臨時世界ハンター会議⑤~澄香の結界~

澄人が澄香の結界を打ち破ろうとしております。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「これで決める……ライトニング・ノヴァ!!」


 俺の右手から解き放たれたのは、今までにないほどの巨大な稲妻だった。


 それは、周囲の空間をゆがめるほどに圧縮され、稲光を放ち続けている。


「いけええええええぇえええ!!!」


 俺はその一撃をお姉ちゃんへ向けて放った。


 稲妻は轟音を響かせて結界に衝突し、衝撃で地面が大きく揺れる。


「これで……どうだ……」


 肩で息をしながら目の前の光景を眺めていると、お姉ちゃんが両手を振り払うように動かして稲妻を後方へ逃がした。


 逸れた稲妻は地面をえぐりながら轟音とともに去っていく。


 残っていた魔力と体力をすべて消費した攻撃だったため、姿が元に戻ってしまう。


(負けたくない! まだ終わっていないんだ!!)


 お姉ちゃんが立っているため、俺が先に倒れるわけにはいかない。


 今にも膝から崩れそうな体に活を入れ、剣を構える。


「澄人、あなたはすごいわ」


「……」


 俺はもう動けないため、お姉ちゃんの言葉を聞き流しながら呼吸を整える。


「正澄さまの攻撃を全部受け止めたのに、あなたのはそらさないといけなくなったわ……強くなったわね」


 お姉ちゃんは俺へ笑顔を向け、腕をだらんと下ろす。


 その腕は肘から先が真っ黒に焦げており、服もボロボロになっていた。


「あなたの……勝ち……よ」


 そう言い終わると同時にお姉ちゃんは気を失うよう倒れてしまう。


 俺は慌ててお姉ちゃんへ駆け寄り、抱きかかえた。


「お姉ちゃん!!」


「…………」


 お姉ちゃんは目を閉じたまま返事をしてくれない。


 手を握ろうとしたが、黒焦げになっている腕の手首から先は失われていた。


 辛うじて心臓は動いているが、今にも止まってしまいそうだ。


(すぐに神の祝福を!!)


 お姉ちゃんを治すため、俺は魔力回復薬を使ってから神の祝福を行う。


 すると、お姉ちゃんの傷が見る間に塞がり、失われた手も再生していった。


「んっ……私は…………」


 お姉ちゃんはゆっくりと目を開き、状況が理解できていないようだ。


 俺はお姉ちゃんの横に座り、ため息をついてから声をかける。


「お姉ちゃん、治しておいたよ。違和感ある?」


「え? ……ええ、問題なさそうね」


 俺に言われて気づいたのか、お姉ちゃんは自分の手足を動かして確認していた。


「よかった」


「心配かけてごめんなさい。ありがとう」


 お姉ちゃんはそう言って微笑んでから、境界の空を見つめる。


 その横顔を見ながら、気になっていたことを尋ねた。


「お姉ちゃん、なんで急に俺と戦う気になったの?」


「本当は私の結界の強さを澄人に知ってほしかったの」


「どういうこと?」


 お姉ちゃんは恥ずかしそうに膝を抱え、顔を伏せながら話し始める。


「私のことを……澄人に認めてもらいたかったの……その……最近、澄人の力になれていないような気がして……」


「そんなことないと思うけど……」


 俺は首を傾げるが、お姉ちゃんは納得していないようで頬を膨らませていた。


「二つ名を持った人を三人も勧誘してきた澄人が悪いのよ」


 お姉ちゃんはいじけたようにそっぽを向いてしまう。


「そんなこと言われても、みんな俺がスカウトしたんじゃなくて、向こうから来てくれたんだ」


「私だって……頑張ってきたのに……それなのに、澄人は新しい仲間を簡単に増やしちゃって……楠たちも最近は……」


 お姉ちゃんは座ったまま俺へ背を向け、ブツブツと呟いている。


 俺は拗ねてしまったお姉ちゃんへ苦笑いを浮かべながら、言葉を返した。


「俺はハンターになってから、ずっとお姉ちゃんに助けられてきたんだよ」


「…………」


 お姉ちゃんがこちらを向いてくれないが、その背中へ真剣な表情で言葉を続けた。


「お姉ちゃんが無茶をする俺のことを文句も言わずにサポートしてくれたから、今こうしていられるんだ」


「……澄人」


「だからさ―――」


 ようやくこっちを向いてくれたお姉ちゃんの目を見て、俺は自分の気持ちを伝える。


「これからはもっとお姉ちゃんに頼らせてもらうね」


「任せなさい。夏にも声をかけてあげてね」


 俺が笑顔で伝えると、お姉ちゃんは目に涙を溜めて嬉しそうに笑っていた。


 そして、いつもの笑顔で俺の頭を撫でてくれる。


「ふふっ、澄人も立派になって……本当に……嬉しいわ」


「やめてよ、子供じゃないんだから」


 俺は照れ隠しにお姉ちゃんの手を振り払おうとしたが、優しく抱きしめられてしまい、動くことができなかった。


「あ、そうだ」


 夏さんの話題を出されて急に要件を思い出してしまった。


 いきなり声を上げたことで、お姉ちゃんは俺の体を離してくれる。


「どうしたの?」


「夏さんに調べてほしいことがあるんだった……もう帰っちゃったかな?」


「あー……そうね。もうこの時間なら家に帰っていると思うわ」


「じゃあ、境界の処理をしてからワープで家に帰ろうか」


「そうしましょう」


 俺とお姉ちゃんは立ち上がり、境界内に存在する貴金属の回収をすることにした。


 メーヌの力を借りれば一瞬で終わるため、お姉ちゃんには先に外へ出てもらう。


「もう家にいるのね? 澄人が聞きたいことあるんだって、今から帰るわ」


 作業を終えた俺が境界から出ると、お姉ちゃんが誰かと電話をしていた。


「うん、わかった。またあとでね」


 お姉ちゃんは通話を切り、俺へ笑顔を向けてくる。


「澄人、夏は家にいるみたいよ」


「ありがとう、お姉ちゃん。じゃあ、帰ろうか」


「お願いね」


 俺は確認の電話をしてくれていたお姉ちゃんへお礼を言い、そのままワープで帰宅した。


◆◆◆


「おかえりなさい澄人さま!」


「た、ただいまです……」


 家に着くと、玄関で夏さんが出迎えてくれて、元気よく挨拶をされた。


 俺は面食らいながらも返事をし、靴を脱ごうとしたところ、夏さんがジッとこっちを見ていることに気づく。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


ご覧いただきありがとうございました。

次回の更新時期は未定です。

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