9章 ~光消ゆるとき~

ASR1000年 とある学園の歴史講義⑧

<講堂>


「起立、礼、着席。

 おはよう諸君。


 さて、本日も講義を始めよう。

 我が国の歴史と切っては切れぬとはいえ、これまで魔王国の話ばかりをしてきた。

 我々にとって憎き悪でしかない魔王国。


 知らねばならぬ事とはいえ、ずっと聞かされれば食傷気味にもなるだろう。

 

 好きこそ物の上手なれとも言う。

 嫌な話ばかりで若人諸君に歴史を嫌いになられては、歴史学が今後衰退してしまうからな。フハハハ。


 前回は女性受けの良い話をしたからな、今回は男性の興味を引くとしよう。


 本日は冒険者ギルドについて論じる。


 冒険者。


 心地良い響きだな。男なれば身分問わず憧れたこともあろう。


 己の武力のみで我が身を立てる者達。


 成功か死か。


 成功者達の伝承を聞いた者は、では自分もと身を震わせずにはおられまい。


 かつて私もそう思った事はある。

 意外かね? だが本当だ。


 では、その冒険者達が所属する“冒険者ギルド”。

 喧噪絶えないあの中に、貴き血を引く君達は近づかぬよう親に言われて育ったのではないかな?


 どうだろう? サティン」


「あ、えーと、ウチは貴族じゃなくて、ただの商家ですので……スイマセン」


「とはいえここにいる以上、それ相応の影響力を持っていよう。


 そもそもここでは身分など関係ないな。

 ふむ、私の言い方が悪かったか。


 将来を約束され、規模はどうあれ人の上に立つ様教育されてきた者として聞きたい。


 君の家ではどうだったかな?」


「ハイ。その、確かに近づくなと言われたことは何度かありました」


「うむ、ありがとう。そして他の家もそうであろうな。


 実際あの中に入った瞬間、腰に武器を帯びた戦士達が君達を取り囲む。

 君達は大事な跡取りだ。万が一が起きては適わん、と御両親が考えるのは当然のことである。


 だからといって、あの場所を嫌厭するようなことがあってはならんぞ?


 君達の両親が君達を冒険者ギルドに近づけないのは、あくまで君達が危険に巻き込まれないようにと願ってのことなのだ。

 冒険者ギルドとは、聖人ピッタ様によって設立された、由緒正しき場所なのだからな。


 ビリオン様と並び称される聖人の統率者。

 “神との対話”に聖人の方々が入られた中、現在我々に唯一お声がけを頂ける聖人にして、聖教国最西端ハイフィールド領を開拓した偉大なる指導者。

 

 そのピッタ様が冒険者ギルドを設立したのは、もう500年以上も前と言われている……」




◇◆◇◆◇


<聖都“食道楽”>


「あの……」


「ん?  ああアンタかい?この聖都を離れたいなんて物好きは?」


「え?あ、はい、その……」


「解ってる。事情は聞かない。それも依頼のウチだからね。とはいえ、名前くらい聞いとかないと不便で仕方ないね」


「ルヴィ。他人に名前を聞くときは自分から名乗れ」


「おっと失礼。アタイはルヴィ。で、この説教臭い仏頂面の獣人がサフィアス。で、そこのムサい、さっきから無表情なドワーフがトーパス。で、そこでニコニコしてるエルフがエメラダだよ」


「あら、特に笑ってたつもりはないのだけど?」


「一度アンタはちゃんと鏡見た方がいいね。それで、アンタは?」


「あの……ミレニアと申します」


「ミレニアね。わかった。これから色々あるんだろうけど、まずはよろしくってことで。で……」


「あ、はい。これを渡せば良いと言われましたが」


「あいよ。手紙ねぇ。で、ナニナニ…………うわ。ホントこれ?」


「どうした?」


「どうやらアタイ達、魔王国に行かないといけないみたいだよ?」




◇◆◇◆◇


<放課後の学園屋上>


「無事ミレニア嬢は指定の冒険者達と接触したようです」


「そう、ご苦労様。ヒャキロ」


「いえ、それより良かったのですか?」


「何がかしら?」


「そのミレニア嬢をあのような者達に任せて」


「彼女達程の適任者はいないわよ。聖教国では差別と侮蔑の対象にもなり得る亜人を率いる凄腕の冒険者。彼女達ならミレニアを魔王国に連れて行った後まで上手くやってくれるわ」


「そうですか?」


「ええ。あら、心配?」


「はい。学友としてそれなりに交友もありましたから」


「ヒャキロは優しいのね」


「いえ。そういうわけでは……自分は只、アナタの気持ちを思うと……」


「クスッ。ありがとうヒャキロ。でも大丈夫よ。ミレ二アは大事な友人だけど、それ以上に大切なものがあることはアナタも解っているでしょう?」


「ええ……そうですね」


「それに、ミレニアは優秀よ。きっと魔王国でも彼女なりに生きていけるわ」


「……信頼されているのですね」


「勿論よ。だって私は、ミレニアの親友だもの」

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