【創作BL】悪い大人と不良少年の歪んだ恋愛
猫足
第1話 あの日の罠
黒瀬さんと初めて出会ったのは、ある寒い秋の日の夕方。
東京という街に、自らの孤独感に、飲み込まれそうになっていた俺のことを、あの人だけが、見つけてくれた。
「左手の十字架なんて、もう捨てなよ」
荒んでいた日常に、その光は突然差し込んだ。
◇
【S】でリーダーと呼ばれていた頃の俺は、常に孤独だった。そしてそんな孤独感に、いい加減うんざりしてもいた。
退屈しのぎに喧嘩を繰り返しては、【S】の名を街に知らしめていくだけの日常。その先に何があるかなんて考えなくてもわかる。
詰まるところ、なにもないのだ。
頭では分かっているのだが、そんな惰性の日々からはなかなか抜け出せない。だから俺たちは大人数で群れては、自分の居場所を求めて街をさまよい歩いていた。
そんなとき、ふいに雑踏の中から俺を呼ぶ声がした。
「天田リュウくん、だよね?」
顔を上げるとそこには、見慣れない人物が立っている。
人々がせわしなく通り過ぎていく東京の街の中で、ひとりだけ立ち止まって俺を見つめる人。
それは細身で色白な、おそろしいほど眉目秀麗な男だった。
身にまとう黒があまりにもよく似合っていて、俺は思わず目をみはる。
「…あんた、誰?」
「はは、そんな怖い顔しないでよ、別に怪しいものじゃないから」
軽く笑うと、その人は黒瀬アキラと名乗った。どこかで会った人間かとも思ったが、どうやら聞いたことのない名前だ。
まったく知らない人物がなぜ俺のことを知っているのか疑問に思ったが、【S】のリーダーとなってから、この街には俺の名前を知る人が多くいるのも確かだ。
俺は周囲にいた仲間に、先に適当な場所へ行くように告げる。
どういった用があるのかは知らないが、これで会話を聞かれる心配もないだろう。
「へえ。その黒瀬さんが、俺になんの用?」
こちらから質問してみたが、答えてはもらえなかった。
しかし、その代わりに彼が発した言葉は、俺の鼓膜に焼き付いて離れないほど衝撃的なものだった。
「ただ、自分の孤独を紛らわせるためだけの仲間。そんなの、無意味だとは思わないか?」
「……っ!」
はっとした。
俺の孤独に気づいてくれた人なんて、これまでひとりもいなかった。
【S】を利用して寂しさを紛らわせているだけのこの俺を、無意味だと笑ってくれた人なんて、これまで、ひとりも。
あまりに的を射た言葉を言われたせいで、身動きがとれない。
そんな俺へ、黒瀬アキラはさらに口を開く。
「左手の十字架なんて、もう捨てなよ」
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