余命200年

泉ゆう

1.


 僕の夢はただ1つ。60代で幸せに死ぬことだけだった。


 「余命200年です」


 僕は知らなかったけど、最近の健康診断はとても進んでいる。簡単な検査をいくつかこなすことでこの先どんな病気のリスクがあるとか、なんなら余命までわかるようになったらしい。知らなかった、だから最後の問診が終わった後、僕はハゲて太ったメガネのオジサン先生から突然余命宣告を受けることになるとは思ってもみなかったし、ついでに夢まで砕かれるなんて、ほんとに思っていなかった。


 ふと、小さい頃にテレビで見た世界最高齢のおばあちゃんのことを思い出した。たしか、当時129歳で130歳の誕生日をむかえることができませんでした、なんて内容だった。おばあちゃんはミイラのような身体にたくさんの管を通してベッドに横たわっていた。僕は子供心にあんな風になってまで生きながらえたいとは全く思えなかった。そう、あの日から僕の夢は60代で幸せに死ぬことになった。この夢があったから貧乏暮らしをしないために必死に勉強していい会社に行こうとも思えたし、車椅子生活なんて嫌だから体をしっかり鍛えておこうとも思った。そんな生活を送りながら20歳になった僕はあまりの健康生活に220歳まで生きられる体になってしまっていた。


 先生は、羨ましいですね、なんてお世辞を言っていたが僕は、そうですね、ぐらいしか返せなかった。夢が潰えることほど堪えるものはない。だけど僕も伊達に夢に人生を捧げてきたわけじゃない。落ち込んだけど、それでも夢を諦めることは出来なかった。僕は今日から残りの200年の余命を削るべく不健康生活を始めることにした。


 不健康に暮らすとは言えど、あくまでも60代になる頃には幸せな生活を送れていないといけない。


 プランはこうだ。


 若く体力のある段階では睡眠時間の短縮、飲酒、喫煙による内臓ダメージの蓄積等で積極的に寿命を削りつつ財産を蓄える。


 壮年を迎える頃には体力は出来る限り残し飲酒、喫煙の量を少しずつ減らしていく。


 そして50代の後半で残りの財産で贅沢三昧。ここで病気に罹ることで60代での死が見えて来る。


 あとは病院に入ることなく自宅で残りの寿命を全うすれば、僕の人生は完成する。これが僕の考えた寿命擦り減らしプランだ。


 

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