第3話 世知辛い世の中だよおとっあん
「…なぁ」
「何でしょう、タカツグ様」
「様いらねぇって言ってんだろ…ってそりゃどうでもいい。が、だ。夜通し見張るんだったら宿いらなかったんじゃねぇ?」
「……あ」
節約大事とか言いつつ、こいつも結構抜けてんなとは思う。が、取っちまったもんは仕方ない。
魔除けの魔法陣を展開させ、余計な物…例えば虫系の魔物とかを寄せ付けないようにしてくれるミルフィは、今気付いたみたいなアホ面をしているが
「タカツグ様も気付かなかったでしょう、私だけを責めるのは…」
「しっ!」
反論しようとしたミルフィの口元を掌で抑える。
ギルドにて今まで野党が出た地域を地図で確認。商人が通る道に出没する事が多いと聞き、ヤマを張ってみたら案の定数人の気配が森の中からする。
(すげぇな、これ気配察知も出来るのか?)
(本来なら出来ませんよ……タカツグ様の能力値どうやら思っていた以上に高かったみたいで闇の適性が夜の時間帯により増幅されている様子だと)
思念だけで会話する術式をミルフィに出してもらい、成る程ねと頷き
(さて、どうする?襲わせてから捉えるか、未然に防ぐか)
(人違い、だったら賠償金とか面倒ですので…事が起きてからの方が)
世知辛いなと思いつつも、賠償金は嫌なので素直に頷く。結局は金だ、人助けも余裕が無ければ出来ない。
ぐ、と良心を抑えつけ時を待つ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「助けてくれーっ!!」
悲鳴が上がり、馬の嘶きが響き渡る。夜盗が行動を起こしたらしい。
「行くぞ」
「はい」
同時に飛び出す。馬車の馬は繋いであった綱を切られ、野党らしき布を顔に巻いている男達がその先を持っている。商人と見られる数名は中央に集められ剣を突きつけられていて震えていて
「か、金も品物もやるから命ばかりは」
「……お前たちを人質にして身代金を要求するから傷付けはしない」
リーダー格らしきガタイの良い男が低めの声を発した。
「おい」
「何だ!貴様らどこから…くっ、身体が動かないっ」
先程ミルフィと打ち合わせた通り、先に背後に回り込み陣を足元に張っていた。不思議と頭の中に術式などが浮かび難なく出来たそれに自分でも驚いていた。
「動くな、と言っても動けないだろうから……大人しくしてもらう」
「断る」
「つーても動けないだろう、お前」
ヒュン、と風を切る音がして頬すれすれに矢が飛んできて痛みが走る。
「うわっ、びっくりしたっミルフィちゃんと防護壁張れって」
「他に仲間がいるなんて知りませんでした」
まずはごめんなさいだろう、とかちんと来たが今はそれどころじゃない。
「油断したな」
男の余裕はここからきているのか、と深くため息を吐き
「使うのは初めてだが」
つーても、どの魔法も使うの初めてだよと自分の中でツッコミを入れながら
「術式<深淵の予言>展開」
うわぁ、厨二っぽいとか軽く冷汗を流しながらも、頭の中に浮かんだ呪文を唱える。
「ひっ、何だコレ」
その場にいた、つまり魔法陣の中に居る全ての者の顔が引きつる。
『お父さん、私のと洗濯物一緒に洗わないでって言ったでしょ』
『パパくちゃーい』
『一体いつになったらまともな職に就いてくれるの』
あ、コレ不味い。俺にまで被弾してる。うずくまるとミルフィがふよふよ浮きながらやってきて
「何やってんですか、自分までかかっちゃ意味ないでしょう」
「…どうせ俺はなにやってもダメなヤツだし…あはあはあは」
「しっかりしてくださいッ」
ばしっと、どこからか出したスリッパらしきもので叩かれて目が覚める。
「何でスリッパ、そしてそれで術が解けるのか?」
「施行者だけですよ、他のは貴方が解かなければあのままです」
見ればのたうち回っている男達の姿。中には涙や鼻水を流している者もいる。
「恐ろしい魔法だ」
「だから言ったでしょう、最悪にして最凶の暗黒魔法だって」
俺が見たのは、将来家族を持ち子どもらにはののしられ妻らしき女性にも詰め寄られる世界。
思わず、自分の身体を自分の腕で抱きしめる。
「あんなの体験したくない」
「幻覚ですからね、事実は違いますが。体験してるものは堪ったもんじゃないでしょう。後、これ時間制限ありますからとっとと夜盗達がのたうち回ってる間に縛っちゃいましょう」
「だって魔法陣に近付くとアレにかかるんだろう」
「タカツグ様はメンタル面を鍛えないとまたかかるでしょうね、あれネガティブな人ほど良く効くみたいですから」
メンタル、確かに俺のは豆腐並みである。じゃなくて。
「お前羽だしてなくても飛べるのか?」
「はい、なので一人ずつ此方に転がしますから縄で縛ってください」
どうにもミルフィのサポート無しでは上手く行かないと知り、その指示に従う。
「これで全員ですね、術式解除して下さい。商人も巻き添え喰らってますから」
「……了解、術式解除」
手をかざすと魔法陣がすぅと消えていく。涙と鼻水まみれになっていた商人達が我に返ったのかきょろきょろと周囲を見渡し
「あれ、娘は?」「妻が居た筈なんだが」と目を虚ろにしている。
「大丈夫ですか?」
術式を掛けた本人が言うのも何だが、とりあえず声を掛けると
「あ、ああ……アンタらが助けてくれたのか?」
「まぁそんな所。でも何で護衛とか雇わなかったんだ」
「うちはそんな大きな商会じゃない、出来るだけ経費は抑えたくて」
「ケチったのが裏目に出たなぁ」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。そのおかげでこうして依頼達成できたんですから」
馬を馬車に繋ぎ直している商人達を尻目に、夜盗に向き直る。
「さて、お前達だがギルドから討伐の依頼が来ている。悪いがこのまま引き渡す事になる」
「俺たちだって好きで夜盗やってる訳じゃないっ、魔族を名乗る奴らが村さえ襲わなければ農業で食っていけてたんだ」
「そうだ、そうだっ。ギルドがあるなら魔族を退治してくれたらいいのに」
口々に叫ぶそれらに
「だからって、夜盗は無いだろう」
「ぐ、他に雇ってくれる所があれば……俺たちだって」
「無かったのか?」
「魔力も無く一般人な俺たちが出来る事はたががしれてる」
こりゃ相当根深いな、とは思いつつも。
「それでもやった事には変わりない。ちゃんと罪は償っとけ……俺だって一歩間違えたらそうなってたから気持ちはわからんでもないが、短絡思考は良くないぞ」
「タカツグ様がそれ言いますか」
「お前には言われたくないミルフィ」
夜明け前の少し紫がかった空が広がり始めている。
「とにかく、こいつらをギルドに運ぶぞ」
「あ、それでしたらタブレットで報告すれば派遣員が来てくれますよ」
「もう、ファンタジーなのか現代的なのかはっきりしてくれ」
と、今更ながら掠った頬の血に触ると既に乾いていて、弓を放ったやつの気配が消えている事に気付く。
「使いどころ間違えたら、相手を廃人に追い込んでしまう魔法か……」
改めて自分のチート能力に身震いを覚える。
コントロールと使い方、そしてメンタル面か……。
「鍛え直しだな、コレ」
「……タカツグ様、熱でもあるんですか?」
「お前、本当に後で覚えてろよ?」
町に帰ったらギルドに寄ってこれからの方針を決めないと、と大きく伸びをした。
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