心機一転

 

 とある陽気な昼下がり。

 家で製本作業を行うのは二人の若者。


 アルバートとアルフレッドは少し前に結婚したコンビ作家である。


 【アルバート・クレイン】として創作者の街アポロ・ポートで活動している。


 アルバートは銀髪色白の泣き虫多分卒業少女。20歳。

 アルフレッドは黒髪褐色の貧乳好き腕っぷしつよつよ青年。23歳。


 アルバートは「アル」、アルフレッドは「フレッド」とお互いを読んでいる。


 呼び方の差別化を図るためだ。



「あー…」


「ねぇ」


「あー……」


「ちょっと」


「あー………」


「ねえちょっとフレッドってば」


「あー…………?」


「あ?じゃなくて、もう、最近ダレてるよ。どこか悪いの?」


「いやー……?ただなんかぼーっとするというかー…」


「ちゃんと夜、寝られてる?」


「アルが一緒に寝てくれれば寝られる」


「まっ……まだ早いっ!」


 色々あったが2人は夫婦になった。


 2人ともこれまで書くことばかりで恋なんてまともにしないまま結婚してしまったので、お互いに距離の詰め方を模索していた。


 変わったことといえば

 フレッドが髪を切ってショートになったことと

 逆にアルが髪を伸ばし始めたことだ。


「夫婦になって二週間がたつけど、あんまり変わんないな~ベッドも別だし」


「でも、キッ……キスは……よくしてる……じゃん」


「額にな」


「うううう」


「俺はバッチこいなんだけど?」


「私はそんなにムリー!」

 顔を赤くするアルバート。


「まあ正直、次作も決まってないし、ネタ探しの時期かなとも思ってるんだが」


「??」



「新婚旅行、行こうか」


「!!?」


「……もしかしてそれを考えてぼーっとしてたの??」


「半分はな。でも頭がぼーっとするのは本当だ。」



「ふーん。じゃあ今日はお休みにして


 一緒に……お昼寝でも……して……みよっか…??」


「おー大胆に出たなーアル。はじめからそのつもりだったんじゃ?」


「……やめましょうか?」


「ヤメナイデ!」


「まったく。寝っ転がりながら、旅行の話、聞かせてよ?」


 ・・・・


「俺、寒いところは嫌だなぁ」

「あ、私も暖かいところがいいなぁ」


 寄り添って寝転がる二人。


「南国って変なフルーツが多いんだって~」

「変なフルーツ?」

「中身がどろどろのとか、外が真っ赤で中は真っ白の実とか。図鑑で見たんだぁ」

「それうまいのか?」

「それを確かめるんだよ」

「ふーん。海とかもきれいなんだろうな」

「私、海行ったことないや……」

「マジかよ。」

「うん。行くんだったら水着買わないと……。」

「ほうほう……」

「こーら、いやらしい顔しないー!」


 フレッドのほほをつねるアル。


「ひひひゃんへふひ。ふうふひゃんひゃひ」

「何言ってるのもう。まあ、色ぐらいなら選んでもいいよ?」

「ふえー」

「えーじゃない!」


 アルのうぶな態度は変わらないが嫌そうではない。


「私思ったんだけど」

「ん?」


「お互いの故郷に行くのは、どう……かな……?」


「・・・・」


 アルは知っていた。

 フレッドが故郷を捨てて出てきたことを。

 それでも聞きたかった。

 自分の愛する人の故郷を。


「……ごめん。忘れて?」


「……そうだな。」


「?」


「アルの故郷は分からないけど、俺の故郷はまだあるんだもんな。」


「うん。でも嫌なら」


「いや、いつかは向き合わないととは思ってたから。ちゃんとアルも紹介したいし。」


「フレッド・・・・大丈夫?」


「俺はアルに家族をあげたいって約束したからな。親父はともかく、おふくろや兄貴、弟もアルの家族になってくれるようにお願いしないと。」


「!!……。」


「お、久しぶりの泣き虫アルバートさんだ。」


「そういうの反則だよぅ……ぐすっ」


「約束は守らないと、な?」


「うん。ありがとう。大好きだよフレッド」


 キスをする二人


「んん……」

 

