第75話 再始動な妹だけど、どうしようかな。

「おはようございます」


 学校へ行くと、クラスの女子の席に空席が目立った。

 結論的に言えば、謹慎である。

 そしてあのクラスメイトの処遇はまだ揉めているらしい。

 何ともである。


「おはよん、初音さん」


 と、声を掛けてくれるカラオケで一緒になった女子。

 名前は、猪熊いのくまさん。

 話しをするとストレートな感じな良い子であり、ポニーテールな活発系であり、八重歯がチャームポイントだ。

 なお、意外にも文芸部なのでで本の話が出来る感じがしている。

 

「昨日は大変だったねー」

「無事終わってよかったです、ホント」


 猪熊いのくまさんは私の言葉に笑みを浮かべ、言い難そうに言葉を選び、


「ええい、ストレート!

 助けられなくてゴメン!」


 っと、頭を下げてくれる。

 私も手を振りながら慌てて、


「えっと、仕方ないですよ。

 多勢に無勢ですし。

 これから普通にしてくれれば」

「ありがとー!」


 っと、私の手をとってブンブンと振ってくれる。

 悪い気はしない所か、何というか嬉しくなる。


「あ、初音さんこんにちはー」


 っと、私に好意がある男子生徒が話しかけてくる。

 猪熊さんは、笑顔を一瞬、陰らせた。


(あぁ、成程)


 私は昨日のことから学び、猪熊さんのお目当てが彼であることを見抜く。

 何というか、あのクラスメイトみたいなことは嫌だなと、そう考え、


猪熊いのくまさん、応援するからがんばろ?」


 っと声を掛けておく。

 そうすると彼女は太陽の花が咲いたような笑顔をしてくれた。

 何というか今後は旨く行きそうな気がする。


「初音さん、こんにちは」

「こんにちは」


 っと、昼休み、廊下で声を掛けてくるのは日野さんだ。

 発情満開を見せているので……ちょっと気まずい。

 

「ちょっといいかい?」

「あ、はい」


 危ないかと思ったが、昨日の今日だ。

 何かあったら学校側も大ごとにするだろう。

 それに彼自身に危険を感じていない私が居る。


「懐かしいですね」


 っと、真剣な面持ちに押され、校舎裏へ。

 ラブレターを貰ったことが数か月前のことのように感じる。


「初音さん、君は騙されている!」

「……?」


 彼の深呼吸から始まったその言葉。何の話だろうかとクエッションマークが浮かぶ。


「そうに違いないんだ。

 あいつも高校デビューをして、それで君のお姉さんに出会って変わってしまったんだ!

 本来、あんなバカげたことを言う奴ではないし、道徳心が高い奴なんだ!

 俺が戻さないと!」


 成程、いつも通りに都合のイイ物語を作り出そうとしているのだろう。

 前と一緒の行動で、人間、行動指針は変わらないモノだと、感じてしまう。


「日野さん、日野さん。

 私は騙されていませんよ?」


 それにと、続ける。


「私は誠一さんのことが好きですし、これを曲げるつもりはありません。

 もし私が誠一さんに騙されているのだとしたら、それはそれで良いです。

 私は彼を信じます」

「……っ!」


 言い切ると、大きく両手を空にあげた彼は、


「……うん、だよな。

 本当は判ってたんだ。

 ごめん、茶番に付き合わせて」


 深呼吸をして絞り出すように、背中を曲げてくれる。


「病気か何かですか?

