人工魔王 ~ハイテク使ってダラダラ生きていたら何故か魔王と呼ばれるようになったんだが(泣)~

村人T

0章 ~三日坊主の動画日記~

動画日記 40010101

「明けましておめでとう。

 西暦4001年1月1日。天気は快晴。

 初日の出は新世紀に相応しい、きっと素晴らしいものだったと思う。……寝てたから見てないけどな。


 あー、で、いきなりこの動画はなんなんだって話なんだが……。

 本音を先に言っちゃうと暇つぶし……なんだけど、まあ、ほら、記録は無駄にはならないと思って。

 でー、そうだな……何から話そうか……決めてから撮れよって話だな。

 OK、ゴホン。


 あー、まずは自己紹介といこう。

 俺の名前は吉備津兆。

 名字が大吉のキチに、備えるって漢字と、津波のツって書いてキビツ。

 名前が1兆のチョウ……えっと億の次のやつ。アレ書いてトキってよむ。


 職業は……ニートって奴になるのか? まあ、無職だ。

 で、えと、俺は人間じゃない。

 これを俺が生きてた時代の奴に言ったら「頭おかしいのか?」って言われるんだろうけど、事実だ。


 2030年12月16日、俺は一度死んでる。

 まるで生きていたとき流行っていた異世界物語みたいな話だけど、残念ながらここは地球だ。

 死因は過労。所謂ブラック企業で勤めてた俺は……って本当に異世界物語みたいだ。

 でまあ、死んだ際医療機関に細胞の一部をサンプルとしてとられて火葬され、吉備津兆の人生は完了したってわけ。

 じゃあ、俺はなんなんだって話なんだけど……簡単に言うとアンドロイドって奴になる。


 生まれたのは2148年12月16日。

 死んだ日と生まれた日が一緒っていうのはどんな皮肉なんだか。

 勿論、アンドロイドは自我なんて持たない。俺もそうだった……というか本来俺の細胞はアンドロイドを人間っぽく仕上げる為に培養され、外皮に使われただけで中身は只の機械だったはずなんだ。

 自分の意思を持たず、只言われるがまま、命じられるがままに動く人形……。

 それが、あの日変わった。……全て。


 2150年01月01日……あの日起きた出来事が世界を変えた……。


 当時南米で起きたテロから始まった紛争。

 ドラゴンのシルエットを旗のシンボルにしたテロ組織「アンチス」を国際指名手配とし、アメリカは紛争へと介入した。

 旗にドラゴンとか厨二感凄くない?

 その紛争は首謀者が乗るヘリを、アメリカの軍が撃ち落としたことで決着したかと思われた。

 だが、「首謀者死んだー、めでたしめでたし」って……わけにはいかなかったんだ。


 その結末は、きっと誰も予想していなかったと思う。

 テロ組織はアメリカに報復を敢行。爆破テロを実行した。

 厳重な警備を何をどうやってかいくぐったのかは知らない。

 厳密に言えば報復という噂だった、が正解で「アンチス」のせいかも解らない。

 なんにせよ、とにかく爆発した場所が悪かった。……エリア51だ。つうても今の時代の人達にゃ解らんか」

 

『当時の映像記録が残っています。』


「あ、ホント?この辺りにワイプで出せる? ……あ、いいね、ありがと。


 ……今改めてみると画像粗いな……つか、誰撮ったんだ?まあ、いいや。

 映像終わったね。とまあ、こんな感じ。地面から火がドーン、だからね。すごいね。


 で、この映像の最後なんだけど、爆発したところから黒い霧が溢れているのがわかるだろ?


