異界の異変解決⑦~束の間の休息~

メーヌが建ててくれた建物で澄人たちが休息をとります。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「お母さん早く中へ入ろうよ! もう休みたい!」


「ダメですよ。まだ許可が下りていないんですから」


 困り果てていた母親に近寄り、アイテムボックスから大きな袋を取り出しながら話しかける。


「入ってもいいですよ。この中に食べ物が入っているので配ってください」


「神の……使者さま……ありがとうございます!!」


「使者さまありがとうございます!!」


「みなさんも入って休んでください! 精霊が見張っているのでこの建物内は安全です!」


 子供たちだけでなく、大人たちも感謝の言葉を口にしながら建物の中へ消えていく。


(この様子なら大丈夫そうだ)


 最後に中へ入る人たちを見守るために残ったリリアンさんと兵士さんたちへ笑顔を向ける。


「皆さんも中へ、リリアンさんはお話いいですか?」


「もちろんです! お任せください!」


「よろしくお願いしますね。それじゃ行きましょうか」


 リリアンさんを先頭に入ったのを確認してから俺も建物へ入り、扉を閉めた。


「みなは奥で休んでいてくれ、私一人で平気だ。あと──」


 中に入ったリリアンさんは俺を待っている間に兵士さんたちへ休むようにと指示を出していた。


 確認済みのことだったが、兵士さんの中に見知った顔が一人もいない。


 リリアンさんが指示を出している間、俺はどうしたものかと考えていた。


(ミュルミドネスに勝つ方法を考えないとな……)


 俺が一番頼りにしている草薙の剣による神の一太刀がミュルミドネスには効かない。


 グラウンド・ゼロは効いていたが、自爆覚悟の攻撃を受け続けるほど相手もバカではないだろう。


(攻撃を受けた後の回復力も脅威だ。いったいどうやって倒すんだ?)


 悩んでいると、リリアンさんが俺の方へ歩いてくる。


「使者さま、お待たせいたしました」


「指示お疲れ様です。こちらへどうぞ」


 一旦、頭の中を切り替えて、リリアンさんの話をゆっくりと聞こうと思う。


 案内したのは別に作っておいた部屋で、中には木でできた椅子とテーブルが置いてある。


 俺が座るとリリアンさんが緊張した面持ちで対面に腰かけた。


「早速ですが、何があったのか教えていただきますか?」


「わかりました……使者さまが首都を去ってから、3日も経たない間に再びモンスターの集団が現れたのです」


 リリアンさんは重く口を開き、俺が異界を後にしてからのことを話し始める。


 モンスターに襲撃された首都では開拓者が抵抗したものの、一週間も持ちこたえることができずに陥落。


 その時に、指導者である【クサナギさん】は逃げることを拒否し、リリアンさんのお父さんも神器を使ったため、二人とも亡くなった。


 それから民や兵士を指揮することになったのがリリアンさんになり、今日まで必死に生き残っていたらしい。


「使者さまが現れる直前、私は……死を覚悟しました」


「間に合ってよかったです。もう少し早く来るべきでした」


 サラン森林の異変を知っていて俺は異界の探索を後回しにした。


(あの時に異界ミッションの条件開示までの時間を提示されなければ……待てよ……タイミングが良すぎる……)


 条件開示の時間が出なければ、俺はガーディアンオーガと戦ってからすぐに異界の調査をしただろう。


 モンスターがミッションに介入してくるなんてありえないと考えながらも、リリアンさんの話を聞き続けた。


「使者さま、どうかこれを受け取っていただけますか?」


「……これは神器……ですか?」


 リリアンさんが大切そうにテーブルへ置いたものは二つの神器だった。


 一つはリリアンさんのお父さんであるヨルゼンさんが持っていた【八咫鏡】だったもの。


 俺が夏さんに渡した八咫鏡を作ったことで、これは使えなくなったはずだ。


「私が至らないせいで、八咫鏡を使うことができておりません……これが使えればもっと効率的に逃げれたはずでした……」


 俺がジッと八咫鏡だったものを見ていたことで勘違いしてしまったようだ。


 申し訳なさそうな表情を浮かべているリリアンさんへ笑顔を向けた。


「気にしないでください。人には向き不向きがあるんですよ。これはヨルゼンさんの形見としてリリアンさんが持っていてください」


「ありがとう……ございます……お父様の形見として大切に……します……」


 泣き出しそうになったリリアンさんが涙を流す前に話題を変えることにする。


「こっちの八尺瓊勾玉は結界石を作り出さないんですよね?」


「はい……その通りです。そのため、私たちは逃げることしかできませんでした」


「なるほど」


 俺はクサナギさんの持っていた八尺瓊勾玉(陰)を手にし、鑑定を行った。


【八尺瓊勾玉【陰】休止中詳細】

スキル1:【結界石製造(青)】

スキル2:【結界石製造(赤)】

スキル3:【結界増強】

スキル4:【結界開放】

※所有者不在のため休止中です

 結界石が生産されません


「クサナギというのは役職ですよね? 任命式はどんな感じで行われるんですか?」


 所有者になる方法が不明なため、ヒントになりそうなことをリリアンさんへ質問をする。


「はい。首都にある大聖堂の祭壇の前で、女神さまより直々に任命されると聞いております」


 リリアンさんが言うには、クサナギという名前は大聖堂の地下にある祭壇で【女神】から任命されるらしい。


(つまり、そこに行けば何かのヒントがあるわけか……)


 リリアンさんは俺が黙り込んでしまったことに不安を感じたようで、恐る恐るという様子で話しかけてきた。


「……あ、あの……使者さま?」


「すみません、考え事をしていたものですから……それで……気付かれたか……」


「え?」


『澄人!! 敵だよ!!』


 俺の雷に察知したのとほぼ同時にメーヌが敵の接近を知らせてくれた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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