カラスクラブへようこそ

清涼

第1話 浮気してくれ

妻がそばに来ると、殺気を感じます。何かされるのではないか、と。

どこかを触られるのではないか、と。

妻はまるで、中学生の男子みたいに性欲に満ちたへんな生き物になってしまいました。

私は、へとへとなのです。

子供を三人ももうけ、それも男三人、年子です。

次々に金がかかり、私はギリギリまで働いています。

もちろん、妻もパートで稼いでくれますが、あくまでも扶養の範囲内です。

『これ以上働くと、損が出る』

妻は、そう言って、いつもキャラクターの女子高校生が持つみたいな手帳とにらめっこをして、シフトを調整しています。

扶養なんか飛び出して働けよっ!

何が損だ。

もっと稼いでこい、もっと働け。

夜の生活のことなんか、忘れるくらい。

足腰が立たなくなるまで、労働してこい。

私は、そう言いたいです。

妻が扶養の範囲内にこだわる理由は、

『やっぱり、家庭第一にしたいの。これが限界』

一番上が大学三年、そして、二年ときて、一番下は高校中退のヤンキーです。

もう母親にそばにいてほしいなんて、思っていないのですよ。

そりゃね、メシを作ったり、掃除したり、男三人ですから、汚れますよ、ひどいです。

だけど、あのあふれんばかりの性欲を私にぶつけられるのは・・・。

これっぽっちも欲しくありません。

理由はわかりません。

男の更年期ってやつでしょうかね。

それに、うちには何せ男が三人いて、それぞれに彼女がいて、みんなうちに平気で連れてきて、泊めているのです。

妻は、ニコニコしてメシなんか出して、馬鹿じゃないのかって。

家政婦つきの無料ラブホテルじゃないっていうんだよ。

だけど、私は、怒鳴る気力がないのですよね。

実は・・・、私は会社で今、やばくてね。

いや、悪いことをしたわけでも何でもないのですが、過疎地に単身赴任に行ってくれって打診されていて、それが私をますます萎えさせるのですよ。

『お前は本当に仕事が完璧だ。お前は、業者に受けがいい。お前を出せと言われた』

同期で真っ先に偉くなった所長の田上は、そんな風に言います。

私も馬鹿だから、その時には、

『おう』とか『いいぞ、どこでも行くぞ』

なんて言ってしまうのですよ。

だけど、いざ、会社を出て、社用車に乗り込んで静寂が訪れると、

しなびた風船ですよ。

ああ、何であんなことを言ったのだ。

私はもう、内勤になりたいのに!

もう、足で稼ぐのは、ほとほと疲れきったのだ、と。


家に帰れば、妻が隙を見つけては股間を触ってきます。

『硬くなるようになったか?』

とか

『下半身鍛えているか?』

なんて聞いてきます。

扶養範囲内、なんて手帳を見ている暇があるなら、浮気でもすればいいのに、と最近は本気で思ってしまいます。

夫の浮気を寛大に見逃す妻の気持ちがこのごろになって、しみじみわかります。

どっかで処理してこいってことなのですね。

本当にうっとおしい。

私が内面で何を抱えているか、私が今、どんな気持ちで毎日を過ごしているかなんて、妻にはまったく興味がないのです。

ただ、あそこが今日は朝立ちしたのかどうか。

触ったら、敏感に硬くなるかどうか。

いざ、その現場で、挿入できる硬さをキープできるかどうか。

何故、すぐにふにゃふにゃになってしまうのか。

若いうちには、獰猛なケモノみたいにムテキだったあなたが、今はどうしてそんなにしょぼくれてしまったのか。

何が悪いのか。

食べ物を工夫する。

飲み物を工夫する。

いや、運動なのか。

妻の関心はそこだけです。

ただ、萎える原因の最たるものは、君の存在と、その恥じらいのない中年女の性欲丸出しの、痴漢みたいな行為だ、と叫びたい。

だけど、無理です。

妻は、若いとき、それなりにかわいくて、それなりにちやほやされるタイプだったから、今でも自分は何をしても、かわいいと信じきっているのですよ。

そんな時でした。

私が彼女に会ったのは・・・。

『ヘッドハンティングをしています。あなたが必要です』

ある朝、駅のホームで、一枚の名刺を渡された。

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