瘴気の謎⑪~黒い大樹~
澄人がはざまの世界にある黒い巨木を見つめております。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
直後、湖の中央にあった黒い大樹が脈打ち、湖全体が震え始める。
──ゴォオオオオッ!!!!
まるで火山が噴火するかのように、黒い大樹が大量の黒い炎を噴き上げた。
その勢いたるや凄まじく、周囲が一瞬にして真っ暗になる。
「これは……まずいぞ!」
俺はすぐにその場を離れようとしたが、黒い蔦に足をからめとられてしまい、身動きが取れなくなった。
そのまま引きずられるようにして、黒い大樹の根元に運ばれてしまう。
「あぁああああっ!! 解けない!!」
俺の体を蝕むように黒い蔓が巻き付き、体中を締め上げてくる。
全身に焼けるような痛みが走り、思わず叫び声を上げてしまった。
《キテクレテアリガトウ》
頭の中に直接響くような声が聞こえたかと思うと、黒い蔓が俺の意識を奪っていった。
「……んっ」
俺は暗闇の中で目を覚ました。
どうやら気を失っていたらしい。
体の感覚を確かめるようにゆっくりと起き上がると、俺の周りに黒い植物が生えている。
俺の目の前には黒い大樹に寄り添うように小さな苗木が生えていた。
苗木の周囲から黒い蔦が伸びており、まるで俺を逃がさないと言わんばかりに拘束している。
切り払おうために剣を構えると、苗木がみるみる姿を変えていく。
「起きたか、クサナギスミト」
「ミュルミドネスなのか?」
俺がそう尋ねると、手のひらサイズ程にまで小さくなったミュルミドネスがこちらを見上げる。
その姿は以前とは違って黒く、瘴気の影響を受けているようだった。
「そうだ……いや、もうミュルミドネスという私は消されてしまった……」
「どういう意味だ?」
俺が聞き返すと、ミュルミドネスは寂しげに呟いた。
「お前に敗れて力を失った私はこの世界で再起を試みた……しかし、瘴気に染まったこの樹に囚われてな……」
ミュルミドネスはそう言うと、目の前に生えている黒い大樹を見つめる。
いつの間にか俺を拘束していた黒い蔦は解かれ、自由の身となっていた。
「この樹はなんなんだ? モンスターを吸収しているように見えたぞ?」
俺はミュルミドネスから情報を聞き出そうと試みる。
ミュルミドネスは俺をじっと見つめたまま動かない。
「おい、なんとか言ってくれよ」
「この樹に対抗するため、私は異界で七色の森を広げたのだ」
俺の言葉を無視し、ミュルミドネスは独り語りを始める。
ミュルミドネスの話によると、黒い大樹は今も瘴気の濃縮して異界へ送っている。
元々は瘴気を浄化する目的で植えられた黒い大樹は、今ではこのようにモンスターを集めて黒い煙を放出している。
そのため、ミュルミドネスは七色の森を広げ、七色の樹で瘴気を浄化しようと試みたらしい。
しかし、神性の付与には成功したものの、森が成長するための栄養が足りずに人を襲った。
「目的はわかった。ただ、動機がわからない」
ここまでミュルミドネスの話を聞いて何度か眉をひそめたものの、瘴気を消すために起こした行動は理解できた。
だが、そこまでして瘴気を消そうとした理由については一切触れていなかった。
俺がそのことを指摘したら、ミュルミドネスは俯いて黙り込んでしまった。
「なぜ答えられない?」
ミュルミドネスが話そうとしないので質問を続けると、彼女は観念したかのように口を開いた。
「……それは……私が自分の世界を持ちたかったからだ……」
ミュルミドネスは言葉を詰まらせながら、絞り出すように答えた。
「自分の世界? なんでそんなものを?」
「どんなに小さくても、私は自分の世界……神域が欲しかった」
「なぜ?」
「神になりたかったのだ……不滅の存在となり、永遠の時を得たかった」
ミュルミドネスは自分の夢を語り終えると、再び沈黙する。
こいつの話を信じるならば、本気で瘴気を消そうとしていたのだろう。
しかし、俺が七色の森と樹を消滅させたため、失敗に終わった。
(ミュルミドネスは最後、必ず復活すると確信していたのに、どうしてこうなったんだ?)
どうして彼女はこんなにも追い詰められているのか。
その理由を知る必要があると思った。
「それじゃあ、お前は──なんだっ!?」
「もうか……早いな……」
俺が質問を続けようとしたら、黒い大樹が再び突然激しく脈動し始めた。
──ゴォオオッ!!
まるで噴火する火山のように大量の黒い煙が噴き上がり、周囲を真っ暗にする。
煙が俺たちに降りかかる直前に黒い蔦が視界いっぱいに広がり、黒い煙を防いだ。
黒い蔦がミュルミドネスから伸びており、悲しそうな表情でこちらを見上げていた。
「これが瘴気の濃縮だ。この煙を吸うと自我を保てなくなる」
ミュルミドネスはそう言うと、黒い大樹の根元に向かって歩き出した。
俺もその後を追って、大樹に近づいていく。
「私もこの樹に取り込まれた……神性を持っていたため辛うじて自我は保てているが……時間の問題だろう……」
ミュルミドネスは大樹の幹に触れると、諦めたように呟く。
すると、ミュルミドネスの体が黒い光に包まれ、さらにに小さくなっていった。
「おいっ! 大丈夫なのか?」
俺が慌てて駆け寄ると、手のひらよりも小さくなったミュルミドネスが悲痛に笑顔を見せた。
「私は消えるとする……もう……疲れてしまった」
ミュルミドネスはそう言って目を瞑る。
俺はミュルミドネスへかける言葉が見つからず、その場に立ち尽くしてしまった。
ミュルミドネスが消えようとしているのに、何もできない自分が歯痒くて仕方がない。
「さようなら、クサナギスミト……最後に話せてよかった……」
「待て、お前は自分の世界ができればそれでいいんだよな?」
俺は最後の別れの言葉を口にしようとしたミュルミドネスを呼び止める。
ミュルミドネスは不思議そうにこちらを見つめ、首を傾げた。
「あぁ……そうだが……?」
「なら、俺の賭けに乗ってくれ」
俺の提案を聞いたミュルミドネスは目を見開き、驚いたような顔をしている。
「クサナギスミト、何を言っているのだ?」
「上手くいくかまったくわからないけど、俺を信じてくれないか?」
俺はミュルミドネスの目を見つめ、真剣に訴えかけた。
ミュルミドネスは目を閉じ、少しの間考え込む。
そして、ゆっくりと目を開けると、決意を固めた瞳でこちらを見た。
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ご覧いただきありがとうございました。
次回の更新時期は【本当に】未定です。
更新を見逃さないためにも、この物語に興味のある読者さまは、ぜひ物語の【フォロー&いいね】をよろしくお願いいたします。
これからも頑張るので応援よろしくお願いします。
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