F
春嵐
01 F.
夜。
バーの窓際。外の景色。
街の灯り。
揺れる。
ここから見る景色が、好きだった。
「またジンジャーエール?」
「お酒呑めないもの」
いつもの人。ようやく仕事が終わったらしい。私の隣に座って、仕事の話を並べ始めた。
それを聞き流しながら、グラスを傾ける。街の灯りと炭酸が、融けていく。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてる」
聞いてない。全然。
「でさあ、そのあと、どうなったと思う?」
「うん」
相槌をうちながら、夜の眺めを、人の動きを、見つめる。
逢いたい人がいた。
遠くから見た姿だけだったけど。その人は、背が高くて。スーツで。夜の灯りのなかで、その人とわたしだけが、繋がっていたように、思えた。
その人を。
ずっと。
ここで探している。
一目惚れだった。たぶん、向こうもそう思っただろう。人の流れに押されて、声もかけられなかった、その人を。ここでずっと、探している。
「ばかだな、わたし」
逢えるわけなんて、ないのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます