第90話 京都塔な妹だけど、どうしよう。

 京都タワーと言えば地味である。

 こんなことを言っても京都人すら確かに……と、納得するぐらい地味なのだ。

 東京タワーやら、スカイツリーやら、横浜ランドマークタワーに比べたら知名度も遥かに低いし、高度も低い。

 ネット上の評価でも「デザインがダサい」「ライトアップしても色が……景色に合わない」「中が古い」。

 日本がっかり名所にすら挙げられていることすらあり、期待外れ観光スポット京都一位である。

 もう一度、言おう。

 私も、地味だと思っていたのだ。

 誠一さんが何故ここを選んだのだろうかと楽しみに思いながらの夕暮れ時、


「……ふあ……」


 っと、あたふた、右往左往。

 丁度始まった日没。

 鉄格子のような赤い枠から外は段々とその様子を映画のように変えていく。

 太陽が西山の陰に隠れ始めるとオレンジ色の光が京都市内を彩りをそえはじめ、まるでロウソクのともしびをうつしたような光景が広がる。

 雲の光と影のコントラストも幻想的な光景だ。

 京都駅ビルは色水をふりかけたように夕焼けの赤に染まり、黄昏時な雲をガラスに映す鏡となった時など、言葉を失った。

 街も所々にライトが付き始め、空は夕闇の紫にゆっくりと染まっていくのも名残り惜しさが乙で、

 

「すご……かったです……!

 侮ってました、京都タワー!」


 終わり、誠一さんに興奮気味に詰め寄ると、彼は嬉しそうに私の頭を撫でてくれる。


「夜景も奇麗だからな、少し落ち着いて観ていこう」

「はい……♡」


 完全に闇に沈むと、今度は明かりが碁盤のように整然と並ぶ。

 かと思えば、京都駅側も多くの光量が近代的な建物がライトアップしている。


「京都市内は構造物の高さ制限があるからな。

 タワーが低くても相対的に周りが見えるんだ」

「なるほど……あ、誠一さんの家ってあそこらへんですよね」

「そうだそうだ」

「あっちが金閣寺で、大文字はこっちですか?」

「金閣寺もうちょっと左かな……」


 っと、市内ネタで盛り上がっていく。

 私も彼も都市の地理感がある為、話題に事を欠かない。

 楽しい。

 同時に何というか、京都タワーに謝りたい気分である。

 とはいえ、


「なんで、京都タワーだったんですか?」

「近畿百景一位な舞鶴五老スカイタワーをこの前、委員長に出されたからな……必死に探してみたんだ。

 夜景や夕日のきれいな場所を。

 そしたら、意外にもここが良いぞと出てきて、評価の対比としても面白いなと。

 将に灯台下暗しという奴だな……灯台モチーフだし」

「なるほど。

 ……あれ、私、和ろうそくモチーフって聞いてますけど?」

「ほら、説明パンフにも」


 差し出されるパンフを観れば、確かに灯台モチーフとある。


「あ、そうだったんだ……!」

「京都タワーが灯台モチーフというのは地元の僕でも知らなかったからな。

 何というか、色々と鱗が眼から落ちる気分だ」

「そうですね」


 っと、言いながら、中央に設置された神社へ。

 京都市内で高度が一番高い神社『たわわちゃん神社』だ。

 ちなみに『たわわちゃん』とは京都タワーのマスコットだが、大きな目と開きっぱなしの口で何というか、ぽややーんな感じだ。

 そしてこの神社の御神体は、黄金色な『たわわちゃん』だ。

 ご利益があるのか、無いのか良く判らない。

 なお、月曜日は関係ないらしい。

 とはいえ、


「侮っていてごめんなさい。

 今度からちゃんと観てから評価します……」


 言いつつ、百円玉を投下。

 私にしては奮発している。

 隣を観れば、


「良いモノが観れました。

 天気も良かったし、ありがとうございます」


 っと、千円札を入れている誠一さんは何かを悩んでいる。

 何をと聞いてみると、


「うーん、貸し切りもありだったかなと。

 でも、夕日の時間は出来なかったんだよなぁ」

「貸切……?」


 ちょっと想定外の言葉が出てきた。


「二万円で出来るんだ、閉館後から三十分程度だけどな。

 キャンドルライトアップして、ムードを作ってくれるそうだ」

「それはそれで観てみたい気もしますね。

 とはいえ、今でも十分だと思います。

 人少ないですし」


 っと、彼の右腕に抱き着く。


「ムードは十分です」

「それは良かった」


 誠一さんが満足そうに笑みを零す。

 とはいえ、私が求めているのはそれでは無く、


「ムードは十分です!」

「そうだな」


 私が強く言うと誠一さんが意地悪い笑みを浮かべる。


「誠一さん、姉ぇにはそんなことしませんよね⁈」

「燦だからしてるに決まってるだろ。

 僕は燦の困ったり、慌てる顔も好きなんだ。

 何というか本質的な僕は意地悪なのかもしれないと、燦と会話してると思うことがある」


 そしてポンポンと頭に手を乗せて、優しく撫でてくれる。

 エス気を誤魔化そうとしている意図が、意地悪な笑みから透けて見える。


「……そういえば誠一さん、今日、意図的に姉ぇの話題してませんよね?」

「そりゃそうだ。

 僕は今、燦を一番にしてるし、デートしてる時に他の女性の話題なんて最悪だろ?」

「そうですけど、不自然ですよ。

 私達、三人でって決めたんですから」

「そう言って貰えると気が楽になる。

 マジメだからな僕」


 そう彼は素に戻る。

 眼鏡こそしてないが、真剣な眼差しで私を射抜いてくる。


「燦。

 僕が君を求めた理由を聞いてくれるか?

