冒険者ギルドの意味
冒険者ギルドについてちょっと触れておこう。
山田が来る前に、出張していたシュテンが帰って来ていた。
帰って来たシュテンの表情からは、「申し訳ない」って感情が溢れていた。
俺が指示した情報を手に入れられなかったからだ。
「ダメだな」
シュテンの報告は簡素な物だった。
冒険者ギルドの件は俺も山田やシュテンから聞いていた。
多分食道楽対策なんだろうなー、と思っていたら案の定だった。
聞いた瞬間はどこまで異世界方向に行くんだろう? と呆れたが、考えてみるとこれは上手いやり方だなと感心した。
確かに聖教国の内政を支えるシステムとしての効果もある。
例えばダンジョン。
ダンジョンが現われるのはウチの近くのことばかりじゃない。
聖教国にも現われるだろうし、なんなら世界中に現われているのだろう。
すぐに崩壊なり水没なりしてくれれば良いが、野獣が巣くい、繁殖されて溢れ出すと厄介な事になる。
異世界風に言うとスタンピード的な? ここ日本だけど。
聖教国では騎士達が領の防衛の一環として見つけたら潰すなり、封鎖するなりしてた筈だが、騎士は上の命令を受けねば動けないし、上は壁外対処より街の防衛を優先する。
そうなると壁外対処はどうしても遅くなる。
が、ここで「俺がやってやるぜ!」ってイケイケな奴が出て来たらどうだろう?
多分「騎士のやることに文句があるってのか?」ってなるな。
条件追加。 かつ、その行為を国が支援しているとしたら?
壁外対処の案件は他にもある。
周辺集落に現われた野獣の駆除なんかもその一つ。
サイズタイドが落ちた原因の一つが周辺集落の不満が募りすぎたことだと聖人達は知っている。
だから、これら壁外の脅威に更に柔軟に対応すべく、騎士達の下部組織として、試験不要の民間組織を立ち上げたわけだ。
頼んでも来てくれない騎士と、金さえ積めば来てくれる冒険者。払える金のある周辺集落は彼等の存在を喜び、冒険者達は報酬を受け取った上に称えられて承認欲求が満たされる快感に、更に進んで仕事を引き受ける。
成功という言葉は人をおかしくすることがある。一度成功した者ほど死地にすら喜んで向っていく。
成功中毒って言葉があったかどうか知らんが、そんな感じ?
命がけの仕事だ。冒険者の報酬は安くはない。
それを知った騎士の中には騎士を辞めて冒険者になった者もいるという。
領主視点で言えば、騎士になるほどの力がないが、力しか取り柄のない労力を無駄にすることなく使い捨てられる。
騎士になったは良いが、野心が強すぎるとか言うこと聞かない奴とかの人格の残念な者を体よく騎士から放り出せる。
……とまあ、闇の深い組織であったりするんだが。
そんな感じで山田の言い訳はガッチリ整えられていたが、建前に気づけないほどアホじゃないのよ。
吉備津兆はともかく、俺のアンドロイドは。
要は国民が武装解除するのを当たり前の環境にしましょうってわけ。
周囲が凶暴な野獣に囲まれている街で、人間時代で言う銃刀法違反に似たような法律決めようもんなら人民の不信感を煽ることにしかならない。
だから聖教国は「武器持つな」なんて言わなかったし、人々も戦う力があるかどうかはともかく、心の支えとして何らかの武器を家の奥に忍ばせているのが普通なわけで。
ところがこの冒険者ギルドを設置することで武装解除を促せるようになったわけ。
どうせ君達戦えないでしょ? 金払って冒険者雇えば良いじゃない。武器に金なんて使ってないで商売に専念しなよ、って。
そして皆が捨てれば、持ってる奴は怪しい奴って事になる。
つまり「これで家宅捜索でもされようものなら……解るよね?」ってことだよね。
スパイは怪しまれない行動をとることが第一優先なわけで、 皆が武器捨てたら捨てるしかないのよ。
そしていくら盗賊数人を丸腰で追い払える黒騎士の子孫だって、丸腰で数百人の騎士に勝てるわけじゃない。
つまり食道楽は、最悪の場合「情報取りに騎士の彷徨く領主の館に忍び込もうぜ」って手を先に封じられたわけだ。
丸腰で逝ってこい、なんて指示は出せないもの。
これを食道楽立ち上げのすぐ後に聖教国は実行してきた。
こっちに気取られないよう、わざわざ西端の領から初めたのが憎らしい。
全く新しいことは受け入れられるまでに時間がかかるが、「隣町ではもうやってて凄い成果上がってるよ」って言われると人は従うもんで。
食道楽が聖都に進出直後、冒険者ギルドに登録していない一般人の武装解除令が出され、皆簡単に従ったという。
話が長くなったが、結果食道楽は客の噂話をひたすら聞きながら、有用な情報を選別する以外の行動が取れていない。
西端の領の聖人ピッタとか言う奴の言葉がきっかけって事だが……どうだか。
直接的な妨害ならともかく、こういう回りくどいやり方ってのは、もしかしたらピッタがアホで誰かの提言に目的も知らずに賛同して、手柄目的で始めた可能性を考えさせられるわけで。
加えて西端まで食道楽の手は伸びていないから、確証がとれないというね。
そこで俺も獲得すべき情報を、一般人が知ってるレベルのものに指定変更したのだが。
「情報統制がされたのか。おそらく一般人で知っている者はいないのかもしれん。手に入れる為には中枢に潜り込む必要があるだろう」
「マジかよ?」
俺が指定した情報。それは聖都のある領の名前だ。
足柄が治める領がフットハンドルであったから、ビリオンが鬼堂億長だったなら鬼堂に通じる名前が聖都のある領にはつけられてるんじゃねえかなと。
これぐらいなら誰もが知ってそうなものだが、どうやったんだかバッチリ領の名前を人々の記憶から消したらしい。
聖都の名前の由来が鬼ってのもなんだから、最初から伝わっていなかった可能性もあるか。
名前があったとしてオーガホールとか? 虎皮親父の尻の穴を想像してしまった。ウエッ。
「出来ないことに拘ってても仕方ない。こっちも情報戦のやり方を変えなきゃな」
「ふむ、といって何かあるのか?」
「それなんだけどねー」
山田との交渉はそんな会話の後だった。
だから、俺はドワーフを手札にすることを決めたってわけ。
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