7章 ~正しいスパイの送り方~
ASR1000年 とある学園の歴史講義⑥
<講堂>
「起立、礼、着席。
おはよう諸君。
本日は講義を始める前に君達に伝えておかなければならんことがある。
朝礼で聞いているかも知れないが、昨日、教会の修道女が暴漢に襲われるという事件があった。
皆も知っての通り、神に仕える者を害成す者は、神を冒涜する者。即ち異端者である。
修道女を襲った暴漢は、命をもって罪を償うことになるであろう。
当然であるな。
同情の余地など何一つない!
まあ、それは当たり前の大前提とした上で、だ。
こういった事件が起きた際、「嫌だ」、「怖い」、「修道女可哀想」、「犯人ふざけるな」で考えを終えるのは余り建設的とは言えまい。
得に君達のような人材は尚更だ。世で起きた事件が何から始まり何に繋がるのか、常に思考を止めず考え続けて頂きたい。
そこでこれを機に、過去に起きた異端者による事件といわれたものをいくつか紹介したい。
規模の大小に拘らなければ、異端者による事件というのは絶えることなく起きている。
だが、全部を論じていると今日が終わってしまう。
よって論じるのは大きな事件のみに絞るとして、まずはASR315年。
さて、ではヒャキロ。何が起きた?」
「……」
「ヒャキロ!」
「……エゥ!? あ、ハイ!? えー……えと」
「朝からカレーか。口の周りについておる。“食道楽”にでも行ったか?
別段朝に何を食べても文句はないが、腹がふくれて講義中に寝るのはやめて欲しいところだな。
さて、話を戻そう。ASR315年、ウィンドルーム領で起きた“
“
聖人ライン様の治めるウィンドルーム領で起きた、歴史上でも大規模な異端審問だ。
当然異端者は許されざるべき、とは先ほども言ったが……この事件によりライン様に見出された騎士シキ様がその代の勇者となられた、という面も合わせ持つのだから皮肉なものであるな。
敵が、誰が強者か、を明確にしてくれる。
歴史の中では度々あることだ。
この異端審問はあろう事か、イーストウィンドの教会を当時の反教会勢力“
この明結会の意味はわかるかな? ティエヌ」
「え……えっと、すみません。わかりません」
「ふむ、少し意地悪な質問であったかも知れぬな。
おそらく小中等部ではこの意味までは教えておるまい。余りに危険な思想ゆえ、子供達に悪影響が起きぬようにと規制されているからな。
わからない。それで普通だ。そして学門の先に進みたくば知らなければならない。
よいな?
さて、明とは日と月と書く。サンライズ聖教国の象徴は日輪。赤の真円だ。
そして神に祝福を受けた教会の象徴もまた日輪だ。
では月とは? ……その逆だ。
つまり、魔王を意味する、というのが今最も有力な学説なのだ。
そう、この事件を起こした異端者達が何を目指したかはもう解るな? エレヴィン」
「え、いや……でも」
「解ったが信じられんか? いや、それでいいのかもしれんな。
世の中には自分とはまるで違う価値観を持つ者がいる。
知識は時に人を壊す。ある意味君達はまっすぐに育ってきたのであろう。だが……もう君達は子供ではない。
とはいえ、これを今君達に答えさせるのは酷というものか。
ならばここは私が言おう。
彼等の目指したもの。それは魔王国との結びつき。つまり“イーストウィンドは魔王国の軍門に降るべし”だったのだ。
……
ふむ、皆唖然としておるようだな。貴族の家庭といえど、そこまでは教えぬか?
公爵家もそうかな? ……む? 今日はミレニアは休みだったか」
<パレス公爵家>
「すまんな、ミレニア。急に呼びつけて」
「いえ、私も公爵家の娘なれば、わきまえています。御父様の急なお呼びつけ……余程のことでございましょう?」
「ああ……」
「御父様?」
「……」
「一体何があったのです?」
「ミレニア……落ち着いて聞いてくれ」
「はい?私は落ち着いていますが……」
「これから言うことは一切他言無用だ」
「はい……承知しましたわ。御父様の言いつけは守ります」
「うむ……」
「それで、如何なされたのです?」
「お前の母、チヨのことだ」
「御母様?御母様が如何なされたのです?」
「チヨは……チヨは、異端者に認定された」
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