第2話 一方その頃

  今から2000年前この世界には魔王と呼ばれるものがいた。そのものは突然この世界に現れ多く国や大陸を焼き尽くしたという。そのおかげで多くの文明とその文化そして技術が失われてしまった。今日2000年前の遺産として残っているのは勇者が通ったと言われるここルーゴ街道だけである。そんな由緒正しき街道にひとりの黒く短い髪をもつ男と一匹の白猫そして一匹のラバが歩いている。

 男の風貌はさながら騎士といった姿で頭以外の全身に白い鎧をつけており、群青の色をしたフード付きのマントを身につけていた。しかもそのマントには白い複雑な魔法陣のような紋章が施されておりいかにも高級そうなものだと一目でわかるようなマントだった。そしてその鎧とマントのほかに男は腰に剣と古代遺物を復元したものであるリボルバーと呼ばれるような拳銃を携えていた。

 猫は毛並みはよく、艶やかでまるでシルクのような白い毛を持っていた。この猫を見たものは間違いなく金持ちの飼い猫であると思うような外見をしていた。

 それとは対照的にラバは毛並みは酷く、痩せてもいないしかといってたくましくもない平凡なラバであった。


「あーあーあー」


  これでいいかなと男はぼやく、どうやら発声練習を歩きながら街道のど真ん中でやっていたようだ。


「これから人に会うってーのに話す時に噛んでもして喋れねーんじゃかっこつかねーからな。こういう基本的な練習は大事だようん。なー?」


  一体誰に話しかけているのか。おそらく状況的にみて猫だろう。しかし別に奇妙なところはない、なぜなら猫に話しかけるなどどいうことは誰でもやることだ。そこいらの町娘だって、魚屋の店主だって、外でなんかよくわからない謎のおもちゃで遊んでいる子供だって、猫に話しかける、返事が返ってくるわけでもないのに。そう誰だってやるのだからおかしいことはないのだ。

 

 騎士風の男はそのまま猫に話し続ける。


「なあそろそろ機嫌なおしてくれないか先生。悪かったよあんたと他の猫間違えたことはよう、でもしょうがねぇだろ!あんなに似てたんだからさ!」


 その言葉を聞くと猫は哀愁がたっぷりと篭ったような鳴き声をニャーと出し


「いやまさかな思わなかったんじゃ、魔法を直々にそれも我々の天敵である騎士という職業についておるものに、教えてやった仲じゃというのにまさかその辺の街猫と間違えられるとはな、とがっかりしているだけじゃ」


  なんと喋り出した。男は気にせず続ける。


「だから悪かったってぇ、今度うまい飯おごるからさ。機嫌なおしてくれよ。アレン先生」


  アレン先生と呼ばれた猫はまたため息のような鳴き声を出し


「わかったよ、わしも少し意地悪が過ぎたな。ドンキホーテ。」


 と返した。

 この2人がまた和解したのを見てラバは安心したかのように鳴いく。


「ロシナンテ!先生許してくれたぜ!」


 と黒髪の男ドンキホーテはラバのロシナンテの頭を撫でた。


 街道を進み森の中にまで入ると「さてと」とドンキホーテは話を戻す。

「先生この先だ、例の女の子がいるところは」

 ドンキホーテが指をさしたのは街道の東側のなんの道も整備されていないところだった。


「この先に例の村がほんとうにあるのか?」


 先生は訝しんだ。ドンキホーテの指をさした方向は完全に人が通ることを想定されていないような、場所であり木が生え草が生い茂り、たとえ太陽を持ってきたとしても晴れないと感じさせるような暗闇が広がっていた。


「ボスから受け取った地図にはこっちが示されてるんだ。行くしかないぞ。先生。」


 ドンキホーテはなぜか楽しそうだ、気のせいか森の暗闇とは反対にドンキホーテの目は期待と好奇心で輝いているような気が先生にはした。

 先生は思い起こす


(大体最初から何か不安だったんじゃ)



 ドンキホーテとアレン先生、そしてラバのロシナンテは一週間前テルミという街で休養を取っていた。

 この2人と一匹は5年間もの間パーティを組んでいるそこそこ長い付き合いの騎士と魔法使い、そしてラバなのだ。

 そんなトリオが宿屋で休みながら仕事の報酬を数えている時。何かが窓を叩く音がした。

 ドンキホーテはこの音が好きだったこの音は「ボス」が遺跡の調査やドラゴンなどの特殊な種族との交流ができる仕事がやってきたという合図だったからだ。ドンキホーテは一番に窓を開けに行った。


 すると外にいたのは鳥を模したと思われる紙が宿屋の窓の外のベランダに落ちていた。ドンキホーテはすぐに気がつく、これは「ボス」のメッセージでよく使われる「折り紙手紙」であり鳥の姿に紙がおられ一人でに飛んできたのだと。いつも通りドンキホーテはその折り紙を手に取ると鳥の形から一人でに元の形と思われる一枚の文字の書かれた手紙へと姿を変えた。