 小さい口。

 やわらかい唇。

 ぎこちない口付け。


「……ははは、久しぶりだな、この感じ。」


「……」


「アル?」




「もっと……する?」




「!?い、いやまだ昼だし昼寝しようぜ!?あと旅行の話もだな……」


「……」


 いくじなし。

 そう思った。


 だが、自分もなかなか際どいことを言ったなとも思った。


 アルは時々驚くほど大胆になる。


「そういや、アルの故郷は分からずじまいなんだよなぁ?」


「修道院のこと?」


「いや、本当に生まれたところだよ。」


「それは、うん。でも」


「でも?」


「実はいつか行けるかもって、自分の故郷探しの旅のために昔から貯金してたんだぁ。」


「そうなの?アルのそういうところ、すげえよな。」


「へへへ。ちょうど10万クリエくらいたまったんだぁ」


「じゃあ俺の実家に行ったら、次はそっちだな。」


「うん!ああ、楽しいこと、たくさんあるね!」


「おう。あーそうだな。明日から朝稽古しないと。」



「朝…ケイコ?誰!?いきなり浮気!?」

 

 寝ている上に乗ってくるアル。


「ぐぇっ!!違う違う稽古!鶴見流の!」



「鶴見ケイコ!?どこの女の人それ?ねえ!ひどいよフレッド……!」



「それは俺のひいばあちゃん……いや!違う!剣の特訓ってこと!」


「特訓?」


「ああ。盛大な勘違いしてくれてありがとう。酒でも飲んでんのか?」


「あ……あわわわわわ」


「ははは。面白いなアルは。」


「ううう。でっでもなんで剣の特訓?」


「なんとなく家に戻ったら必要になる気がしてさ。鶴見家は実戦派というか『言葉はいいからかかってこい』、みたいな?」


「??よくわかんなーい」


「まあそうだよな。とりあえず明日の朝暇だったら見に来たらいいさ。ちょうど身体も心もだらだらだったからいい薬だ。」


「うん。見に行くね。」


「ああ。ふあー。でも今日はまだ、だらだらしよう……」


「うん……」


 お互い向かい合って眠る。結局起きたのは夜だった。





 ~翌朝~





 フレッドが稽古するのは近くの自然公園の一角。

 風で枝が、葉が揺れる。かさかさと音を立てる。


 ブン

 ブン

 ブン


 木剣を虚空に向かって振る。


「ハァハァ…ふぅ」


 また振る。


「・・・・」

 それを座って眺めるアルバート。


 動きが変わった。


「鶴見流・八重葎(やえむぐら)!」

 見えない速さの刺突、からの逆袈裟切り。


 相手をイメージして戦う。これはいわゆる形(かた)だ。


「鶴見流・放駒(はなれごま)!」

 一歩遠くへとびかかり唐竹、右切り上げ。


「・・・・(かっこいいなぁ…)」


「鶴見流・杜若(かきつばた)!」

 受けの動作から、右にかわして袈裟切りと前蹴り。


 チチチチ


 野鳥がさえずる。


「はぁ…はぁ…はぁ……今日はこんなもんか。」


「パチパチパチパチ」


「ん?アル?いつの間に。」


「かっこいいぞー、旦那様?」


「よせよせ。こんな鈍った動きじゃ弟にも勝てないぜ」


「弟さん、育人(いくひと)さんだっけ?強いの?」


「いや兄弟で一番弱い。はあ……」

 と言って、きていたシャツを脱ぎだすフレッド。

 なまっているといいながら鍛えられた体にアルは顔が熱くなった。


「これ、タオル、はい、じゃね!」


「あ、ああ?ありがとう。」


 恥ずかしくなったアルは家に戻る。


「息整えたら俺も帰るか・・・・」


 清々しい朝。


 希望に満ちた朝日。


 ・・・・


 家に戻るフレッドは郵便受けに手紙が入ってるのを見つけた。


「ん?俺宛だ。差出人が……書いてない?」


 季節は冬に近づきつつある晩秋。


 日が出ている時間は、短い。

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