 頭、大丈夫ですか?」

「何で、俺、心配されてんだ……」

「だって物わかりが良すぎますし、自分の都合のように発言を捻じ曲げませんでしたし」


 っと、正直に述べて続ける。


「で、何でこんな話を?」

「……一つは区切りをつけるためだ。

 こう在ったらいいなと、都合のイイ話は無いと自覚するためだ」

「頭、大丈夫ですか?」


 やはり日野さんらしくないので、そう突っ込みを入れておく。

 彼はそれを受けて整った顔に薄い笑みを浮かべながら、


「ダメかもしれない。

 それに二つ目な、あんな形じゃなくてちゃんと振られて次に進もうと考えていたんだ。

 だけど、逆に君のことがグルグル回っていて、好きだという気持ちが深みになっていて……だから、振って欲しかったんだが……収まらない」


 ちょっとヤバい人な発言をしている。

 つまり、


「寝取られ趣味とか怖いんですが。

 私、日野さんの幼馴染でも、母親でも、恋人でも無いんですけど?」

「逆にその発想の方が怖いんだけど!」


 鬱勃起とかそういう話か、大切なモノが他人の手や時間で寂びていく儚さをでる趣味なのかと思った。


「……まて、いやそうなのかもしれない。

 逃げ出したのは現実逃避したかったし、自分の中の初音さんへのイメージを守るためだった。

 けれど、今はあのキスが脳裏にこびり付いて離れない。

 羨ましいという感情より、あぁ……って僕の中の何かが壊れていく感じが甘美で……」

「……頭の病院を誠一さんに紹介してもらった方が良いですよ、それ」


 言いつつ私は、足に溜めを作り、逃げ出せるようにセットを行う。

 現役運動部にどれだけ対抗できるかは判らないが、つい数か月前までは私もだ、勝てると見込む。


「どうやら結局、俺はまだ君が好きなようだ」

「諦めてください。

 私は誠一さんのモノです。

 この場で汚されたとしても変わりませんよ?」

「汚すって……結構、初音さん発想が過激だよね?」


 発情期入ってるんですいませんと、心の中で謝りながら言葉を紡ぐ。


「正直に言っておきます。

 私、誠一さんに犯されたいと思っている淫乱なんですよ。

 彼のモノ、姉を貫いたモノで私も存分に味わって欲しい。

 彼のから出されたうしおを受け止めたい。

 受精したい。

 ギュッとして私の胸や口でも気持ちよくなって欲しい。

 爪の指先から私の子宮まで一切合切が誠一さんのモノになりたいんです」


 顔に熱を帯びていく私が居る。

 眼はきっとうるんでいるし、吐きだす息も間隔が短くなっている。

 ただしそれに反比例するように思考はスッキリしており、性欲をコントロール出来ている感じだ。


「今スグにでも誠一さんが望めば、私は犬にでもなります。

 わんわん。

 来週、私を食べてくれるので今から楽しみな女なんです。

 だから、日野さん、貴方が抱いていたイメージは表面的なモノなんです」


 っと、日野さんへトドメとばかしに、ニッコリと笑みを浮かべる。

 

「……」


 日野君がまなこを見開いて私を捉える。

 こんな女に夢中にならずに早く眼を覚まして欲しい。

 彼も人に好かれる素質はある。


「……艶っぽいなぁ」


 ポツリと意外な言葉が出てきた。


「やっぱり、ダメだ、君が好きだ」

「しつこい人はストーカーで訴えますよ。

 今回の事件みたいなことになりかねないので。

 そもそも、昨日のも日野さんに巻き込まれたみたいなモノですし、先手必勝です」

「しないしない」


 彼は吹っ切れたような笑みを浮かべて、


「ただ、未来で変わる可能性があるだろ?

 君の気持ちも、俺の気持ちも」


 っと、いつも通りの日野さん節――ご都合主義が出た。

 少し安心した。


「そこまではちょっと我慢してくれ。

 それに友達を始めるのは有りだろう?」

「嫌です。

 流石に気持ち悪いです」


 っと、正直に言いながらも笑いが零れてしまった。

 だから続けてやる。


「私が誠一さんとラブラブするのを眺める程度は許してあげましょう。

 一方的に惚気るためのサンドバッグにします。

 それで早く目を覚ましてください」

「判った」


 即答されるとは思わなかったが、ここから彼との奇妙な関係が始まった。

 こんな感じで学校生活は再スタートになったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る