転生したら転生してないの俺だけだった 〜レムリア大陸放浪記〜
鈴波 潤
第1話
転生したら転生してないの俺だけだった
〜レムリア大陸放浪記〜
0.役所の手続き
「…ふっ!ああ、うたた寝してたのか」
俺はビクッとベンチから体を伸ばす。周りはザワザワと人の声。手には…紙
「テ-27?」
目の前には良くある役所の受付みたいな風景だ。
「あれ?何だっけ、年金の申請?」
「テ-26番の方ぁ〜?」
丸眼鏡をかけ、チェックのシャツを着て長い髪をまとめた青年が窓口に向かう。
「 チートが」「最近は支援職」「譲れませんぞ」とか力説する声が途切れ途切れに聞こえていたが、やがて納得した様で、満足そうにうなずくと姿が
「消えた?な!おい」
「テ-27番の方ぁ〜?」
おっと俺だ。
窓口には花柄の自作腕カバーを付けた眼鏡の女性事務員。
「すざ…朱雀(みなみ)還流(めぐる)さん」
とりあえずつっかえながらも、正しく名前を呼んでくれた。俺の名前はまず姓が難読(まあ四獣で言えば正しいけど)に加え、親がまた凝りまくりの今で言うキラキラネームを付けたので、ちゃんと呼んで貰える事がまずない。
「えーみなみめぐるさん、昭和29年4月◯日生まれと」
「はい間違いないです」
「心筋梗塞で寝室でご臨終」
「え?俺死んだの?」
録画した深夜アニメ見てねえよorz
「で、宗教お調べしたら"無宗教-転生希望"でしたので、こちらでお呼びしました」
"テ"って転生かよ。
「俺一応クリスチャンなんだけど」
「クリスマスしか行かないじゃないですか。キリスト教徒の方は、転生なんて信じてないです。最後の審判の日にみんなお墓から起き上がって天国行くんです」
「じゃあ俺は仏教徒かも」
「お釈迦様は輪廻転生なんて一言もおっしゃってません。まあ後の坊主どもが営業で色々言ってますが、だいたい転生してたら、お盆に先祖が帰って来たり出来ないじゃないですか!」
「そ、そう言えばそうだな。でも俺もそれ程転生を信じてたわけじゃ」
「あなたオタクじゃありませんか!オタクはみんな転生希望ですよね!」
10年ほど前にふとつけた深夜テレビで、女子高生が軽音楽部やるアニメにはまってから、俺は遅咲きのオタ爺ライフを楽しんでいた。社畜としてこき使われて、ようやく定年。年金生活で細々と聖地巡礼とかしようとした矢先だった…。
「いや決めつけはよくないですぞ」
「あなたア◯◯ズ教徒でしょうが!」
確かに最近好きなのは、転生して駄女神と一緒に冒険する話。特にその女神を信じる宗教の教え
「どちらに進むか迷ったら、楽な方を選びなさい」
に、社畜生活40余年の魂が震えたのだよ。
まあ冒険もいいか。ロリ魔法少女、脳筋のブロンド女戦士、エルフの弓使い美女!
「あの…妄想中申し訳ありませんが、多分思っておられる様な転生先は、ちょうどさっきの方で在庫終了しまして、この手はチートマシマシ勇者・魔法使いも、最近人気の支援職コツコツも、ぜんぶ品切れです。先程の26番の方が、残り全て持って行かれました。かなりチグハグなパーツ掻き集められたので、彼の人生が心配なんですが。なのでシルバー世代のみなみさんには、もっと大人の落ち着いた転生先を」
それ禁句なんだよね。20代30代の若造には、「お年寄り」としか思えんのだろうが、今の60代ってビートルズ直撃エイジだから、カラオケで演歌歌わない。アニメオタクだって決して推しを乗り換えたりしない、アツい世代なのさ。
「はあそうなんですね、時にみなみさん、大学入試は日本史で?世界史?」
「世界史だが。山川の灰色の教科書」
「あああぁ。分かんないですけどぉ。例えば中国史はお好き?三国史とか」
「人名の漢字が覚えられなくてねえ。孫堅と孫権とか引っ掛けかよと」
「うーん名前かー。じゃあこれがいい!これにしましょう。名前カタカナ。どうせ現世の歴史とは整合性はないので。これにしますねっ、」
これってどれだって思ううちに蛍の光が流れる。
焦る受付嬢。
「うん、これ朱雀還流さんオーダーメイドに近いな。いい仕事出来た」
自画自賛している。
「まあ本当に転生できるなら、引きこもり激安年金オタクライフより面白いかも。良くわからないけど、それでいいです。その代わりちょっと色つけて貰わんと」
営業職の本性が顔を出す。
「分かりましたです。幼馴染の美人お姉さんキャラ。ちょっとヤキモチ焼き。ナイスバディのメイド属性。こちらを相方で」
「ほう、続けたまえ」
「で転生先の舞台背景とか、お持ち頂けるチートとかですが、場所はですね。レムリア大陸って言う大きな塊みたいな大陸の真ん中へん、世界の背骨と呼ばれる1万メートル級の山脈の北麓の高原ですね」
「レムリアってあれか?ユーラシア、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリアが別れる前の大陸?」
「あ、名称は適当にチョイスされてるんで、気にしないで下さい。まあこっちの歴史に詳しいと、色々ヒント位にはなるかもです」
「ふん。で俺は何をやるの?」
「その高原の国の教祖みたいな王様からスタートです。詳細はネタバレになるので、お楽しみに。って事で」
「スタートって事は王様じゃ終わらないって事ね?」
「その辺の展開はみなみさん次第で変わるんですが、はっきり言えるご注意点は、自分には異世界の前世の記憶がある事を絶対言わない事。言うとバッドエンドです」
「なんで?」
「ここまでは申し上げて良いでしょう。その世界では、全員が自分の前世の転生記憶を延々と持ってるんです」
「なんと!」
「だから前世が異世界人なんて言ったら、大変な事になります。まず消されます」
「今までこっちからの転生者は?」
「みなみさんが初めてです。不良ざ…いや選ばれたお客様だけの、とてもユニークな物件なので」
今不良在庫って言ったよな。
まあいいや、面白そうな世界だしな。
「あと途中で大きなフラグが立ちますので、ここは見逃さないで下さい。手短に言いますね。みなみさんが異世界転生者である事が、ある方にばれて問い詰められます。その時は正直に白状して、相談して下さい」
「判った。あと、チートって何かくれるの?」
「詳しい事言うとつまらないので、ヒントだけ言いますね。チートは二つあって」
つまらないのか?…誰が?
「最初のヒントは"知は力なり"」
「ソクラテスだったっけ」
「ロジャー・ベーコンですよ。本当に世界史で受験したんですか?」
「うるさいな。倫社って受験科目もあったから哲学史は世界史じゃ出ないって塾の講師に言われたんだよ!であと一つは?」
「汝、右の頬を打たれれば左の頬を差し出せ」
「それは知ってるよ。日曜学校行ってたから 」
非暴力主義って事かな?
「ではそろそろ出発という事で」
「ま、待てまだ聞きたい事が…」
時計の針が午後5時丁度を指す。
「では、ご安全に」
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