 その手紙にはこう書かれていた。


「やあドンキー僕だ、突然で申し訳ないんだが君に頼みたいことがある。私の弟子であるエイミーから彼女の子供を保護してほしいという依頼が届いた。

 なぜかはわからないだがとりあえず私達の手のなかに彼女の子を置いておいた方が安全だという話なのだ。エイミーは自分の子、エイダと私達が合流する時間まで決めている。今からちょうど一週間後の昼だ。今回の依頼は謎が多くてすまないだが、私自身弟子のことにもかかわらず、わからないことが多い

 どうか気をつけてくれ。ああ報酬はいつものところに今回は経費も含めた前払いだよろしく頼む。」


 読み終わると同時にドンキホーテは服のポケットから金色の鍵を取り出しタンスの方へと向かった。

 タンスには鍵はないだがドンキホーテは鍵をタンスに向けそのまま鍵を押し付けた。するとするりと鍵はタンスの中に埋め込まれまるでそこに鍵穴が元からあったかのようにタンスにはまった。

 ドンキホーテがそのまま鍵を回すとタンスが一人でに開き、中から羽の生えた小さな人間のような姿をした生物が飛び出してきた。この世界ではこのような生物を妖精と読んでいた。


「毎度ありぃ!妖精のどこでも倉庫へようこそ!ドンキホーテさん今回は何を引き出すの!?」


「うるさ!びっくりしたぜ、元気があるのはまあいいことだけどよ。危うく心の臓が止まるかと思ったよ。なあ妖精さんうちのボスから金を受け取ってねぇかな?あと預けといた装備一式頼む。必要になったんだ。」


「はあいわかりましたー!」


 そう元気な返事を妖精はするとタンスの方へと向き直る。タンスの元の中身はどこかに行ってしまったのか。タンスの中は星のきらめく夜空が広がっていた。妖精はその夜空の中に入っていくと星を一つ掴みタンスの外へ持ってきた。すると星はたちまちドンキホーテのいつもきている鎧一式に変化した。


「ああ、あとボスからの報酬も頼む。」


 また元気よく返事をした後妖精は星をタンスの外へと持ってきた。すると案の定、星は変化していき大きな麻袋へと姿を変える。身長180センチはあるドンキホーテが抱えれられるような大きさで、ドンキホーテは穀物の入った袋かと一瞬勘違いしてしまったほどだ。

  彼が袋の口を開けるとその中には沢山の金貨が入っていた。その量は凄まじく節約すれば10年は安泰に暮らせるだけでなくお釣りすら来そうな量だとドンキホーテは思った。そしてドンキホーテはいてもたってもいられなくなりアレン先生にこのことを急いで伝えに行ったのだ。



 そして時は1週間後の今に戻る。ドンキホーテ達はあの暗い森を抜けて村にたどり着いた。

 

「すみませんそこの方申し訳ないんだが。我々はエイダという女の子を探しているのです。心あたりはないでしょうか?」


 ドンキホーテは村人を見つけるなりこのような感じでかしこまり、話を聞いた。我々というドンキホーテの言い方は村人からすればかなり奇妙だったがドンキホーテの敬語を使った対応や、一応騎士らしい風貌はしているので信頼しエイダのことを年齢と外見から住んでる家まで教えてくれた。

 話によるとエイダは16歳で銀髪の髪を持ち普段は村のはずれにある。もっと深い森の中の家に住んでいるらしい。


「相変わらず裏表が激しいやつじゃな」


 アレン先生はエイダの家へと向かう途中、思わず口に出してしまった。


「先生、聞こえてるぜ。あれくらいの対応はな。騎士やってりゃ誰でも身につくもんさ、裏表があるわけじゃねぇ先生と違って礼儀をわきまえてるんだよ。」


「わしだって礼儀くらいわきまえておるわい!ところでなぜあんなに例の娘について聞き回っていたんじゃ?そこまで気になることか?例の娘が」


「約束の時間まで時間があったっていうのと。何より先生の言う通り気になったのさ、なぜボスはあそこまで金をかけるような真似をしたのかなってよ。たしかに自分の弟子の娘っていう理由だからって言われればそれまでなんだが。どうにも他の理由があるような気がするんだよなぁ。先生はどう思うよ。付き合いは長いだろボスとは。」


「知らん。あいつの思考はわしには読めんよドンキホーテ。」


「そうか先生もか、まあいいやそろそろ着く頃じゃねぇか?エイダの家によ。」


 ドンキホーテの言った通り誰かの家のようなものが木々の間から見えた。さらに木や草を分けていくと煉瓦造りの小さな家が現れる。


「ここか」


 ドンキホーテは入り口へと向かうべく歩き始めた。

 すると微かに異常を感じた。何か違和感があるのだ言葉にできないほどの違和感がドンキホーテはアレン先生にアイコンタクトを送ると急いで入り口へ向かった。


「先生こりゃあいったい。」


「約束の時間より先に訪問者がいたようじゃな」


 家の中には誰もおらずただ玄関には大量の血がこびりついていた。


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