1章 ~新たなる人類~
ASR1000年 とある学園の歴史講義①
「起立、礼、着席。
おはよう諸君。
巷ではすでに千年祭の空気に賑わっているが、学生たる君達は学業をおろそかにしては成らん。
日々何を学んだかが君達の将来を決めるのだ。
浮かれず真剣に取り組むように。
さて、講義を始める。
本日はこのヤマト大陸を語る上で、外すことの出来ない彼の国家“魔王国”についてだ。
知っての通り我がサンライズ聖教国にとっての大敵であり、最大の脅威にして忌むべき国家、魔王国。
我々が信仰する“日輪聖教”においても、彼の国は言わずもがな忌むべき国家だ。
荷担する者は勿論、少しでも好意を見せようものならばすぐさま“異端者”の烙印を押されよう。
本日の講義内容も、うかつに外で話せば、やはり懐疑の目を向けられよう。
しかし敵なれば無知のままでもいられまい。
以上を理解した上で、本日の講義を聞くように。
では、早速“魔王国”の始まりについてであるが……。
この国家の誕生については諸説あるが、明確に文献に記載があるのはASR184年。
皆も学んだことがあるはずだ。
魔王が歴史の表舞台に初めて登場するのは、七聖人の一人リンディア様を魔王が手にかけるという忌まわしき大事件によってである。
魔王が魔王と呼ばれる所以は、当時不老不死と信じられていた聖人の命を、忌まわしき魔の力によって断ったといわれたが故だ。
“聖”に対する“魔”の力を持つ王。故に魔王と呼ばれる訳だな。
さて、まことに残念であるが、信仰の面からも歴史の面からも、とてつもなく大きな事件であったこの出来事の詳細が残された文献は殆ど残っていない。
リンディア様が治めたとされる領地“フットハンドル”もまた、同時期に滅んだためだ。
邪竜へと姿を変えた魔王、只一人の手によって……正に忌まわしき力である。
それがASR184年のことだ。
おそらく諸君は小等、或いは中等学部で“
実際大変重要な出来事故、大等学部でも試験に出やすい。今一度しっかり覚え直しておくように。
そして、ここからが本題となる。
この誉れ高き大等学部にいる諸君は大半が将来、人の上に立つ者達であろう。
そこでこの講義では単に“フットハンドル領が滅んだ”という事実だけではなく、この出来事がヤマト大陸に及ぼした影響について論じることとしよう。
押さえておくべきは三つだ。
一つはこの事件によって聖人が不死の力を失ったこと。
一つは魔王の存在と、その巨大な力がフットハンドル領滅亡に伴い、難民となったフットハンドル領民によって各国に知れ渡ったこと。
一つは本来大陸に七ヶ所存在した神より授けられし大いなる塔“アマシラス”の一棟が失われたということ。
考えれば解ると思うが、どれもが大陸を揺るがしかねない影響を持つ内容だ。
では、この三つについて一つ一つ詳細に分析してみよう。
まずは聖人が不死の力を失ったという点について。
今も我が国で崇められた尊き……そこ! 何をくっちゃベっている!?」
「いえ……その……」
「スイマセン……」
「フン。どうせ千年祭の話題でもしていたのだろう。
私が最初に言ったことを忘れたか?
千年祭は確かに我らがサンライズ聖教国建国千年目を祝う、真にめでたく、また神聖なる祭りであろう。
だがまだ祭りは始まったわけではない。それなのに祭りを理由に学ぶべき者が学をおろそかにするようではビリオン様もお嘆きになるであろう」
「「はい、申し訳ありません」」
「ふぅ、まあよい。
では講義を再開する。」
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