第63話 心配性な二人ですが、なにか?
「不機嫌さん?」
と、問うと、
「かもしれない」
と返ってくるしどー君。
その原因は明日、妹が男と遊びに行くと連絡が来てからずっとだ。
というか、妹を好きな人が居ると言ってからこんな感じだ。
学校でのお昼からもそんな調子で、彼氏さん大丈夫? と委員長妹に聞かれるぐらい顕著に出ていた。
家に帰宅した後、勉強し始めたが、しどー君の手はピタリと進んでいない。
「そんなに気になるなら、しどー君も参加したら?
舞鶴からだと間違いなく遅れだけど、合コンみたいなものだしいいんじゃない?」
しどー君の嫉妬心にニヤニヤを浮かべながら、課題の数学を進める。
最近は判らないところをしどー君に聞くことも少なくなり、応用でなければ基本解けるようになってきた科目だ。
「この課題みたいに、自身で答えを出していけるのが一番さ……」
「と、言いながら表情は苦虫を噛み潰したようよ?
心の整理がついていないのは解るけどねー。
しどー君自身が答えを出せないのは皮肉か何かよね」
突き付けてあげると、しどー君が頭を抱える。
珍しい。
「そういうマジメガネな所も好きだけど、少しは柔軟にね?
しどー君が後悔しないようにしたらいいのよ」
虐めすぎたと謝罪の代わりに、側に寄り、抱き締めてあげる。
「……初音、ありがとう」
「うん、よろし」
離れると、しどー君は自分の手を進め始める。
勉強する時はする。
私たちだって学生だし、お互いに目指すべきところはあるのだ。
「明日、学校終わったらデートしよう」
しどー君がパタンと自習用のテキストを閉じるとそう提案してきた。
私もしどー君作成テキストが終わった所で丁度いいタイミングだった。
「しどー君からデートの誘いは珍しいわね。
買い物はさておき」
大抵は私から誘う。
しどー君の趣味は、言ってて凄いなこの人と思うが勉強……っと読書であり、基本的に外に出るような趣味を持っていない。
運動の趣味と言えば、夜のプロレス以外観たことが無い。
クラスでは平均成績で卒なくこなしてはいるが、得意と言うほどでもない。
高校トップレベルの記録出してたりする上位連中、すなわち委員長と野球部がオカシイので、平均であるしどー君でも全国高校レベルで見れば上程度にはなるかもしれない。
さておき、
「つまり、妹をストーカーするのね?」
「そうだが?」
「前科一犯が開き直ってるわね……」
嘘はつけないマジメガネである。
私の時もそうだが、この彼氏、目的の為なら手段を選ばない傾向が垣間見えている。
もしもの場合は、私がストッパーになる必要があると意識しておく。
「患者の身辺把握は必要だろ。
特に精神系の場合は、家庭環境や就業、もとい就学環境の把握は必須だ」
「……個人情報って概念知ってる?」
「大丈夫だ。
ちゃんと患者として扱うって言ってあるから」
既にタガが外れ始めている気がする。
「もし不安なら家族の同意を取るが?」
「家族ってパパママ?」
「初音さ」
ズズイっと近付いてくるしどー君。
「いいよな?
ダメだと言ったら、良いと言わせるまでするけど」
「ちょ、ちょっと待って、するって」
「体に言い含めさせる。
この前以上に」
「この前って……」
「僕のモノだと言わせた時のさ」
顔が笑っているが、眼元が怖い。
ガチでこれはその選択肢がマジメガネの脳裏に浮かんでるやつだ。
肩を掴まれる。
「私、壊れちゃうわよ……あれ以上は……♡」
まだ明日は金曜日、まだ明日は金曜日、まだ授業が一日あると気分を落ち着けるために唱える。
「僕だって、手段の為にそんなことはしたくない。
初音を求めるのは初音だからであって、それ以上ではない。
けれども、初音がなー、ダメだって言うんだもんな。
仕方ないよな?」
悪魔の囁きとはこういうことを言うのだろうか。
プレイの一環として楽しむのは有りではないかと、無茶苦茶にされてしまいたいという私がムクムクと沸きつつも、理性がそれを押しとどめる。
「あー、もう。
燦ちゃんをストーカーするのは私も賛成!
だから、いつものしどー君に戻って!」
「ありがとう。
あと、ごめん。
ちょっと行動的になってた」
「ちょっとじゃないわよ、ちょっとじゃ……♡」
ドキドキしている心臓を抑えながら私は晩御飯の準備に取り掛かる。
そしてラインを燦ちゃんに送り、計画内容を聞くことにする。
「舞鶴から京都までのラグ、学校から西舞鶴駅までと、そしてプラス市内の移動をどう稼ぐかか……」
しどー君はそんな中、犯罪計画を練りながら、うんうんと唸っていた。
そして金曜日の放課後になって結果的には、
「金持ちのボンボンの発想よね……」
私は慣れない後部座席に座りながら、そう隣のしどー君に嫌味を一つ。
やっぱり常軌を逸した行動に出ていた。
「悪い手では無いだろ?」
「そうだけど、学校終了に合わせてタクシーを待機させるなんて何事かと思われたわよ!
お嬢だって送り迎えさせてないのに!」
少なくとも高校生の考える行動ではない。
「校則にも違反してないし、問題ないだろう」
「いやまぁ、そうだし、今回は必要性もあるだろうけど」
何というか不条理観を覚える。
「とはいえ一時間は遅れるだろうなぁ……」
しどー君が深刻な顔をしている。
まるで自分のことのようだ。
「まぁ、大丈夫よ、大丈夫。
レディコミなんかだと、酒呑ませて大乱交スマッシュブラザーズだったり、お持ち帰りされる可能性はあるけど、高校生同士よ?
どこぞの大学でスピリタスぶち込んで、路上事件になるなんてナイナイ」
「……それ不安にさせようとしてないか?」
「冗談にマジレスしないのー。
少しは気を抜きなさいな」
今はしどー君を不安にさせるタイミングではない。
私自身、酒をドリンクに混ぜられたことあるけど、と続けそうになった言葉は飲み込んでおいた。
元々酒に敏感な私は気づいてその場でキレて防犯用グッズでコテンパンにし、二度と会わないようにしたが、今考えれば怖い事である。
尚、この前のおじさんの件以降、人通りの多い場所に出る際は防犯用グッズをカバンに忍ばせるようにしている。
備えあれば嬉しいなだ。
今回は特に使っていた場所に近いし、昔のお客に会う可能性もある。
さておき、
「私もよく知っている河原町だから、大丈夫よ」
「そりゃ、僕もよく知ってるが……」
「……うりゃ」
ウダウダしているので、とりあえず、頬を抓る。
「ありがとう、初音。
落ち着いた」
「よろし。
少し、寝てなさいな。
行動する時に動けないと意味ないわよ?」
「……そうだな」
すると、すぐに寝息が聞こえる。
こういう時に素直なのがしどー君である。
「大丈夫だと思うけどね……」
自分にも言い聞かせながら、私も意識を少しずつ落とし、一眠りすることにする。
私も私で妹のことが心配で眠りが浅かったのだ。
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