第124話 魂の中
白い空間の中、エイダは、ライジェル王と相対した。ヨータを隠すように王の前に立った彼女は、妖精の剣を両手で構え、王を威嚇する。
「ライジェル王!」
エイダの心の中に躊躇はない、ライジェル王は不死の力を持っている。つまり王を止めるためには殺す気でいかなければならないのだ。
躊躇などしたらこちらがやられてしまうことをエイダは分かっていた。
「なるほど、魂の中に入ってきたか、これも確か報告で聞いたことがある、魂の共鳴現象というやつだな?」
ライジェル王はゆっくりと近づいてくる。ヨータが弱々しい声で言った。
「お姉ちゃん逃げて……」
「何を言うの! あなたを置いて行って逃げたりしない! 王様を倒して、ここら一緒に逃げよう!」
エイダは翼を五対十枚の翼を背中に出現させ、ライジェル王に飛びかかる、だがライジェル王は冷静に、光の剣を左手に生成しエイダを向かい打つ体勢を整えた。
エイダは剣で斬りかかると見せかけて、空中で留まり魔法を詠唱した。魔力はエイダの身体中を駆け回り、妖精の剣の切っ先に集中する。
剣の切っ先に宿った魔力は電撃と化し、ライジェル王に向かって放たれる、王はその雷撃を自らの剣で受け止め、そのまま地面へと電撃を受け流した。
エイダの攻撃は止まらない、続けて、何もない空間を、剣の切っ先で横一線、なぞるように滑らせる。するとなぞった軌跡の後に火が生まれ複数の火球を作り出した。
その火球達は、エイダが剣を振り下ろす動作と共に、まるで光に向かう羽虫のように空間を縦横無尽に蹂躙しながら、ライジェル王に向かっていく。
「ふん」と鼻を鳴らした王は剣を振るう、王の剣は迫り来る火球達を切り裂いていく、それも、不規則な弾道を描く火球達を一切、ミスをすることなく。
このまま全ての火球が切り裂かれ効果なく消えていくだろう、ライジェル王はそう予測した。
再び、火球が迫り来る。王は剣で火球を払おうとした。その時だ、剣が火球に触れた瞬間、それは膨れ上がり強大な爆発となって、ライジェル王を襲う。
「なに!?」
王の左手が千切れとんだ、エイダは、構わず火球をさらに生成する。再び、火球は空間を縦横無尽に駆け回り、ライジェル王に向かいっていく。
ライジェル王は魔法障壁を張り、身を防いだ。切って無力化することができなくなったこうするほかない。ライジェル王はこの魔法の乱撃を前に思う。
――全く、容赦がないな……まあそれもそうか、こうでもしなければ私は止められまい。
エイダの持つ膨大な魔力量による圧倒的な魔法攻撃は、ライジェル王を追い詰めているかに思えた。しかし実際には違う、王はただ時間が欲しかっただけだ。
この魔法を使う時間が。
「デルタ……レイ!!」
白銀の光線がライジェル王の魔法障壁を内側から突き破り一瞬にして、全ての火球を薙ぎ払う。
エイダはその薙ぎ払いに一瞬で気がつき、間一髪避けたが、手前に生成してあった火球が光線にあたり爆発しその爆風をもろに受けたエイダは、地上に叩きつけられてしまう。
「くう!」
叩きつけられたエイダは苦悶の声を上げるも、急いで体勢を立て直さねばと、身を起こす、光線が放たれた地点を睨む。そこにはすでに王の姿はいなかった。
「お姉ちゃん!」
ヨータの声が響く、まるで何かを警告するかのようなその呼びかけに、エイダは自分に何か危機が迫っているのだと気がつく。
エイダの背後に得体の知れない気配を感じた。
振り向くなり、エイダは首を掴まれる。エイダの首を掴んだのはライジェル王だった、いつのまにか背後に回り込まれていたのだ。左腕も再生している。
ここでエイダは思い出す、魔王はまるで自分のように魔法を、凄まじい速度で吸収しているということを。
背後に回られたのはドンキホーテのテレポートの魔法を使用したからだ。
「う……ぐぅ……!」
エイダは、喘ぐ、しかしライジェル王を見つめる瞳は力を失っていなかった。そんなエイダに王は語りかける。
「驚いたか? これは君の能力、見た魔法を習得できるという能力だ。その昔、勇者の口からは様々な歌が流れいでたという、歌というのは魔法の詠唱のことだ」
「勉強になったか」とライジェル王はエイダを床に叩きつけた。エイダの口から空気が吐き出される。ライジェル王は続けて言う。
「全く、素晴らしい能力を君はプレゼントしてくれた、君の必殺の魔法……デルタ・レイといったか? それも今や私のものだ」
叩きつけられ、咳き込むエイダに、王は掌を翳す。三角形の魔法陣が現れ、面の中心に白銀の光球が浮かんだ。撃つ気だ、あの白銀の光線を。
「さて、君はどうすれば動きが止まるのか……頭でも吹き飛ばしてみるとしよう」
「ライジェル王……あなたは一つ誤解をしているわ」
「何?」
エイダの発言にライジェル王は訝しんだ。
「私の、この魔法を修得する能力は、私一人では意味のない能力だったでしょうね、この能力の真価が発揮されたのは魔法を間近で先生がいてくれたからこそ!」
「何が言いたい……」
「わからないの? あなたは、今私一人と戦っているわけではないと言うことを!」
瞬間、王の翳した手が上空から差し込んだ白銀の光線に貫かれた。
「何!」
王の手が千切れ飛び、王は腕を抑える。
「デルタ・レイは私の魔法じゃない!」
エイダは頭上を見上げるそこにいたのは――
「待たせたのぅエイダ!」
魔法の恩師だった。
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