第96話 分かり合うためには
剣と剣が交わり、衝撃波が発生する。ドンキホーテはグレン卿の剣の猛攻を、盾や剣で防ぎつつ、反撃の隙を伺っていた。
「クッソ隙がねぇ!」
グレン卿から距離を取りドンキホーテは思わずそう呟いた。だがドンキホーテが距離を取ったということは、アレが来る。
グレン卿の頭上に雷の雨が降る。アレン先生による魔法の雷だ。
グレン卿はそれに動じることなく、雷を受ける。雷はグレン卿の体を通り、足を通して、地面へと流れていった。
「雷を受け流しよったか?!」
アレン先生は驚きのあまり、目を見開いた。ドンキホーテはいう。
「雷避けの技だな」
雷避け、卓越した闘気のコントロールにより雷を体の重要な臓器を守りつつ、雷を受け流すという技だ。
このままではグレン卿に決定的な一撃を与えることはできない。
「アレン先生!もっと連携を深めていくぞ!」
「言われなくともわかっておる!」
ドンキホーテが踏み込み、グレン卿に飛びかかろうとしたその時だ。空中に浮かぶ埃は止まり、グレン卿の外套もはためいたまま止まっている。
一瞬だけ時間が止まったのをドンキホーテは実感した。
「な…?!」
なにが起こった、ドンキホーテは時を止める能力をもっているアルと戦っているマリデの方を見た。いつのまにか時間は動き出している。
そこには白い繭の様な物体が佇んでいた。
「ほう、見事に成功した様だな」
グレン卿はドンキホーテが視線を向こうに向けているの気づき同じく繭を見ていた。
白くだがよく見ると、繭の様にか細い繊維で、できていない。それは白い鎖が繭の形を成しているのだ。
「まさか…ボス?!」
直感で感じた。マリデがやられたのだと。
「私たちの目的の1つが達成されたな」
「チッ!やられたのぅ!」
グレン卿の言葉にアレン先生は忌々しげにいう。マリデがやられたということは、マリデを相手していたあの2人がエイダの元に行くということだ。このままでは不味い。
焦りが、ドンキホーテと、アレン先生の心を侵食していくだがこんな時こそ、冷静に努めなければいけない。
冷静に、冷静に考え、ドンキホーテは1つの結論を出した。
「アレン先生!エイダを!」
ドンキホーテはグレン卿との彼我の距離を詰める。剣を振り上げ、一閃、剣は光の軌跡を描く、そして閃光同士がぶつかり合う。
「わかった、死ぬでないぞ!ドンキホーテ!」
返事をする余裕はない。ドンキホーテはアレン先生を背中で見送る。
アレン先生はエイダと自分達を分断するためにできた、壁を風の魔法で自身の体を浮かし飛び越える。この時ほど、軽い猫の体で良かったと思ったことはアレン先生はなかった。
壁は完全に天井に届いているわけではない、途中で伸びるのをやめている。そのおかげでアレン先生は壁の上に立つことができる。
「エイダ今行くぞ、待っておれよ!」
壁の向こう側、アレン先生は見た、太陽と見間違うほどの閃光を。
「なんじゃ?!」
アレン先生は目を塞いだ。
目を開けるとそこには黄金の色をした球体が、眼下にあった。
「ところでここはどこなの?」
コウサテンの真ん中、エールはエイダに質問する。
「え、あなた達は知らないの?ここはコウサテンよ、夢でみたりしない?」
エイダは不思議そうに聞く、てっきり自分以外の兄妹もこの夢を見ているものだと思っていたからだ。
同じ神の使者ならば見ているはず、そう勝手に思っていたのだ。
アイラが答える。
「知らないわね、こんなところ見たこともないわ」
「貴方達だって、神の使者なんでしょ?ここの…地球の記憶は持ってないの?」
「本気で言っているの?」とアイラは笑う。
「何も知らないようね、エイダ貴方はいいわ教えてあげる」
「アイラいいのか?」
「いいのよアル、どうせ私たちの仲間になるならば知っていても問題ない父上もそういうはず」
なんのことかエイダはわからない。アイラは話を続ける。
「私たちはホムンクルス、そしてそれと同時に、造られた神の使者でもあるのよ」
「…え?」
「分からないかしら、私たちは造られたのよ、勇者の魂を四つに分けて、私たちの体に移植したの」
突拍子も無い話だ、エイダは飲み込むことができず。ただ困惑したまま聞くことしかできない。
「だから私たちは神の使者の力を使うことができる、英雄ヨータの力をね、だから本来私たちは神の使者では無い、転生者じゃ無いのよ」
「じゃあ私のこの記憶は…?」
「おそらくヨータの魂の記憶が流れてきているのでしょうね?それぐらい貴方は適合しているということ、父上が夢中になるのもわかるわ」
エイダは、ようやく説明を飲み込むことができた。
「じゃああの子は、無理やり魂を私たちの中に…だからグレン卿を怒っていたのね…」
「まあ、そうなの?でも、これでハッキリしたわね、エイダだけがこの場所を知っているということは…」
「エイダお姉様がこの空間を作り出したそうね、アイラ姉様」
エールはアイラの代わりに答える、「その通りよ、エールは賢いわね」と言って、アイラはエールの頭を撫でた。
「ということはやはり、エイダが鍵を握っているということか?」
アルはエイダを見ながらそういう。しかし、そんなことを言われてもエイダ自身もどうして、この場所が作られたかわからない。
だが、ひとつだけたったひとつだけ、エイダは感じていることがあった。
「ここのコウサテンに皆んながきたってことは、何か意味があるはず」
「それがこの世界から出る鍵になるのか」
「そうよアル、多分ね」
――だから出てきてヨータ、いるんでしょう?
エイダの心に呼応するように、兄妹達は背後から声をかけられる。
「やあ、はじめまして、そして僕にとっては久しぶりかな」
振り返るとそこには少年が佇んでいた。
「誰だ?」
「ヨータよ」
アルはエイダの言葉に驚きを隠せない。
「こんなガキが?」
「君たちよりは年上のつもりだけどね、それにしてもまた無茶なお願いをしてくれたね、お姉ちゃん?」
「私?」とエイダは自分で自分を指を指す。
「そうだよ、兄妹とわかり合いたいなんて、願っていたでしょう?」
確かにそうだ。エイダは、戦う前にそう考えて戸惑っていたことを思い出す。
「それでこの世界を作ったの?」
「うんそうだよ」とヨータは返事をする。
「ならば早く帰してもらおう!」
アルはヨータに詰め寄る。
「それはできない君たちはまだ何も話し合ってないだろう?」
「結果は見えている!」
「強情だな、ならこうしよう君たちの魂を…」
ヨータは兄妹達に向かって掌を向ける。すると4人は中に浮かび上がる。エイダ達は混乱し、体を動かそうとするが、動かない
「何を!」
アルは叫ぶ
「すこしだけ、繋げてみようか」
エイダの視界はそのまま、光に包まれていった。
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