最強キャラ決定戦〜作品クロスオーバー〜

白神天稀

その1 真神零人VS氷雨紫苑

ただそれはなんの前触れもなく発生した。


彼の意識は途切れることなく繋ぎ合わされたようにその場所へと誘われた。


零人が気がついた時にはもう上葉町の街並みはなく、アスファルトを踏みしめていた筈の足は短く生えた草の上にあった。


「はっ? これは異界か──いや、それにしちゃあ不自然だな」


零人の感じた違和感は正しかった。

この空間では一切、霊力が存在していなかったのだ。


だが生命エネルギーなどその他の感覚はあり、異界内の模造品などではなかった。

大気中の酸素の比率も重力も変わらない。


周りを観察していた時、零人は目の前の少女の存在を認知する。

その少女は30m先で向かい合うように立っており、零人と同じく困惑している様子であった。


「あ、おいあんた! 大丈夫か?」


「ん、人か? なぁ、ここは一体……」


零人が少女とのコンタクトを図ろうとしたその瞬間、空から降ってくるかのように謎の声が聞こえてきた。


『お2人ともご参加ありがとうございます』


「「ッ!」」


その声に呼応するかの如く空は黄金色に点滅を繰り返す。


『この度、お2人をそれぞれの世界から召喚させて頂きました。よってこれより、異世界ドリームデスマッチを始めます。

ですが戦闘に敗れても死にはしないのでご安心くださ──』


天の声が自分勝手な主張を並べていたその時、零人の周囲の空気が


ひび割れた空間は黒の稲妻が漏れだし、零人は拳を強く握りながら天空を睨みつけた。


『へっ!?』


その覇気に押されたのか、その自称神気取りの存在も思わず恐怖に声を零す。


零人は数秒沈黙しながら殺気を放った後、割れた空間を修復しながらニヤリと笑う。


「神気取り野郎、上等じゃねぇか。つまりは異世界から強ぇ奴ら召喚してゲームするだけだろ? ならその勝負は正々堂々と受けてやる」


『っ、ふぅ──』


「ただし、ルールを違えたり俺が悪質と判断したら……俺や霊管理委員会、異世界連合軍でてめぇをこの世界ごと消す。それを忘れるな」


『は、はい……』


その情けない返事を境に天の声は途切れた。


一通りの喧嘩を売ると、零人は目線を落として少女に話しかける。


「あんた、名前は?」


「──紫苑、氷雨紫苑だ」


「氷雨か。よし、安心してくれ氷雨。ルール上、戦いはするが万が一の時があったらいけねぇ。俺は霊能力者だからお前が死んだままになっても必ず助けられる」


「ほう、それはつまり私に対しての宣戦布告かな?」


「あっ……」


零人は自分の世界での常識などを忘れていた事が仇となり、ただの親切心が挑発と取られてしまった。


だが紫苑は冷静さを崩さないまま、身構えて戦闘態勢を整える。


「時間が惜しい、早く済ませよう」


「おう、分かった。じゃあ俺もやらせてもらう」


(とは言ったものの、まだ委員会じゃ状況把握が追いついてねぇな。俺の制限がかけっぱなしだし、この場合は手の内を隠しておいた方が良いか)


今の零人は上級、エレメントクラスファングの魔獣の群れを一掃する程度の能力や霊力のみ。


異世界の強者という不確定要素の多い存在を前に慢心はしなかった。


「では先に仕掛けさせてもらう」


「ん?」


紫苑がその一言を発すると突如、零人の目の前には氷の杭が宙に並んでいた。

そして冷たい風と共に氷の弾が射出される。


氷弾が零人の眉間目掛けて飛んでくる最中、彼は敵の情報分析を進めた。


(相手に霊力やそれらしいエネルギーはない。ってことは物理法則に近い能力の説が高い……なら実体干渉能力を高めて撃つか)


