第93話 分断

「ドンキホーテ…生きていたか…そういえばテレポートの魔法が使えるのだったな…」


 グレン卿は切り落とされた左腕を剣を持ったまま抑え、ドンキホーテを睨みつける。


「父上!」


 アイラが悲痛な叫び声をあげる。


「案ずるな、アイラ!」


 グレン卿は、剣を床に突き刺すと、懐から透明なガラス瓶を取り出した。中には赤い液体が入っている。それをグレン卿は一口、飲んだ。

 すると、傷口から流れでる血はうねり始め、螺旋を描くと、血はまるで腕の様な形になっていったそして骨が、次に筋肉、そして皮膚が形成され元の左腕が再生された。


「おい!俺が腕を切りとばすといっつも、あんな感じで元に戻るんだけど!どういうこった!!」


 ドンキホーテは最近の己の運のなさを嘆く、ここ最近、自分の戦闘スタイルに合わない相手ばかりだと。

 そんなドンキホーテの気持ちを知ってか知らずかエイダは安堵の笑みを浮かべドンキホーテの名を呼ぶ。


「ドンキホーテ、無事だったんだね!」

「ああ、すまねぇな、奇襲をかけるタイミングを見計らってた」


「まあ、その奇襲の一撃も無駄に終わったがな」とグレン卿を見つめながら、憎たらしそうに言った。


「そう、落胆するなドンキホーテ、腕を切り落とされたのは初めての経験だ」


 グレン卿は剣を引き抜き、ドンキホーテに向ける。


「だが2度目はないぞ」


 ドンキホーテは「そうかい」と言いつつ、剣を構える。

 そしてそれと同時に電撃をその身に受けたアイラがグレン卿の場所まで後退してきた。


「すみません父上、油断しました」

「構わん」


 その電撃をくらわせた張本人であるアレン先生が、ドンキホーテとエイダの間に華麗な着地を決める。


「ふん、油断していたせいではないワシの実力よ!」

「さすがアレン先生だ」


 これでこちら数的には有利だ、マリデの方もうまくアルとエールの足止めをしてくれている。このまま数の力で押し切れば、グレン卿を止められるだろう。


 そう思った矢先である、地面が突然、盛り上がりドンキホーテとエイダの間に岩の壁が現れる。

 アレン先生は突如盛り上がった壁に体制を崩しドンキホーテ側に倒れこんだ。

 ドンキホーテは落ちてきたアレン先生を支える。

 

「なんじゃあ!一体!」


 その疑問について考える暇もなく、聖剣による光の刃が振り下ろされ、ドンキホーテ達に向かって飛んできた。


「やべ!」


 ドンキホーテは思わず呟きながら、アレン先生を抱えながらそれを避けた。

 光の刃は岩の柱に直撃し大爆発を起こす。


 ――やべー威力だな、もう一度食らったら無事じゃすまねぇだろうな


 ドンキホーテはグレン卿がいると思われた方へと身を向ける。すると目の前にはすでにグレン卿が迫ってきていた。

 咄嗟にアレン先生を投げ、剣を構える、アレン先生の悲痛な鳴き声を耳にしながらグレン卿の聖剣とドンキホーテの直剣がぶつかり合い衝撃波が発生する。

 グレン卿は、息をつかせぬほどの猛撃を繰り出してくる、重いはずの両手剣でだ。

 重量の差をドンキホーテはグレン卿の聖剣の軌道をうまく逸らし、受け流すことで耐え切っていた。

 だが、守っていてばかりでは埒が明かない反撃を狙わなければならない、反撃の隙を伺いつつドンキホーテはグレン卿の猛撃を耐え忍んでいた。

 グレン卿の上段からの凄まじい一撃がドンキホーテを襲う、ドンキホーテも剣を横に構えて頭の上に持っていき、グレン卿の聖剣を剣の峰で滑らす様に受け流す。


 ――まだだ…


 次の一撃は逸らされた勢いをそのまま活かした素早い回転斬りだった、それをドンキホーテは剣を刃で受け流すのではなく防御した。


 ――まだ…


 そしてそれも防がれたグレン卿は再び剣を引き戻すと次は鋭利な突きを繰り出す。ドンキホーテは峰で攻撃を防いだ。


 ――今だ!


 それは一瞬の隙だった、グレン卿が足元に向け、放った突きをドンキホーテは足で片足で押さえつけ、そのまま踏み込み、グレン卿の両腕めがけて斬撃を放った。


 しかし、ドンキホーテの剣がグレン卿の腕に届くことはなかった。


 グレン卿は咄嗟に片手をドンキホーテに向けた。するとグレン卿の掌から突風が起こり、ドンキホーテを吹き飛ばした。


 ドンキホーテは吹き飛ばされるも、うまく受け身を取りマントを翻しながら、剣を構え直そうとした、だがその隙にグレン卿の聖剣の突きがドンキホーテを襲う。

 ドンキホーテは咄嗟に左腕に巻いてある布を触った。すると布は盾に一瞬で変形、突きを間一髪で防ぐ。


「ほう、盾を布に変化させていたのか、面白い魔法だな」

「あんたこそ、魔法の心得があったとはな!」


 グレン卿の掌から起こった突風は風の魔法に違いない、ドンキホーテはそう睨みをきかせていた、グレン卿はそれ以上喋ることなく、再び剣を振るおうとした、その時、突如飛来した火球がグレン卿を襲う。

 グレン卿は、聖剣を、盾がわりに防ぐも火球は爆発し、爆炎がグレンの体を包み込んだ。


「アレン先生!ナイスだ!」


 火球を放ったであろう者の名前をドンキホーテは呼ぶ。


「全く突然、投げ飛ばすでない!びっくりしたぞ!」

「すまねぇつい、焦ってたんだよ!」


 剣を構え直し、ドンキホーテは続けていう。


「2人でグレン卿、倒して!エイダのとこに行くぞ先生!」

「勿論じゃ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る