第91話 ガデレート山へ
ついに、エイダ達一行はガデレート山の
空はこれから日が登ろうとしているころである。
「さあ降りてもらうぜアイラ」
ドンキホーテはアイラを馬車から降ろす。ドンキホーテの態度には若干の警戒心が混じっているものの、アイラとアンに対して紳士的に対応している。
アイラは馬車から降りる際、それを気持ち悪く感じていた。自分達は言うなれば捕虜なのになぜ、ドンキホーテやアレン先生そして、あの化け物であるマリデはどうしてここまで甘いのだろうか。
正直、尋問される際、アイラは拷問も覚悟していた、だが実際にされたのは負荷の低い、自白の魔法をかけられただけであった。アイラは皮肉げにいう。
「優しいのね騎士様は…」
「照れるぜ」
「皮肉よ」
「わかってて返したんだよ」
全く、どうやらどこまでも腹立たしくさせるのが上手いらしいこの一行は、とアイラは胸の奥底で思う。
すると乾いた音が響きわたる。どうやらマリデが手と手を打ち鳴らしているようだ。
「はいみんな注目してね」
マリデは言った、それに反応しエイダ達は気を引き締めてマリデに向き直る、背伸びをしているアレン先生以外は。マリデはゴホンとわざとらしく咳をすると
「これから僕達はグレン卿に奇襲をかけるその作戦の確認をしたいんだ」
「まあといっても作戦と呼べるようなものでははないけどね」とマリデは付け足し、その作戦を述べた。
「まずアイラを先頭にグレン卿のところまで先導してもらう、そこでグレン卿がいたら奇襲をかけグレン卿を倒す、はい終わり」
「改めて聞くと抽象的すぎて、馬鹿馬鹿しくなってくるの」
毒を吐くアレン先生に対して、エイダはフォローを入れる
「でもしょうがないと思う、グレン卿がどういうところに潜んでいるのかわからないし」
「エイダ君のいう通りだ、そしてここで注意点が一つ敵もエイダ君の気配がわかる以上、奇襲をかけるのは難しい、そこでエイダ君には囮になってもらう」
マリデは「いいね」とエイダに向かっていう。エイダは力強く頷いた。
「よし、エイダ君には僕と、アレン先生がつく、アイラ君にはドンキホーテ、君がつくんだ、君にはアイラ君と共に先回りして奇襲をかけてもらう。そこでこいつだ。ここにエイダ君が持っていた人避けのお守りがある、これでアイラ君の気配感じにくくさせられるはずだ。」
その人避けのお守りはネックレス状のものだった。ドンキホーテはマリデからそれを受け取ると、すぐさまアイラのクビにそれをかける。
「ところでボス、戦う力は残っているのかい?」
ドンキホーテは、聞く。ドンキホーテの記憶では、マリデは妖精の里の戦いの時に、戦う力を使い切ったと言っていたはずだ。
今のマリデは本体ではない、分身の魔法により作られた本体の複製だ、そのため休んだら体力が回復するわけではない。
しかし、マリデはいう「問題ないよ」と。
「移動している時間の間に本体の方から供給があったから大丈夫だよ、僕は戦える」
その言葉を聞くとドンキホーテは納得した。
「それなら大丈夫か、それにしても本体のボスは忙しいみたいだな」
「そうだね、少し手間取っているんだ」
珍しいなとドンキホーテは思った、マリデ・ヴェルデはドンキホーテの知る限り、最強と言っても過言ではない魔法使いだ、だというのに未だに手こずっているとは。
「まぁ、しょうがねぇか」
ドンキホーテはそう呟いた。本体がいなくとも十分だ、彼はそう感じていた。
エイダは山に登る前に、一応忘れたものがないか馬車の中を、確認していた。するとずっと馬車の中で座っていたアンが話しかけてきた。
「行くのね、エイダ」
エイダは、振り向き「ええ」という。アンはそのまま話し続けた。
「私はどうせ連れて行かないんでしょう?」
「うん、あなたはここで、じっとしていてもらう」
その言葉を聞くとアンはため息をついた、よっぽどここにいるのが苦痛らしい。
エイダはマリデの指示を思い出していた
――いいかい?アンはここで馬車に封印の魔法をかけて置いていく
「あなたを連れていくわけには行かないの悪いけどここで我慢して」
「まぁ別にいいよ、この馬車、トイレまであるしね」
