第11話 屍との戦い②

  月明かりが照らす夜空の下、剣が交差する。

 ドンキホーテは一撃、二撃と斬撃を骸骨の兵士に浴びせる。しかし傷つけられるのは黒いゲルの部分のみで骨に達する攻撃はすんでのところで躱されてしまう。

  だがそれが本命ではない。アレン先生の電撃の魔法が骸骨を襲う。電撃は骸骨の兵士に直撃し青白い光に包まれた。しかしそれでもまだ骸骨の兵士は倒れない。


「このままじゃ埒があかねえな」


 ドンキホーテは武器を構え直した、ドンキホーテ自身今までアンデットの類を相手にしたことはあったがここまでの相手は出会ったことはない。今までのアンデットはほとんど知性もなく、一太刀で終わるような雑魚であった。そのアンデット達と比べるとこの骸骨の兵士は桁違いだ恐らく操っている、ネクロマンサーがこの兵士の生前の実力まで再現しているのであろう。

 それに加えて、痛みも感じず、恐怖もない。まさしく最強の戦士だ。だが


「倒せる。俺たちなら。」


 ドンキホーテはそう呟いた。


「先生!コアはどこにあるかわかったか?!わかったら言ってくれそこを狙う!」


 そうどんな者にも弱点はある。特にネクロマンサーによって魔力を供給されているならどこかにそのコアがあるはずなのだ。


「ない。」


「なに?!」


「どこにもないのじゃコアが!少なくともあやつの体にはない!」


 馬鹿なドンキホーテは呟く。コアがないそんなことがあるはずない、ならばこいつは一体どうやって動いているのか。屍の大海という巨大な化け物を動かしていたのだ。どこかにその巨体を動かすだけの動力部分がなければいけない、それならば屍の大海から出てきたこの骸骨の兵士がコアをどこかに隠し持っている。そう考えていたのだ。なにせ屍の大海の大部分はアレン先生の魔法によって燃えてしまったのだから。


「クッソなら跡形もなく消すしかないのか!」




 エイダは2人が戦う様をじっと茂みの中から見ていた。ここは深い森の中、エイダの隠れるところならいくらでもある。森の茂みと闇に紛れ戦いが終わるのを必死に待っていた。

  するとエイダはどこからかまるで鼓動のような音を耳にした。どうやらエイダの近くの茂みからその音を鳴らしいる主がいるようだ。エイダは触れない方がいいと思いつつも、思わず手が伸び、茂みをかき分けてしまった。


 そこには脈動する心臓が地面に転がっていた。


 その心臓は黒い水に囲まれており、嫌でもわかったこれはあの怪物の一部なのだと。叫びそうになる瞬間エイダは浮遊感を感じた。自分の体が浮いているのだ。

 なにもわからないままエイダは浮かんだまま何かにひきづられるように移動をしていった。


「エイダにげるぞ!」


 エイダを浮遊させているのはアレン先生だ


「アレン先生どうして急に?!」


「戦闘が長引くゆえ、まずはお前さんの安全を確保する作戦に切り替えたそのあと奴をやるのじゃ!」


「まってアレン先生ドンキホーテは?!」


「あやつは足止めをやっておる!」


「ダメよ危険だわ!さっき私見つけたの、あの怪物の破片を!」


「なに!?」


「もしかしたら敵はなにかを企んでいるのかも!あの破片を倒さなきゃ!」


「わかった、わしがその破片とやらを退治しておこう。お前さんは結界を張るからその中に・・・」


「ダメよ私が見つけたんだもの、私しか正確な居場所を知らないわ。私もいく。私にも手伝わせて!」


「しかし、うーむいいだろうじゃが居場所を教えたらすぐに逃げてもらうぞ。」


「わかったわ!」


 そういうとアレン先生とエイダは元の場所に引き返した。



 剣と剣がぶつかり衝撃波と火花が生まれる。

 ドンキホーテは骸骨の兵士と戦い、エイダが隠れるまでの時間稼ぎをしていた。

  ドンキホーテは再び精神を集中させると彼の体がぼんやりと発光しその体全体の光が剣へと集中する。

  そしてドンキホーテの剣から三日月状の光が放たれた。しかしその強力な一撃をあえて骸骨の兵士は食い自身体を分解させ衝撃を躱した。三日月の光線は着弾しはしたものの、骸骨の兵士が体を分解させたことで爆発はせず。骸骨の兵士の体を通り抜け後ろの地面を抉った。


「クソ!」

 

 そろそろ時間稼ぎも限界だ。アレン先生の高威力の魔法を当てるためにはドンキホーテ自身この骸骨の兵士の、脚を止める分だけの体力が残っていなければならない。

  骸骨の兵士はバラバラになったからだを黒いゲルと何らかの魔法で補強し元に戻った。いくら攻撃しようと、この調子で元に戻ってしまう。

 さあ、どうする、ドンキホーテは焦っていた。

  すると骸骨の兵士は何かに気づきドンキホーテを無視して疾風のように走り出した。走っていく向こうには、エイダの姿があった。


「エイダ!!逃げろ!!」



 エイダはアレン先生を連れ、例の心臓を探していた。

  するとドクン、ドクンとまた鼓動音が聞こえ始める。


「先生聞こえない?この辺、音がするの」


「いーや?何も音なんて聞こえんぞ。」


 エイダは音を頼りに再び例の心臓を見つけた。

 未だに禍々しくそれは動き続けており、まるで生きているかのようだ。


「先生これ!」


「これはまさか!遠隔式のコアだったのか!なんということじゃ!」


 アレン先生は間髪入れずに魔法を詠唱した。アレン先生クラスの魔法使いになれば詠唱など一瞬である。しかしその一瞬の隙をエイダ達はつかれた。骸骨の兵士が今まさにエイダに斬りかかろうと距離を詰めていたのだ。

  エイダは叫ばなかった。叫ぶ暇すらなかった。ああここで私は切られて終わるのだなという恐怖を感じる事しか出来ないほど刹那の出来事だった。

  エイダは反射的に目を瞑る。恐怖によって思わず目を閉じてしまった。エイダは迫る凶刃が自身の体を貫く瞬間を想像しただそれを恐怖しながら待っていた。


  しかしいつになっても凶刃はエイダに届かない。恐る恐る目を開けてみると。ドンキホーテが身の前にマントをはためかせ立っていた。迫る来るべき凶刃はドンキホーテがどうやら叩き折っていたようだ。

  ずるりと骸骨の兵士の胴体が崩れ落ちる。


「短距離転移の魔法が間に合ってよかったぜ。あぶねぇな全く。で見たところコアは破壊したようだな。」


「ああばっちしじゃ」


 氷柱で例の心臓は貫かれ灰となって消えかけていた。

 エイダは腰を抜かしてしまう。終わったのだこれで。

 その途方も無い安心感がエイダを襲った。


「コアが見つけられたのはエイダのおかげじゃ。礼を言うぞエイダ。」


「そんな私なんて大した事・・・」


「いや!助かったぜ俺たちの救世主だよエイダは!めっちゃ危なかったからなぁ!」


  エイダ達はこの勝利による安心感と達成感に酔いしれていた。


  しかしそれはどうやら早かったようだ。

 アレン先生の体が剣で貫かれた。

 

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