そうだ。なにか、文句があるのか?」


「いや、特に」


「なら良い。今すぐ出て行け」


 勇者は少し赤い顔で、しっしっと俺を追い払った。


 勇者パーティは俺と勇者との他は聖女、魔法使い、盗賊と言った構成になっているが、勇者と俺以外は全員女の子だ。

 しかも、女の子は全員かわいいし実力も世界でトップクラスだ。


 俺も男だし、彼女たちのような有能な美少女を侍らせたいという勇者の気持ちが解らないでもなかった。

 まぁ、解らないでもないって言うだけで、侍らせたいかと問われれば話は変わってくるのだが……。


「(辞・め・ら・れ・た~~~~~~~!!!)」


 ひゃっっほ~~い!!!!


 勇者にクビを言い渡された俺は、内心最高の気分だった。


 本当にもう、爽快。俺は、この身も心も軽くなるような開放感に、感無量だった。


 俺は、勇者パーティなんてとっとと辞めたくて仕方が無かったのだ。


 困っている人を助けるため、魔王軍を殲滅するために世界中を右往左往。

 魔王の手先が居る場所に宿があるとは限らないから、野宿なんて日常茶飯事。移動距離も長いから、食事は大体保存食か魔物の肉。

 おまけに、勇者たちが寝ている間の見張り番を全部俺に任されていたせいで、万年酷い寝不足に苦しめられていた。


 最低のブラック職場、勇者パーティ。


 ぶっちゃけ、魔王云々なんてどうでも良いし。こんな糞みたいな職場、辞めたくて辞めたくて仕方がなかったのだ。

 でも、教会の騎士という立場もあったし。自分から「辞める」なんて言った日には背教者として教会の人たちから袋だたきにされてしまう。


 だから、自分から辞めるなんて言えなかったし。上にバレたら酷い目に遭いそうだから仕事で手を抜く訳にもいかなかったけど……勇者本人が辞めろって言うのなら仕方がない!!


 勇者は神様が定めたものだし、勇者の言ったことは実質神の思し召しだ。

 いやぁ、神様みたいな人が辞めろって言うんだから、信心深い俺は逆らえないね。無念無念!


 いやぁ、勇者に「無能、役立たず」って言われたから騎士なんて向いてなかったのかもしれない。

 これを機に、教会の騎士も辞めて田舎に帰って家業を継ぐのも良いかもしれない!


 俺はるんるん気分で、ポートマスの街を駆ける。


 俺の未来は明るい。

 勇者パーティの過酷で非道な労働環境から解放されて、空気の綺麗な実家で親孝行とかしながら、適当にお見合いして、嫁さん貰ってのんびりと暮らす。


 人間の幸せって多分、そう言うことなんじゃないかなぁと思うんだよね!!


 勇者パーティを追放された俺は、教会の聖騎士を辞めるために――教会の総本山がある街『セント・ルーナ』に向かう。




                    ◇




「あれ? カグラ様を見かけませんね。勇者様、カグラ様を知りませんか?」


 勇者パーティに所属する聖騎士、カグラが追放され街を出た頃。

 教会への報告をしていた聖女セラフィは、酒場に戻ってすぐに異変に気付き、勇者に尋ねる。


「え? あいつ? あいつなら、役立たずだったからさっき追放したところだけど?」


「か、カグラ様を追放……?」


 飄々と答える勇者の言葉をセラフィは信じ切れず、思わず目眩がした。


「どういうつもりですか!?!! あんなにも信心深く、誰よりもパーティに貢献してきた人を追放するなんて!!!」


 鬼の形相で勇者を掴み上げるセラフィに、勇者は思わずたじろいでしまう。


「……ら、私も抜けます」


「え?」


「でしたら、私も勇者パーティを抜けます!! カグラ様の能が足りないというのなら私もこのパーティに居る資格はありません!! では」


 セラフィはそれだけ言ってツカツカと勇者の元を去って行く。


 それどころか、その様子を見ていた魔法使いや盗賊も


「え~、カグラくん追放しちゃったの? ……じゃあ、ボクも辞めるわ。このパーティ」


「わ、私もっ! カグラさんが居ないなら辞めますっ!」


「え? ちょ、ちょっと待って!!!」


 あっさりと勇者の元を去ってしまった。


 この深刻な事態に、流石に酔いが醒めた勇者は己のハーレムになる予定だったパーティメンバーを引き留めようとするが、もう遅い。

 カグラを追放してしまった以上、最早取り返しなんてつかないのだ。


 勇者は思い知る。


 勇者パーティに属している美少女揃いのパーティメンバーは皆、カグラ目当てで所属していたことを。


 パーティメンバーをたった数時間で、全員失ってしまったことで。

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