SSS

エリー.ファー

SSS

 失う夢を見た。

 余りにもリアルだった。

 私には積み上げてきたものが多すぎて、辛く悲しい夢だった。

 幸福の質量を調べるような人生であるからして、気が付けば自分の身の周りを探してしまう。

 遅すぎることはない、という言葉に騙されて、早くからスタートしている者たちに食いものにされる。

 そういうことが恐くて逃げてしまったのは事実だ。

 だから、失わないように生きてきた。

 自分が自分のままいられるような場所を探してきた。そのくせ、仮の場所だと言い訳をするくらいに賢くなってしまった。

 世間から得た評価はSSS。

 悪くはないが、決して良くはない。

 妥協の産物で手に入れた、その評価の名は。

 SSS。

 彼女はAをとるのせ精一杯だそうだ。

 私はその点、SSSを取ることは容易にできる。

 不思議なものである。

 あれはできるのに、これはできなくて、それは簡単なのに、ああなると途端に難しくなる。

 私にとって当たり前のことが、こんなにも世間と合致している。たったそれだけのことである。

 彼女は私のことを余り好きではない。

 私が努力を余りしていないところが気に食わないようである。それは、納得できる。もしも、私が彼女の立場であったら同じような考えに至るだろう。

 所詮は、立場か、能力か、才能だ。

 私と彼女に生まれたこの差は、運以外のなにものでもないのである。

 彼女はきっとそんなことは分かっているのだ。それなのに、その部分を簡単に自分の中で折ることができない。

 苦労をしている。

 しかし、私とは違ってそうやって。

 努力する機会を得ている。




 SSSという評価が喉から手がでるほど欲しい。

 そのために、幾つもの犠牲を払ったのだ。本当だ。嘘ではない。

 私は自分のことを失ってしまうくらいの時間と労力をかけたのだ。

 けれど、SSSという評価には至らなかった。

 何故なのか。

 涙が出る。

 どうにかして、結果を出したいと奮闘したのに、呼吸をするように取るような人間だっているのだ。

 評価基準も曖昧であるというのに、何故に、こんな思いにならなければいけないのだろう。私は諦めてしまえばいいのに、何故に、諦めるということすら満足にできないのだろ。

 失いたくないのだ。

 私はたぶん、もう手に入れたと勘違いしている、SSSという評価をもらった未来を手放したくないのである。自分の成功した姿をリアルに想像したことによって、もうやめられなくなってしまったのだ。

 悲しいことに、それが事実なのである。




 SSSという評価をとった。

 努力をしたのだ。

 だから、なんだと思う人もいるだろうが、それがとても大切なのである。

 自分を大切にしたい、と思えるようになった。

 結局、他人からの愛の一つや二つがなければ、自己愛もまともに兼ね備えることもできないのだ。

 人間は孤独である。

 本当だ、嘘ではない。

 でも、それを埋め合わせることもできる。

 評価だ。

 良い評価さえあれば、足りないばかりの人生を良いものであると思えるようになる。これだけでも十分だと思えるようになる。

 どうにかして、自分を見失わないようにするための指標とする人もいる。

 SSS。

 とってしまえば、別に大したことはない。

 別にこの世に自分以外に誰もとっていないわけではないから、一番であるというわけでもない。

 SSS。

 これより上はない、と形式的な評価がなされたということだけである。現実ではない。閉じられた世界のルールでしかない。

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