グラスの妖精

奈々星

第1話

僕は中学1年の時からこの眼鏡をかけている。


あれから5年が経って現在は高校2年生。


もうあの頃からかなり視力が下がっている。

では何故僕はまだ同じ眼鏡を使っているのか。答えは簡単で、この眼鏡でないと見えないものがあるから。


おかしなことを言っているようだが、簡単に言うとこういうことなのだ。


この眼鏡をかけた僕には女の子が見える。

彼女は名前を聞いても答えてくれないがいつも僕に優しく話しかけてくれる。

(一つだけ文句を言うとすれば人がいないところでして欲しい…)


彼女は眼鏡を外すと見えなくなり、その声も聞こえなくなる。


だから僕は視力が低下しすぎて全く眼鏡の働きをしていないこの眼鏡をお風呂や寝る時以外はずっとつけている。


しかし最近限界が来てこの目の悪さに困ることが増えてきたのだ。


先日、定期試験の結果が酷すぎるという理由で家に電話がかかってきた。

詳細を先生から聞かされた母は僕の部屋に殴り込み、どうしてそんなに成績が悪いの?と詰め寄ってきた。


僕は本気出してないだけだよ、と子供の言い訳のようなことを言う。


母は本気なんて出さなくても定期試験で平均点くらいは取れるでしょ!などと言う。


母は少し頭がいいから定期試験はクラスの上位を争うものだと思っている節がある。


僕は躍起になって黒板の字が見えないんだよ!と言い返す。


すると母は眼鏡を変えに行こうと言い出した。


僕は今の眼鏡から変えたらあの子が見えなくなるのではないかと心配するが大丈夫だろうと思い、来週末に変えに行くことが決まった。


眼鏡を変える当日。


僕はその日もあの子と一緒に話しながら学校に行き、学校でも分からない質問はあの子が耳打ちする通りに言うと先生に褒められるほどだった。


こんな毎日がなくなってしまうかもしれないと思うと少し寂しいが、今のふたりの絆なら

きっとこれからも今の関係が続くと思った。


そして僕は眼科で様々な診察を受け今の視力を数値化して、新しい眼鏡を発注した。


新しい眼鏡を取りに来るのはまた1週間後。

僕はその間ずっと同じことを祈っていた。


あの子が消えませんように。

あの子と会えなくなりませんように。

あの子と離れ離れになりませんように。

あの子とずっと一緒にいれますように。


神様にしつこい、鬱陶しいと思われないように言い回しを変えて何度も何度も丁寧に丁寧にお祈りをした。


そして運命の眼鏡を取りに行く日。

お店で新しい眼鏡を受け取り僕は試しに新品の眼鏡をかけてみる。


あの子の姿はない。

それから外して今まで使っていた眼鏡で回りを見渡すがあの子はいない。


僕は血眼になってその場をぐるぐると見渡しあの子を探す。


どこだ、どこだ、どこだ、どこだ。


その日からあの子は僕の前に姿を見せなくなった。


でも今でもたまに彼女の気配を背後に感じることがある。


その度に僕は彼女へのせめてもの恩返しとしてにっこりと微笑んであげている。

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グラスの妖精 奈々星 @miyamotominesota

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