第11話 1-11 マナ

 そして俺が連れられていったのは、王宮内の大通りをかなり行って、王宮の裏手に出た場所だった。


 どうやら警備隊の大規模な詰所や屋内練兵場のような場所があるようだった。


 そこでは剣の稽古に汗を流したり、弓を放ったりしている者達がいた。


「ここなら少々の事は構わないだろう。

 それで、お前の能力とは?」


 キャセルの問いに対して、俺は右手に纏わせた電撃を作り出して答えとした。


 次に普通の感じの歩幅で立ち、両手をゆったりと広げるような感じで体の前方にアーチのように電撃を作り出す。


 いわゆる自然体の態勢で気負わずに両手の先から電撃を出して繋げて、そいつを維持してみただけだ。


 だが、その激しい紫電は大いに目立ち、そこにいた人々の耳目を集めたようだった。


 その中でも精悍そうな、二十代前半から半ばくらいの黒髪のお兄さんがやってきて問い質した。


 気取ったところは皆無で、おそらくは平民なのだろう。


「なんだ、そいつは。

 ん? お前はアントニウスか。

 皇帝陛下の諜報がこんなところに何の用だ」


 あ、アントニウスめ、警備隊から嫌われているな。

 さっきもそんな感じだったし。


 そうか、貴族の子弟連中は実力もないのに親のコネで出しゃばって、この前の王女様襲撃事件のような結果に繋がるから、おそらくは平民の数が多そうな実力本位の警備隊からは嫌われているのだな。


 それにどうせエリート風や貴族風を吹かしたりする奴もいるのだろう。


 同僚で同じく平民であるキャセルには、その煩そうな彼も何も言わない。


「あ、ああ、エリオットか。す、少しな」

 くすっ、歯切れが悪いね、貴族の旦那。


「やあ、少しお邪魔していますよ。

 ちょっと、そこのキャセル様のお手伝いにね」


 すると彼はキャセルの方を向いたが、それにはまったく険がなく、単に困惑したような視線であった。


 キャセルも困ったようだったが、俺は構わずに続けた。

「これが何かわかるか、キャセル」


「え、よくわからないな。

 そのような電光のような物を発する人間など私は見た事がない。


 それにお前はあの時、炎を使ったではないか。

 見た事もないような青い炎を。

 敵は一瞬で燃え尽きた」


 なるほど、この世界では俺のような人間はそうそう居ないという訳か。


「では、自然の中にある物ではどうか。大方の女性はあれが嫌いとはいうが」

「え?」


 だが違う人物は的確に言い当てた。

「それは雷の力、違うか?」


「ご名答。

 エリオットさん、あんたは切れ者だなあ」


「雷だって?

 ホムラ、お前は雷を使いこなす人間だというのか」


「それが俺の元々の特殊な性質、いや体質なんだ。

 だが、そいつがこの世界へ来て以来、異様に肥大化しているのさ」


「この世界だと?」

 またしてもエリオットが聞き咎めた。


「ああ、落ち人っていう奴か。

 俺はそういう人間なのらしい」


 エリオットもまた目を見開いた。

 やはり落ち人というのは相当物珍しい人種なのらしい。


「雷って言う奴はいろいろな事ができるものなのさ。

 例えばこんな具合に」


 俺は両腕を合わせていくような感じにしていき、ついには押し出すようにしてその電光を矢の的に向けて放った。


 それは激しく電撃として的へと向かい、それを大音響と共に爆砕した。

 これが更に人を集めてしまった。


「うーん、こうやって使うと炎とは少し感じが違うな。

 大木を真っ二つにしてしまう落雷そのものだ。

 あれだって、いくらかの火は起こるわけだが。

 しかし、結構遠くまで届くもんだ」


 俺は集中した。

 あの炎を出すように。パイロキネシス、焔を巻き起こす能力。


 だが、あれは静電気発火の能力のはずだ。

 俺の能力の本質はそれなのだから。


 むしろ、このような不思議な電撃を使える方がおかしいのだから。

 何故か妙に応用が利くようになってしまっているのだろうか。


 そして狙った隣の的が燃え上がった。

 ほお、電撃という形でなく、直接目標物を燃やせるのか。


 青い高温の炎に包まれて木製の的は一瞬にして燃え尽きた。


「わかるか、キャセル。

 俺の能力の本質は雷のような物。

 他はそれを応用しているのだろう。


 あれこれ出来ると思うが、報告書にはこう書いておけばいいさ。

 あのホムラという少年の力は雷のような力が本質の、それを応用したと思われる強力な炎の使い手なのだと」


 ついでに俺はもう一つ試したい事をやっておいた。

 さっきから、ここの空間を帯電させておいた。


 その中で電磁力により、物体を飛ばしてみたのだ。

 さっき俺が木っ端微塵にしてみせた的の破片が俺の思い通りに乱舞した。


 へえ、まるでサイコキネシスを使っているかのような凄い光景が見れた。

 この強化された力の源は何なのだろう。


 俺は呆然としてそれを眺めていたキャセルに尋ねてみた。

 自分の首にかけられたそれを見せつけながら。


「この世界には魔導具とやらがある。

 それはどうして動くんだ。

 この世界には魔法や魔法の元になるような力があるのかい」


「あ、ああ。それはマナという物だ。

 魔素といってもいい。

 だが魔法は難しい。


 それらを、理を持って魔法という形の事象にするものだが、滅多に魔法の使い手などはおらぬ。


 魔法について書かれた本も今ではその多くが失われて久しい。

 世界のどこかには、まだまだ多くが健在であるのかもしれんのだがな」


 くっ、魔法なんていい物があるのかよ。

 そのくせ、その多くが失われたのだと~。


 くそ、そんな物があるのなら出来れば、いや是非とも覚えてみたかったのに。

 だが俺の力は、その魔法の元とやらが関係しているのかもしれない。


「そう言えば、落ち人という者は魔法をよく使うと言われているが、お前の力は魔法ではないのか」


 アントニウスがそう訊いてきたので、俺は首を振ってやった。


「生憎な事に、これは魔法とは違うと思う。

 これは俺の特異体質から来るもので、そんな体質の人間は滅多にいないよ。


 この世界の希少な魔法使いよりも、更にその数が少ないのではないかな。


 ただし、力が異様に強くなっているのは、その魔法の素とやらのせいなのかもしれないな」

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