鎧袖一触

「あのぉ~大丈夫ですかぁ?」

 赤い目の妖艶な女性がこちらをのぞく


「ぁ……ぇ……?」


「んー?もしかしてアルフレッド様ではないですかぁ!?」


サロとフレッドはラニャの家で顔見知りだった。

サロがサキュバスなのは、フレッドはまだ知らない。


「ぁ……の……」


「どこか痛いんですか?

 ん~?なんで呪いを受けてるんでしょう?

 しかもここ一帯に【人払いの結界】が張られてますねぇ?」


「サ…ロ……さ……」


「あ、もしかしての厄介事に巻き込まれました?

 とりあえず処置しないと死んじゃいますねこれ……。」


「お……ねが…い……アル…バート……を」


「こんな時にご自分よりアルバートさんの心配なんて~素敵ですねぇ♪

 大丈夫ですよ。

 ご主人様の貴重なご友人です。

 死なせはしません。」


 サロはそういうとフレッドをひょいッと肩にかついだ。


 そもそも人除けの結界に入ってこれたのも

 この怪力も彼女が淫魔(サキュバス)だからだ。

 悪魔は人間に想像できないレベルの怪力を持っていたりする。


 サロの背中から黒い翼が生える。


「少し揺れますがすぐ着きますので辛抱してくださいね♪」


 バサッ


 と一気に夜の闇の中に紛れて、街はずれの森へ飛ぶ。


 ・・・・


「ん……?」


 目が覚めるとベッドの上で寝ていた。自宅ではない。


「フレッド!?」


「あ……れ……」


「良かったぁ……」

 抱き着いてくるアルバート。

 何とか生きているらしい。

 身体も楽だった。


 アルにまた会えたことに安心して少し涙が出た。


「甘い空気になってると悪いが、ほれ」

 

 声の主はラニャだった。

 ラニャとは色々と交流があり

 フレッド個人としては検察官リチャードと三人で

 よくチェスやトランプなどの遊興をする仲だった。

 

 ラニャは謎の小瓶を渡してきた。


「……?ここはラニャの家か?」

「そうじゃ。

 サロがぶっ倒れてるおぬしを見つけて連れてきたんじゃ。

 まったく。ほれ、それを一気に飲み干す。話はそれからじゃ。」


 ゴクゴクゴク……


「ん、まずっ……」


「万能の霊薬じゃ。」


「なんにでも大体効くおおざっぱな万能薬ですよぉ♪」

 奥からサロが出てきた。ルーも一緒だ。


「フレッドさん大丈夫?」


「ああ、ルーちゃん。もう大丈夫だ。」


「よかった。」


「ああ。

 サロさんも本当にありがとうございました。

 命の恩人です。」


「偶然でも、本当によかったです。助かって。」


「サロとわしのおかげじゃ……と言いたいがまぁ込み入った話はあとじゃ。

 もう少し休め。アル子もずっとそばにいて寝とらんじゃろ?」


「そうなのか?」


「平気だよ、私は。」


「若い娘が徹夜などいかんぞ。

 ほれこっち来い。

 わしのベッド貸してやる。」


「ううう、すいませんラニャさん。」


「ん。んじゃ後でのアル坊。」


「ああ。助かる。ありがとう。」


 バタン


 どうやら間一髪だったのは本当だったらしい。


 時間の感覚が狂っている。


 今が昼なのか夜なのか。

 カーテンが閉まっていてわからない。


 もう一度眠ることにした。


 ・・・・


「呪いは加速度的に侵攻する」

「君の父親に依頼されてな」

「ヒントは【媒介呪詛】だ」

「君は呪いと戦わなくてはならない」

「呪いで苦しむ姿を…」

「君は呪われて…」

「呪いだ…」

「呪い」

「呪い」

「呪い」

「呪い」

「呪い」

「呪」

「呪」

「呪」

「呪」

「呪」

「呪」

 ・

 ・

 ・

 ・


「うううっ……っくう……」

 悪夢だった。

 昨日かおとといかわからないあの出来事が何度も脳内で反響する。

 

 胸が苦しい。


「はぁはぁはぁ……うううううっ」

 

 またあの感覚。身体が胸から内側にめり込んでいくような。


「………ッド!」

「……レッド!」

 誰かの声がする。

「…フレッド!」

「……っはぁ!!」


 目が覚めた。身体は汗でびしょびしょだった。


「フレッド!大丈夫!?」


「またうなされておったな。

 昼寝ておった時は安定していたのじゃが」


「いまタオル持ってきますね。」

 助けてくれた三人が心配そうに見ていた。


「俺……うなされてた?」


「隣に聞こえるくらいのぅ。」


「ごめん。私がそばにいなかったから……」


「大丈夫。俺は大丈夫だから。」


「大丈夫なはずないわい。」


「ラニャさん、どうしよう……。」


「あらあら汗びっしょりですよ~」


 サロが奥から戻ってきてタオルを渡す。


「ありがとうサロさん。」

 お湯で絞ってくれていたので気持ちがいい。


「とりあえずそれで身体を拭いて着替えたらリビングで会議じゃな。」


「会議?」


「何でかは知らんが

 おぬし

【呪われとるぞ】」


「!!」

 あの男の言ったとおりになった。

 ラニャはこの事態を見抜いていた。


・・・・


「さて、ではおぬしが死にかけておったあの夜の事から話してもらうかのぅ」


「ああ」

 

 フレッドは手紙を読んだ時からサロに助けてもらうまでの話をした。


「なるほどのぅ。」


「またフレッドは一人で抱え込んだの……」


「いやそれは」


「それは許してやれアル子。おぬしを巻き込まんための決断じゃろ。」


「でも……夫婦なのに……」


「大切だからこそ言えんこともあるんじゃ」

ポンポンとアルの頭をなでるラニャ。


「・・・・」


「すまんの。

 で、いくつか確認じゃが、アル坊。

 おぬしはその男の顔を覚えておるか?」


「そりゃ昨日の今日だしさすがに……あれ?」

 

 思い出せない。顔を確かに見たはずなのに、記憶に残っていなかった。


「ごめん。駄目だ。覚えてない。」


「じゃな。相当抜かりのない相手じゃ。」


「え?」

「おそらく催眠術じゃな。

 特に容姿についての記憶を混乱させる術じゃな。

 何か話の始めや終わりに儀式みたいのをしておらんかったか?」


「え……たしか手を……叩いてたような……」

 

 男は話始めと終わりにパンと手を叩いていた。

 これが催眠術の儀式だったらしい。


「それじゃな。で、身体の状態はどうじゃ?」


「いや……いつもの感じだ。」


「ふむ。もしかして、いや。」


「???」


「まあ確証はないが後での。」


「ラニャさんそろそろ説明してください!

 なんですか呪いって!?

 物語に出てくるような呪いの話なんですか?」


「・・・・」



「サロ、ルー、一緒に先に二階へ行っててくれるかぇ?ちょっと大事な話なのでな。」


「そうなの?」


「ああ。終わったら行くからの。」


「さあいきましょう、ルーちゃん?」


「うん。わかった。」


「おやすみなさい♪」


 二人は二階へ移動した。


「キッチン借りてもいいですか?

 長くなるならコーヒー淹れてきます。」


「いやおぬしはアル坊とともにおれ。

 コーヒーはわしが淹れてくる。」

 

 ラニャはキッチンに向かう


「(さてどこから話したものか・・・・)」


 ラニャはフィルター越しに染み出てくるコーヒーをみながら、悩んでいた。

 

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