「じゃあいくね」というエイダに対して、アンは呼び止める。
「気をつけてね、エイダ、個人的にあなたにはまだ話したいことがあるの」
エイダは「わかった、ありがとう」といい微笑むとドンキホーテ達の元に向かった。
マリデが全員揃ったのを確認し、いう。
「いこうかグレン卿の元へ」
アイラに導かれるまま、エイダ達は山の上へ上へと登っていく。
山は険しく、草木の生えていない山自体は殺風景な場所だったがそのかわり見晴らしはよく、登るに連れて、上から見下ろす景色は美しいと感じられるものになっていった。
「あそこよ、あそこから兄妹の力を感じるわ」
アイラの目線の先には古びた石造りの建物があった、その建物は山の中に埋め込まれるように建てられており恐らく、山を削ってたかもしくは天然の洞窟を利用して、作られた建物なのだろう。
「なんだ、こりゃあ…」
建物を、見てドンキホーテは違和感を感じそう呟く、見たところ、なにかの遺跡なのだろうか石造りの柱は古びているとはいえ、未だ立派であり天井を支えている。
同じことを思ったのかアレン先生も口を開いた。
「ガデレート山にこのような、建築物があるとは聞いたことがないのぅ」
「先生もそう思ったか?俺もだ」
ドンキホーテの感じた違和感はそれだった、この遺跡には名前がないのだ、ここまで状態がいいなら見つけられて、有名になってもおかしくはない。
だが実際には、まるで突如現れたかのように、遺跡は存在している。
アイラは臆することなく指を指す。
「この建物の中、気配を強く感じるわ、それと動く気配がないわね」
明らかに待ち構えている、しかし行かねばならない。マリデは言う。
「では作戦通りに行こう僕たちは2人でエイダを守る。ドンキホーテは奇襲を!」
「了解、ちょうどこの岩の柱、中まで連なってるみたいだから、岩の柱に隠れながらいくぜ!」
「あ、あと」とドンキホーテは続ける。
「グレン卿は聖剣使いだ気をつけろよ?」
エイダは首をかしげる。
「聖剣って何?」
アレン先生はエイダの肩に乗り、説明し始める。
「特殊な能力を持つ剣のことじゃ優秀な戦士にしか使えん、特別な剣での、グレン卿の聖剣は確か…」
「全てのものを灰燼に帰す聖剣「破壊剣」だぜ先生」
ドンキホーテの補足に 「さすがマニアじゃの」とアレン先生は半ば呆れたように返した。
「では、行こうか」
マリデの一言により作戦は開始された、ドンキホーテはアイラを連れて気配をいち早く検知し奇襲をかけるために。
マリデはエイダを囮にグレン卿達をおびき寄せるために、その石造りの遺跡の中に入っていった。
遺跡の中は、ドンキホーテの言う通り石の柱が連なっており隠れるところ多い、その中を警戒しながらエイダ達は進んでいった。
すると急に柱がなくなり視界の開けた、場所に出た。そこは長方形の広い面積の持つ場所だった。
そしてまずエイダ達の目に入ったのは、巨大な階段とその先にある扉だった。それはちょうどエイダ達がこの柱のない長方形の広場に入ってきたところから対面に位置している。
エイダ達がその広大な空間にあっけにとられていると、扉が1人でに開き中から1人の男が現れる。
「あなたは…!」
その男はエイダを見ると不敵に笑う。
「エイダ、久しぶりだな」
確かアルと呼ばれていたことをエイダは思い出す。カルエ遺跡で会った世界を静止させられるあの男てある。
「確か、アル…」
エイダはその男の名を口に出す。
「名前まで覚えていてくれたか…だがどうやら仲間になりに来たわけではないようだな」
周りにいるマリデとアレン先生を見ると、アルのその不敵な笑みは消え去った。
ドンキホーテはアイラと共にその様子を柱の影からのぞいていた
「グレン卿の姿が見えねぇな、てっきり奴と一緒にいるかと思ったが」
ドンキホーテは瞬間、殺気を察知した。背後にいる、アイラ以外の誰かが。
「ほう、私を探していたのかね四肢狩り」
次の瞬間ドンキホーテの体は光に飲み込まれた。
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