偽りの記憶がもたらす誤ち

 悪魔、魔人。

 RPGでそんなのが出て来たら魔王側の人ねって察するのは容易い。


 魔の王と書いて魔王なのだから。


「そんなわけでまるで交渉にならなくてな」


 聖教国では魔人はウチが差し向けた刺客的な何かだと思われているらしい。

 魔人はメイドイン聖教国ですよ、といってもウィンドルームの連中は信じやしない。

 シュテンがぼやく気持ちもよく解る。

 挙げ句……


「今後も支援を続けろってかよ」

「支援をもって敵意のないことを証明しろ、ということらしい」

「魔人がやったんだから弁償しろよ、としか聞こえんね」

「本音はそうなのだろうな」


 壊滅したウィンドルームの復旧。

 クレーンもブルドーザーもない聖教国。

 しかも人手がないと来ている。

 復旧も何年どころか何十年かかるか。


 騎士はネギみたいに生えてこないからね。

 壊滅したウィンドルームの騎士達は勿論、かなりの被害を受けた衛星街の騎士達。

 ウィンドルームどころか、無事な衛星街まで今後どうするか。


「冒険者達を招集し、立て直すそうだ」

「冒険者もただじゃ動かない。

 食料のない土地になんぞ、来たがらないわな」

「そこで他からの支援が必要になるが、聖教国には支援する余裕がない」


 だからウチから物資を出せということらしい。

 領の中央を建て直したとなれば、それなりの関係にはなれるだろうか。


「ウチに利があるから別に良いけどね」


 支援を続ければ東北拠点に金が集まり続ける。

 あくまでウチの余裕分に限るのであれば、支援要請は受けても構わない。


「しかし、魔人化か。聖人達も随分なことを考えたものだ」

「そだね」


 おそらくピッタ自身の強化のために、実験にでも使われたのだろう。

 食道楽の報告でピッタが生きている事は解っている。


 だとすればピッタが自身を強化する理由は何かという事だが。


「狙いは、ウチ……か」


 つーても失敗してんだけどね。

 魔獣の力を取込めば理性をなくす。


 それが解った以上、ピッタは自身を魔獣化できない。


 2号は自身を制御できなかった。

 俺達は人間とアンドロイドが人格を引っ張り合う。


 自身に魔獣を取込み、魔獣の因子を潜伏状態に抑える。

 普段は人間の人格が強くても、魔獣が覚醒すれば凶暴化する。


 おそらく2号の魔獣因子は不安定だったのだろう。

 無理矢理埋め込まれた身体におとなしく定着できず、ふとしたきっかけで目覚めてしまうようなものだった。


 その結果もたらされた惨事。

 それがウィンドルームにもたらされた悪魔飢饉の正体だ。


 そしてウィンドルームを破壊してしまった2号は聖教国に更なる被害が出ないよう、ウチにやってきて再度暴走した。

 迷惑だ。


 何にせよ、これでピッタも打つ手を失ったことだろう。




◇◆◇◆◇


「東北拠点の発展が問題なくなったのなら、そろそろ開始しないとね」

「そうね。オーガさんも人員の確保はお任せあれ、って言ってたわよ」


 言うのも恥ずかしい我らが移動要塞リヴァイアサン計画。

 名前については諦めた。


「東北拠点からなら船で行って帰って……どれ位かしら?」

「でかい荷物背負ってくるからな。1ヶ月位は見た方がいいんじゃない?」


 聖教国のアホがミスってくれた事が明確になった今、目に見える脅威は特にない。

 この後に魔人が何人も攻めてくるとかだったら、超急務だったけどね。

 まあ、内部に入り込まれたわけだからそれなりに脅威だったわけで、実際奴らが攻めて来ても防衛装置で蜂の巣か。


 魔人が街に入り込めたのは、2号という人間の外観に戻ったからだ。

 外套のおかげで変身して服が破れても解りゃしない。

 

 普通の人なら凶暴化して終わり。

 でも2号が元に戻れたのはアンドロイドのCPU制御によるものだろう。

 要は人間が魔人になったら、人に戻って街に入り込むとか無理ってわけ。


 もう2号もいなくなったのだから、内部に入られる危険がないわけで。


 虎皮共の尻を叩いて新拠点建造を急がせる必要もないだろう。


「船の上なら魚釣れば食料には困らんだろうが……オーガには準備は念入りにするよう言っておいてくれ」

「いいけど、トキが行った方が喜ぶわよ?」


 オッサンに喜ばれてもねぇ……


「オーガには今度の飲み会で会ったときに言うよ」

「そうして頂戴」


 こちらの都合で出張して貰うのだ。

 言葉の一つくらいはかけよう。


「なんなら贈り物位してあげても良いんじゃない?」

「えー……例えば?」

「2号さんの素材を欲しがってたわよ?」

「素材って……」


 冒険者ギルドみたいに言われても。


「確かにヤツの外皮を使って、トマト植えれば新たな魔法も使えるかもだが。

 身体が鉄化する魔法とか需要ある?」

「発動する度に鉄分がなくなって病人だらけになりそうね……」


 とはいえ、実際栽培してみれば思わぬ使い方が見えてくることは炎上トマトで学習した。


「鉄分を地面から吸い上げるトマトか……鉱山代わりに使えるかもな」

「あ、なるほど。確かにそうね」


 奴らががそんな風に考えて素材を欲したとは思えないが。


「まあ、いいんじゃない? 用意しておくよ」

「うん」


 アンドロイドとは言え、人の皮剥いで渡すのか……

 前時代なら贈り物じゃなく嫌がらせだ。いや、犯罪か。


 また悪い癖が出た。


 今は今。


 解体作業位やろうじゃないか。


「マサルちゃんが、でしょ?」

「うっ」


 そらいくらアンドロイドだって、人の皮なんぞ剥ぎたかないわ。

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