戦後探偵・猫目石芽衣子の冒険記録

冬野氷空

特区令嬢誘拐事件に関する調査報告書

特区令嬢誘拐事件に関する調査報告書 前書き

 第三次世界大戦が事実上の終結を迎えてから一年が経過した。軍医として従軍していた私は、復員してからとある人物の元で探偵助手を務めている。これから読者諸君に読んでいただくのは一種の調査記録だと思って欲しい。

 そもそもなぜ私がこのような形で公表しようかと思ったかというと、それは事件の被疑者の初公判がつい先日ようやくにして始まったからである。その事件こそ、何を隠そう戦後あれほど世間を騒がせた「特区令嬢誘拐事件」なのである。

 私は知り合いのとある新聞記者の薦めでこの文章を、事件当時の手記と顔を合わせながら執筆している。よって実際の報道や記録と厳密には異なる部分が多々あるかもしれないが、そのあたりは人間の記憶のこと、どうかご容赦いただきたい。もっとも、多少のことを覚え間違い、書き間違えていたとしても、事件の肝要な部分には影響しないから、その点だけは安心して欲しい。

 さて、事件が発生したのは大国同士の休戦協定が結ばれてからおよそ半年がたった秋の終わりころである。私は名探偵・猫目石ねこめいし芽衣子めいこと奇妙な同居関係になってから一週間ほどが経過していた。私が探偵助手として初めて事件調査に携わった案件は、一本の唐突な電話から幕を開けることになる。

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