第21話

 ラブホテルの自動ドアをさっさと通過する。ここは大都会・池袋。きっと誰かしら知り合いが歩いていてもおかしくはない。ハルカに見られていたらどうしよう。それこそ教授とか先生とかに見られてしまったらどうしよう。でも、もう灯りが多くついているサンシャイン通りに混ざりこめる。よし、あともうちょっと………。


「僕の運命の相手! 双葉ヒカリちゃぁあああん!」


「ぎゃあああああああ!」


 後ろから素っ頓狂な声が聞こえてくる。誰だ。運命の相手って……まさか今日の寿ダイゴ!サンシャイン通りから出てきたわけではなく、後ろ。ということは、もしかして、ラブホテルから出てきたのを目撃している可能性がある?それは恥ずべき事案だ。逃げなきゃ個人情報が晒される。走る。走る。


 しかしさすがは天才起業家。私の行く先を黒ずくめのメンズたちに先回りされ、阻まれる。黒いサングラスにスーツを着た、イカツイおっさんたち。ルパンのような気分だが、残念ながら変装スキルは持ち合わせていない。おとなしくお縄につくことに。黒メンズたちが、私にいろいろ指図する。


「今から焼き肉屋に連行します」


「ええ……明日一限なのに……」


「ご心配なく。ゲストハウスを用意し、送迎は我々が担当いたします。何しろ、あなたはボスのお気に入りなのですから」


「分かりました………」


 この天才起業家。もう夜の十一時だというのに、焼き肉屋に行こうとか、冷静に言って頭がだいぶおかしい。というか、明らかにラブホまで追ってきている。どう考えてもストーカーとしか言いようがない。あ、やっぱりカバンに変なGPSみたいなやつついているじゃない。

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