第126話 最後の一撃

 爆炎はライジェル王とエイダを包み込み広がっていく。その様子をアレン先生はじっと見ていた。


「エイダ……」


 果たして自分の愛弟子はどうなってしまったのか、「信じて」と言ってはいたが本当はあの爆発に巻き込まれてしまったのではないか。アレン先生の中に不安の感情が混じり始めた。

 すると先生のそば何もない空間が不意に陽炎が起こったかのように揺らぐ、そして次の瞬間、眩い光が発生した。アレン先生は思わず目を瞑る。


「これは……!」


 アレン先生は目を開ける、するとそこにいたのは、先ほどまで探し求めていた。弟子の姿があった。


「エイダ! 無事じゃったか! 咄嗟にテレポートの魔法を使ったのじゃな! やはりお主は天才じゃ!」


 アレン先生は嬉しさのあまり、エイダに抱きつく。


「アレン先生、く、苦しいよ」


「おう、すまんすまん」とアレン先生は離れる。


「いやはや無事でよかった、しかしまだ確認しなければならないことがある」


 そんな喜びの再開に水を差すように、マリデはアレン先生の肩から喋りかけた。


「ライジェル王は、どうなったんだい?」


 その問いの答えを探すべく、アレン先生とエイダは、風の魔法を唱え、爆煙を一通り薙ぎ払った。そしてそこにいたのはーー


「がはっっ! ぐううう!」


 半身が吹き飛ばされたライジェル王だった。下半身が丸々無くなっていた。

 思わずエイダは目を背けようとするも、これは自分のやった結果だと、目を背けるのは責任から逃れる行為、だと思いライジェル王の哀れな姿を目におさめた

 そして唱えた。


「光の……鎖よ!」


 それは捕縛の魔法の詠唱だった、黄色く光り輝く、光の鎖はライジェル王の吹き飛ばされた全身を、絡め取る。これでしばらくは動けないだろう。


「これで動けないね」


 マリデはそう呟いた。


「ああ、これで終わりじゃ」

「いやまだだよアレン先生」


 そう言ってエイダは鎖に繋がれている一人の少年の元に向かった。


「ヨータ……さあ逃げよう」


 後からエイダについてきた、アレン先生は驚く、マリデもまた、興味深そうにヨータを見つめた。


「無理だよお姉ちゃん……この鎖は解けない、特殊な魔法でできているんだ」

「……いや私ならできるかもしれない」


 その言葉にヨータは思わず、「え」と聞き返す。


「私の魔力の色は「白」どんな魔法でも干渉できるはず、先生、前にそういってたよね」

「まてエイダ無茶じゃ! 反動がくるぞ! お主自身どうなるか……!お主が封印に取り込まれるということもありうるのだぞ!」


 アレン先生は焦り、エイダを止めようとするも。エイダは力強くこう返した。


「今までみんなは私のために無茶を可能にしてきた。今度は私の番だよアレン先生!」

「封印ではダメなのかい?エイダくん最初はそういう作戦だったじゃないか」

「……そうだよお姉ちゃん、僕のことは封印すればいい、この世界で僕を封印すればきっと、封印の魔法が伝播して分身を作り出した魔王にも封印が施される。そうなれば……」


 ヨータの言葉を聞いてエイダは確信にいたる。


「だったら貴方を解放すれば、同じく伝播するってわけね、決めた、ごめんマリデさん私はヨータを封印しない」


 エイダは、決意のこもった瞳でマリデを射抜く、そして続けた。


「封印したらまた同じことが繰り返させるだけのような気がするの、ヨータの力を狙う輩がまた出てくるとも限らないし、それに、ヨータ、貴方は――」


 エイダは、ヨータの方に向き直り、優しく話しかける。


「ごめんね、今まで気づけてあげられなくて、貴方が一番苦しい思いをしてたのに私は、ただ貴方に頼ってばかりで……今度は私が貴方を助ける番、貴方の魂を自由にする番!」



 そういってエイダは、白い鎖に妖精の剣を、突き立てた。


「エイダ!」

「エイダ君!」

「お姉ちゃん!」


 妖精の剣を突き立てられた、白い鎖は激しく発光し、白い稲妻を、エイダにほとばしらせる。


「ううっ!」


 エイダは苦悶の声を上げるも耐え、必死に妖精の剣に自身の魔力を込め、白い鎖に切っ先を押し付ける。

 白い鎖はまるで意思を持つかのように動き始め、妖精の剣の切っ先を当てつけられた所から無数の鎖がエイダを飲み込むように展開され、エイダの四肢を絡め取る。


「いかん! エイダが取り込まれる!」

「まつんだ! アレン離れろ! 君までとりこまれるぞ!」


 我を忘れ、近づこうとするアレン先生をマリデは制止した。


「じゃが!」

「エイダ君を信じるしかない!」


 アレン先生は、歯を食いしばり、マリデの言葉に従った。エイダならばできる、そう信じて。

 白い鎖に四肢を絡め取られたエイダは意識が飛びかけていた。妖精の剣に込める力も魔力もだんだんと抜けていく。もうダメか、ヨータの「お姉ちゃん」と叫ぶ声も遠くなりつつある。

 エイダは、封印に取り込まれようとしていた。その時だ。


「エイダ……!」


 誰かの、愛しい人の呼ぶ声が聞こえた。久しく聞いていなかった。母の声だ。

 その声にエイダは覚醒して、再び渾身の魔力を妖精の剣に込める。

 自身の体を絡め取る鎖に抗いながら、必死にエイダは力を絞り出した。すると白き鎖がピキリと音を立て、ひび割れる。

 エイダは叫んだ、満身の力を込め切っ先をそのヒビにねじ込む。


「うおおおお!」


 そしてついに甲高い音ともに鎖が千切れとんだ。






 騎士ドンキホーテは、今まさに、白き炎に飲み込まれようとしていた。


「くっ!」


 ドンキホーテはギリギリで耐えた。今はまだ白き炎による鍔迫り合いの状態を保てている。もっとも気を抜けば目の前に迫ってきているライジェル王の炎に飲み込まれてしまうが。

 だがドンキホーテは諦めない。ギリギリまで踏ん張ってやると、心に決め、地面が上がれるほどに踏ん張り、白き炎を放出量をあげる。

 少しだがドンキホーテの白き炎がライジェル王の炎を押し返す。



「無駄だ! ドンキホーテ! 貴様に勝ち目はない!」


 ライジェル王はそう煽り、ドンキホーテの白き炎の放出量に合わせるように、自身もまた火力を上げた。

 再びドンキホーテの白き炎は押し返えされる。流石にこれ以上は耐えきれない、ドンキホーテはそれでも諦めを知ろうとはしなかった。


 その時だ、王の偽の聖剣にヒビが入ったのは。


 王はそれに気がつき驚愕を隠せない


「何!」


 偽の聖剣はヒビがはいり、徐々にまるで砂の城が風に舞って消えていくように、細かい粒子となって消滅していく。


「こ、これは、どういうことだ、魔王の力は!」


 当然、ライジェル王側の白き炎の火力は弱くなる。それを見過ごす、ドンキホーテではなかった。


「ライジェル!!」


 かつての友の名を叫び、ドンキホーテは力一杯に聖剣を横一線に薙ぎ払う。ドンキホーテの聖剣の白き炎が三日月状の形になって、ライジェル王の白き炎を切り裂きながら進んでいく。


「くっ、ドンキホーテぇぇぇぇ!」


 ライジェル王は白き三日月にその身に受ける。そして白い球状の爆発がライジェル王を飲み込んでいった。

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