第5話:誘い手
何も知らないアーサーが、セラン皇太子殿下を殺せとわめき続けています。
セラン皇太子殿下の正体を知っている王侯貴族は、いえ、近衛騎士も警備兵も、誰一人アーサーの命令に従おうとしません。
セラン皇太子殿下の激怒が理解できるので、誰もアーサーに真実を教えようとはしませんが、命を捨てる覚悟の有る忠臣が諫言するかもしれませんね。
「私を殺す、それは本気かな、本気なら家の存亡を賭けた戦いになるぞ」
やはり、セラン皇太子殿下はアーサーを罠に嵌めて開戦の口実をつくり、プラット王国を併合するためにここに来られたのですね。
私を祝うために来てくださったわけではないのですね。
分かっていたこととはいえ、明らかになると哀しくなってしまいますね。
もう少し、優しい嘘に包まれていたかったです。
「やまかしい、田舎公爵が偉そうに、望み通りプラット王国軍で攻め滅ぼしてやる」
馬鹿が、取り返しのつかない言葉を吐きました。
もうこれで我が国の滅亡は避けられません。
最低でも王家は皆殺しにされ、皇族の誰かが属国の諸侯王としてやってきます。
その時には、この国の貴族もただでは済まないでしょう。
妹が開戦のきっかけになった我がエンドラ公爵家も、攻め滅ぼされるでしょうね。
「その言葉、宣戦布告と受け取った。
もう取り返しはつかんからな、覚悟してその首を洗っておけ」
セラン皇太子殿下は、アーサーではなく満場の国内外王侯貴族に宣言されました。
ですがそれは、狂犬のようなアーサーから視線を外すことになります。
それはあまりに危険な行為で、身勝手で卑怯なアーサーがこの機会を見逃すはずはなく、視線を外されたセラン皇太子殿下に斬りかかっていきました。
一瞬心臓が止まるかと思うほど恐怖を感じました。
セラン皇太子殿下が助かりますようにと、神々に願い奉りました。
プッシャアアアアアア!
実際に音が聞こえるほどの勢いで、アーサーの両腕から血が噴き出しています。
アーサーの両腕が、肘の少し上からなくなっています。
セラン皇太子殿下は全く微動だにされていませんが、その前に一人の巨大な騎士が立ち、巌のように護っています。
間違いなくセラン皇太子殿下の守護騎士だと思いますが、あれほどの偉丈夫がこの会場にいたら、誰でも気が付くはずなのに、私は全く気が付いていませんでした。
「下劣外道な塵が、セラン皇太子殿下に指一本触れさせん!
セラン皇太子殿下の守護騎士であり、ルセド皇国大将軍格のザウェル辺境伯モントが、セラン皇太子殿下に成り代わりここに宣言する。
ルセド皇国は、プラット王国の卑怯極まりない騙し討ちに怒り、宣戦を布告する」
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