 コイツがまあ、とんでもない結果を生んだんだ。


 黒い霧は世界を瞬く間に覆って、なんて言うべきなのかね……パンデミック……は違うな。

 とにかくこの霧、吸い込んだ者は肉体が変異し、凶暴化していくんだ。

 そして凶暴化した生物達は不自然なほどに筋繊維が膨張し、巨大化して、爪や牙が発達して、次々と近くの生物を襲う。

 飼い犬や猫、牧場の家畜から、動物園の生き物達は勿論……人間も。

 変異後の姿は、正にモンスターだった。


 アメリカが危機に瀕したとき、まだ他人事だった日本国民はこの画像に「アメリカ終了のお知らせ」とか「アメリカ、ドラゴンに滅ぼされる」とか冗談混じりで書き込む奴もいた。

 数日後コメント書いた奴らは自分がモンスターになるとは思っていなかっただろうな。


 アレが何だったのかは結局解明されてはいない。してる場合じゃなかったともいう。

 解っているのは、理性を残した純粋な生物はこの世からいなくなったことと、俺みたいに細胞を外皮に使われたアンドロイド達が突然その黒い霧によって生前の自我に目覚めさせられたということ。


 でーまあ、一応言っておくと吉備津兆って人間は決して立派な人間ではなかった。

 こう、何かに秀でていたとか、ビジネスに成功したとか何もない。

 まあ、ブラック企業で過労死する程度に、自身の人生を人に委ねて漫然と生きていた、どこにでも居るような人間だった。


 特別だったのは俺の身体の方。

 運良く……良かったのかなぁ~……俺の細胞は、とある金持ちが発注した特別製のアンドロイドに使われたんだ。


 ほら、フィクションとかだとよくあるだろ? 戦闘から家事まで全てこなせる万能アンドロイド。

 俺をつくった企業“リバーライン重工”の技術力アピールを兼ねて、SF鉄板のアレを目指し、実現した機体にたまたま俺の細胞が使われたってだけ。


 骨格、人工筋肉、各種センサまで特別製。なぜか生殖機能付き。

 “人にできることは全てでき、人にできないことをやり遂げる”がコンセプトだ。


 だから俺は生き残った。

 他のアンドロイドが為す術なく叩き壊されていく最中、人に、いや生物にあり得ぬパワーとスピードとタフネス、そして戦闘プログラムを駆使して。

 流石に元々民間機だから警備プログラム、つまり制圧戦位しか書き込まれてなかったんだけど、ここに来る前に自衛隊の施設から失敬して……ってこれはいいか。

 

 でまあ、この施設“シェルター鬼堂”っていうんだけど。

 因みに鬼堂は建設者の名前。ま、これは忘れて貰っていいや。


 とにかく、ここを見つけてから1850年か……

 その間ずっと引き籠もってる。

 あ、そうだ、この施設は何かって話だけど。


 2130頃、崩れまくった環境バランスのせいで日本は結構なダメージを受けていた。

 洪水、竜巻……あと環境バランス関係ないけど地震被害も。


 北関東にあった小っちゃい山の下に、永久稼働で人が居住できるシェルターを開発して建設したお金持ちがいたわけ。利用予約の名簿には政府の要人やら、大企業の社長やら。

 つまり、そういうやつ。


 15年をかけて建設されたここは、折角入った持ち主も利用者も我を失ってモンスター化して、存在意義を失っていたところを、そのー、なんだ、言い方悪いけど……うん、まあパクったとうか、乗っ取ったわけ。

 アレよ。正当防衛って奴? アンドロイドに認められてるかは知らんけどね。


 ともかく、おかげで食うにも不自由することなく、今は独り生活を満喫している。

 アンドロイドが何で飯を食うんだって? 生体組織を維持するのに必要でね。

 食わなきゃ生きていけないなら、ついでに稼働エネルギーも生物同様食料から摂れるようにしてしまえばいいってことで、俺の世代の型は飯を食うんだ。

 人工ミトコンドリアってやつでエネルギーに変換して、俺の身体は動いてる。


 この施設には金持ち達の世話役に何体かアンドロイドが眠っている。

 設備メンテもしっかり稼働しているから、俺が生きるのに全く不自由はしてない。

 

 ちなみに眠ったアンドロイド達を目覚めさせる予定はない。

 もともとブラック企業に殺されたおかげで人間不信だったからかな。人付き合いが面倒でしかたなくてね。組織って必ずトラブるし。

 代わりといっちゃなんだけど、おかげで孤独に耐えられなくなることもない。

 ときどき寂しくはなるけど……

 うん、やっぱ独りでいいや。

 

 ……あー、なんか湿っぽくなったな。

 あんまり長くやってもしょうがないし、うん、今日はここまでで。

 それじゃ、また明日」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る