 ちゃんと言わないと、性的関係あってこそと考えたらようやくここまで、治った君が苦しむからな」


 コクリと、縦に頷くしか私に選択肢が無い。

 どんな残酷な理由でも私は受け入れる覚悟はできている。

 それが私を性的玩具やペットとしてだとしても……いけないいけない、脅迫概念めいた私が体を熱くしないよう抑える。

 彼は少し距離を置き始める。


「正直、最初は義理だった。

 初音に浮気してくれから始まった関係だし、ちゃんと見つめて振ろうと考えてた」

「知ってます。

 誠一さんの真面目さに付け込んだ私ですから」


 あれは私がどうしようもなく雌なのだと、自覚した出来事だ。


「けれども、君を治そうと触れ合っているうちに、感情が沸いた。

 表情がコロコロ変わるのは初音もだが、それとは違った魅力に気付いた。

 見てると楽しい。

 そのうち、他の人のモノになるのではと彷彿とさせる出来事もあった。

 日野兄弟の出来事だな。

 そしたらイヤだと沸いた。

 この気持ちが僕を覆いつくし、衝動を止めることも出来なかったんだ。

 正直、燦、君に惹かれた僕の負けだ。

 誤魔化せないのが性分だ」


 だから、と彼は続けながら一歩。


「燦、改めて言う。

 初音の次ではあるし、アンモラルであることも間違いない。

 幸せになれるかも判らない。

 だけど、僕のモノになって欲しい」


 そしていつの間にか、誠一さんが私に抱き着き、


「いや、なれ。

 意地悪もするし、子供も産ますし、いいな?」


 優しく左耳元で囁かれた。


「あ……」


 最低な物言いだ。

 姉ぇの時よりももっと酷い。

 なって欲しい、とかいう願望では無く、なれと決定事項で言われて言る。

 そして、


「……誠一さん、私にはプロポーズと言ってくれないんですね」


 その言葉を聞いた彼は、私を放して距離を取る。

 知ってた。

 彼にとって私は、妾だ。

 それでも良い、私がそう望んだ関係だ。

 だから、私はそれを甘受し、認めようと言葉を……。


「プロポーズと捉えて貰って構わない」


 意表を突かれた。

 聞き間違えかと思った。

 けれども、彼は真剣な顔をして、


「法的には出来ないが、そんなものに囚われて君を損なう方が問題だろ?」

「あ……」


 マズい。

 気持ちが抑えきれない。

 こんなにも最低な人なのに、こんなにも自分の都合で……いや、私の都合の為に言葉を捻じ曲げる人なのに……嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。

 涙が一つ、二つと零れ落ちる。

 そしてあふれ出す。


「好きです、好きです、好きです。

 私は、どうしたって貴方の雌ですし、好きなんです。

 意地悪、して、ください。

 孕、ませて、ください。

 頼ってください。

 幸せは私たちのきめることです、だから、だから……!」


 泣きながら、嗚咽を絡めながら気持ちを吐き出し、大きく腕を振って深呼吸。 


「誠一さん、本当に意地悪です♡

 あ、姉ぇから貴方を半分奪った、ビッチな処女妹を喜ばせるなんて……どうするつもりなんですか♡」


 姉ぇを意識して言葉を作って、それにとびっきり甘い砂糖菓子のようなトーンをふりかけて、笑顔を向けて言ってやる。


「……」


 彼は再び、私に抱き着いてくる。

 その力は先ほどより、強く痛いほどだ。


「僕のモノにする、いいな?」

「はい♡」


 これは儀式だ。


「髪も、うなじも、ふくよかな胸も、触り心地のイイだらしない体も、中も、全部だ、いいな?」

「はい♡」


 一つ一つ言葉が紡がれていくたびに、私は彼のモノだと自覚させられていく。


「いい子にはご褒美をあげなきゃな。

 初音に教わったスゴいやつだ」

「スゴいヤツ……ごくりっ、ん」 


 キスはこれまで何度もしている。

 それこそ、私が性欲にまみれた時も、嬉しい時も、姉ぇとプレイしている時も交わしたことのある行為だ。

 ただ、これこそが本当のキスなのだと、優しく、私の口の中をまさぐる様に誠一さんが入ってくる。

 それこそ、私の口の中を隅々まで私を味わってもらえたのだった。


「行こうか」

「はい♡」


 そして私たちは京都タワーを後にした。

 私の手は強く彼の手に握られていた。

 私は逃げ出さないのにな、と思いながら嬉しくなった。


ーー

l´・ω・`)燦ちゃん短章完、R15なおまけ挟んで、次は初音編。


l´・ω・`)応援してもいい、続きが気になる、初音や燦がもっとみたい方、★★★やフォロー、感想を頂くとやる気があがってきばります!


l´・ω・`)そうでなくてR15シーン見たい方も★★★やフォローを頂くとやる気があがってきばります!


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