第49話 1-49 守護騎士と守護聖獣

「ホムラ、儀式は無事に成功したかな」


 遥か下にいるディクトリウスから念話が入った。

 ここからじゃ手を振っても遠視の魔法でもないとみえないんだろうなあ。


 一応周囲の空気は薄くならないように能力で加圧している。


 何故、自分の僕たる猛禽類文鳥の嘴の上で高山病などにかかっていなければならないものか。


「ああ、そうみたいです。

 あの子とお話しましたよ」


「ほお、どこから来たって?」


「ああ、あの子は最初からこの世界にも向こうの世界にもいなかったのだそうです。


 俺の世界に概念だけで存在していた幻の巨獣ジズ。


 俺が連れてきちゃったその『概念』が、この世界の力に反応して巨獣になったもの。

 それがジズです。


 この世界の魔物とは異なる、いわば特殊な『概念的な落ち魔物』で、この世界へやってきた瞬間から落ち人たる俺が生み出したものですね」


 少し沈黙されてしまった。


「道理で、そんな名前の魔物がいなかったわけだ。


 まあ落ち人のやる事にいちいち文句をつけても仕方がないのだが、やはりこの世界の常識からいえば、それは大変に非常識な物だとだけ言っておきましょう。


ホムラ、下へ降りてきなさい」


「へーい」

 段々と、この返事が板についてきたな。


 なんか、そういう返事になってしまうような微妙な空気が多いのだもの。

 そして俺は彼の前に着地して口頭で言った。


「でもディクトリウス、こうも考えられませんか。


 この子のような物を落ち人がやってくる度に彼らが生み出して、古代文明がそれを改造して使っていたのが真実とか。


 むしろ、その方が俺的には納得ですね。

 だってこんな大きな魔物が、他に何故どのようにして生まれたのか」


 ディクトリウスも更に頭が痛そうにしていたが、同時に彼の眼が密かな知的好奇心に輝いていたのが見て取れた。


「それについては、今後の研究テーマといたしましょう。

 さて陛下。

 この魔物とその主の処遇はいかに。


 いずれ、この国にも敵の先兵として巨獣がやってきましょう。

 この帝都に」


 それを聞いた皇帝陛下は、しばし黙して頭を巡らせてからこうおっしゃった。


「よし、それではホムラに守護騎士の役目を申し付けよう。

 姫の騎士とは今まで通りで兼任を。


 給金は守護騎士の規定に基づき、皇女の騎士の禄とは別で支給するものとする。


 それと今回の帝都防衛の功績の報酬として金貨五百枚の支給を。


 その鳥には、そうだな。

 守護聖獣ジズの名を与えよう。

 よいな、グラッセル」


「御意」


 あ、なんか俺の給料が増えたっぽい。

 主に俺の僕になった鳥がやらかした『おいた』のせいで。


「あのう、陛下」

「なんだね」


「ええと、それって具体的には何をすればいいのかなと」


 彼はその偉丈夫な体を揺すり、高らかに笑った。


「何、今まで通りよ。

 姫の護衛並びに巨獣からの帝都の防衛だ。


 お前の事だから黙っておってもやってくれそうだが、雇った人間が体を張ってくれるのに皇帝としてタダ働きはさせられん。


 それに、お前に箔をつけておかんと、また小煩い奴らが因縁を付けてきても面倒だ」


「箔?」

 代わりに応えてくれたのは、グラッセル皇女だ。


「守護騎士は『侯爵相当』の地位だ。

 普通は一兵団を率いて帝都を守る、都の防衛長官のような地位だ。


 お前は一人だが、あの魔物込みで一兵団扱いという事だ。

 実際にはそれ以上の力もあるはずだが。


 通常そういう物は、王や皇帝も貴族の地位を与えて国元に、自分の傍に仕える駒として置きたいわけさ」


「そういうもんなの?」


「ああ。

 たとえば、お前なんかに敵に回られては堪らんからな。

 まあ、お前の場合はそういう心配はなさそうなのだがな」


「まあ、他にそうそう行く当てもないしね」


 第一、ここほど俺によくしてくれそうなところも他になかろう。

 そして彼女はこう付け加えた。


「また、迂闊に貴族に列すると、それはそれでまた煩い国内の連中がいる。


 だから、あくまで貴族相当の地位として守護騎士扱いとしておいて、報酬も上級法衣貴族相当の金額になると言う事だ。


 本年度の報酬と今回の報酬は、お前の口座に入れておくからな」


「はあ、どうもありがとうございます。

 うーん、いいのかな」


 何しろ、この俺自らが生み出したような魔物が敵に操られて帝都に攻めてきて、それを俺が戦って自分の従魔にしたのだ。


 これって、いわゆるマッチポンプって奴にならないかな。


 それで報酬をもらうのもなんなのだが、さっき言われたような事情があるのなら大人しくもらっておこう。


 そしてグラッセル皇女もこう言ってくれた。


「何、構わん。

 お前がエリーセルを救ってくれただけでも助かっているのだからな。


 この国に栄華と災厄を両方招くという依り代の巫女を疎む者も国内外にいるが、それはこの国に取り定期的に現れる神の試練のような物よ。


 それをよりよい方向へ導くのが我ら皇帝家の務め、私らはそう考えている。

 では守護騎士の任、頼んだぞ」


「わかりました。でも魔物に関しては少し調べておきたいなあ。

 どうせ、そいつらとやりあう事になるんでしょう?」


「ああ、わかった。

 それはまた暇を見てレクチャーしよう」

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