零人は自分の目の前に赤い魔法陣を出現させた。

魔法陣は自律して回転を開始し、氷が魔法陣に達するコンマ数秒前に零人は右拳で魔法陣を殴りつける。


九山八海を貫くディアフェルノ覇の一撃リーグマァ!!」


その名の詠唱と共に不可視の圧力は解放され、氷の弾はおろか空気も巻き込んでその範囲の何もかもをを吹っ飛ばした。


だが紫苑には間一髪の所で避けられた。


その隙を逃さず零人は間合いを詰めに飛んでいった。

だがしかし──


「それを待ってた」


紫苑は零人が10m付近まで接近した刹那、能力を発動して零人の目の前に氷の障壁を生成する。



「そのまま眠ってて」


障壁は急速に範囲が広がり、1秒にも満たないまま零人を骨の髄まで氷結させた。


零人の固まった姿を確認すると、紫苑は安心したのか吐息を零して安堵する。


勝負に勝ったと確信した紫苑はこの後はどうすれば良いのかと悩んでいた。


「なるほどな、お前の能力のタネは理解したぜ」


「──ッ!!」


背後からのその声に紫苑は恐怖で彼女の肌に鳥肌が立つ。

反射的に距離を取り、心臓がまだ落ち着いていないまま再び臨戦態勢を取ろうと試みていた。


焦る紫苑を前に零人は自分が体感した能力の考察を語り始める。



「お前の能力、分子運動に直接作用させて氷作ってるだろ」


「!?」


「俺の世界でも似たようなことする奴がいたから何となくそう思っただけだか、図星だったようだな」


「な、何故生きている……あの中にはまだ死体が──」


「言っただろ? 俺は霊能力者、自分の魂や肉体なんて自分でどうとでもできる」


「っ……」


「そして俺は──7つの大罪『怠惰』の能力者、文字通り世界最強の能力者だ」


それは慢心でも虚言でもなくただの事実。

紫苑はその言葉を信じきってはいなかったが、零人の実力とその圧力を目の当たりにして信じざるを得なかった。



しばらく続く静寂の中、両者共に相手の動きを観察して動かない。


緊張が走りピリつく空気の中、紫苑はまた先に攻撃をしかけようと構えた。



だが零人は紫苑が攻撃準備の際の僅かな意識的隙間を突いて瞬間移動した。


彼女の世界が物理法則をベースとした異能力を使うという仮説から、物理法則に反した手段を行使して零人は紫苑の背後を取った。


彼女は鋭い反射神経で振り向きざまに反撃を試みようとしたが、その時には既に遅かった。


零人は彼女の額に人差し指を置き、術を発動させる。


「テレパス・オーバーヘイト」


瞬間、彼女の脳内には凄まじい電撃が走り彼女の脳を焼き焦がした。


その衝撃を受けると紫苑はそのショックで白目を剥きながら失神し、鼻血を大量に出しながら地面に倒れた。


「お前の脳内に大量のデータ電気信号を送らせてもらった。少なくとも普通の生物じゃ耐えられねぇ」


零人はそう言い残すとすぐ様紫苑の体に手を当てがい、念の為の治療として肉体を修復させた。


しかし彼女は地面からの青白い光に飲まれて消失し、再び憎たらしい天の声が空から響いてくる。


『突破おめでとうございます。零人様はもちろん、紫苑様も無事に別のステージへお送り致しますのでご安心下さい』


先程の零人の威嚇に怯えているのか、神気取りの存在は零人に何かを言われる前に説明を始めた。


『そして先程は伝え忘れてしまったのですが、相手のリタイアや気絶でも勝利とさせて頂いています』


「なんだよ、それを先に言ってくれ。俺は殺人鬼じゃねぇんだぞ」


『もっ、申し訳ございません』


零人の態度と希薄に野郎もタジタジになるが、零人も紫苑と同じく青白い光の中に包まれて転移が始まる。


「まぁもし全員が無事に元の世界に帰れたら深入りはしねぇから、くれぐれも変なことは考えんなよ────」



そんな言葉を残して零人は新たな戦場へと送り込まれる。

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