第44話 海の家ですが、何か?

「こういう海に来たら、大体チャラい男にナンパされてなし崩しというのがレディコミなんだけど、ナンパすら無いわね」


 っと、私はそう周りを観て思う。

 古い木造家屋であり、何というかいつ倒れてもおかしくない海の家。

 それに伴い、家族連れ、あるいは落ち着いた感じのカップル。

 とはいえ、キャッキャウフフ、三人で遊べたので満足だ。

 見せびらかしに来たわけでも、男、引っ掛けに来たわけでも無いのだ。

 もちろん、しどー君以外を考えないのは当然だ。下だってしどー君サイズはそうそう居ないのが経験的に現実だ。


「そりゃ、僕がここを選んだ理由はそこもあるからな。

 宮津に入るとホテルやビーチゾーンがあるし、人が多くなるから回避した」


 丹後由良とか、天橋立海水浴場のことだろう。

 確かにあっちは大通り沿いでアクセスも良い。


「……しどー君、結構、そういう所はマメよね?」

「面倒を起こす可能性は低い方が良いんだ。

 僕自身は非力だし、初音も燦も、そりゃ魅力的だからな」


 そう褒めてくれるので、しどー君に抱き着いてやる。


「ほらぁ、魅力的な彼女だぞ!

 巨乳! スタイル抜群! 美少女! ビッチ! 家庭的!」

「初音! 初音!

 人が居ない訳じゃないからTPOをだな!

 それに最後のは視覚効果じゃない!

 あと、ビッチはどうなんだろな……」


 周りから、あらあら初々しいとみられるが、気にするものか。

 アピールする時はする。

 私はしどー君にとって新鮮であり続けたいのだ。


「私も魅力的ですか……てへへっ」


 っと、妹が不気味なハニカミ笑いしておる。

 そこで行動しないからダメなのだよ、妹。

 まぁ、発情スイッチの入り切りで行動を極端に変えるのではなく、スライダー式に調節出来るようになって欲しいモノだが。


「そりゃ、そうだ」


 っと、しどー君が端的にいうと、クタッと床に転がる。

 感極まったらしい。


「しどー君ジゴロの才能あるわよね……」

「ジゴロ?」

「つまり、女の紐よ。

 女から金を得て、生活を立てる人の事。

 元々、フランス語らしくて、私の過去の逆ね」

「ナイナイ。

 それは正義じゃない」


 呆れられてしまう。


「そもそもに、金銭は得たことないだろう……」

「んじゃ、すねかじりハーレム男。

 親のお金で美少女二人囲ってるし」

「ぐっ」


 流石に意味が通じたらしい。

 しどー君が言葉を詰まらせる。


「夜もすごいから、何人も相手できそうだしね?

 いざとなったら私たち以外にも何人か囲い込めるんじゃない?」

「しないしない。

 燦のことも、まだ本気で悩んで、考えているのに」


 まだ悩んでいると言う言葉による会心の一撃で倒れたままの妹が動かなくなった。

 いやまぁ、初物キープ状態だし、関係の進展も遅い。

 自業自得と言えなくもないが、私としてはどっちに転がっても良い訳で、不憫とも思わない。

 まぁ、妹が自分を傷つけるのだけは勘弁だし、フォローするが。


「親にどう言うかなぁ、二股(仮)の事……」

「マジメねぇ……まだ言わなくていいと思うわよ。

 最終的に必要なのは私たちの三人の同意。

 後はちゃんと私たちで大人として責任を持てるかどうかだと思うわよ」


 っと、脳裏に浮かべるはウチのパパママだ。

 何だかんだ、彼氏が出来たり、将来を考えたりすると、パパママが尊敬できるようになってきた私である。

 お金は無いが、ちゃんと親している。

 しどー君もお金はあるが、現状は親の金だ。

 その差が大人と子供を分けている気もする。

 さておき、


「燦の初めて破らないのって、まさかまだ躊躇してる?」


 妹に聞こえないように、耳打ちだ。

 流石にこれを聞かれたら、妹がどう動くか判らない。


「半分は」


 コクリと頷き、それだけ返してくる。

 成程と思う。

 しどー君の真面目さから言えば、あり得た話だ。

 後半分は物理的な大きさだろう。

 入り口の大きさは姉妹で比べた際に初めて気づいたことで、珍しい明確な差であった。姉妹であろうと流石に真面目に観察する機会なぞないのだ。

 なお、妹と私で入り口の付き方も違う。私が上、妹が下で、これによりおすすめの体位の取り方が違うのだ。


「へい、おまち!」


 っと、ボディービルダーの様な筋肉ムキムキなおじさんによってテーブルに配膳される頼んでおいた三品。

 妹にカレー、私にラーメン、しどー君はおでんだ。

 なお、飲み物はコーラに決まっている。しかも嬉しいことに瓶コーラだ。


「こういう所の料理って、何故か美味しいわよね……。

 味的には微妙だけど」

「疲労と記憶補正だろうな」

「マジメガネな回答、ありがとう。

 正解にラーメン、半分あげるわね。

 おでんの蒲鉾貰うけど」


 蒲鉾が入っているのは舞鶴名物だからだろう。

 私は好きだが珍しい。


「それ、余分な炭水化物を押し付けてるだけじゃないか?」

「そうとも言う。

 妹みたいに太りたくないモノ」


 私としどー君の目線が妹へ。

 まだ倒れている。


「燦、食べないと冷めるぞ?」

「いいんです……私、痩せなきゃいけないんで」


 いじけている、メンドクサイ妹である。


「燦、良い事を教えようか?」

「……何です、誠一さん」

「男性の好みというのは、女性の思うより少し太めだから大丈夫だぞ?

 あと、カロリーを消費したんだからちゃんと食べないとダメだぞ?」


 っと、妹に近づき、頭を撫でてあげるしどー君。

 こういうフォローが出来るのがジゴロの才能あるよねと思う所だ。

 ちゃんと観てくれて、優しくしてくれると心がくすぐられるのが女なのだ。

 妹も、それで機嫌を良くしたのか、起きてカレーを食べ始める。


「あれ?

 マジメガネと初音さんじゃあらへんか……って、ドッペルゲンガー?!」


 関西弁の声を掛けられて、観れば知らない人が堂に入った構えをしている。


「妹だけど、ぇっと……誰?」


 いや、どっかで見たことがあるぞと私の勘が言うので質問には答えたが、やはり覚えはない。

 普通に顔が整っており、肉体も引き締まっている。

 空手部か何かであろうか、胸が無い。


「あー、三つ編みと、メガネしてへんから判らんか。

 同じクラスの小牧や、小牧」


 構えが解かれて、誤魔化すような笑みで自己紹介される。

 言われて脳内補正してみれば確かに、家が格闘技をやっている暴力女だ。いつも野球部の彼氏と暴力漫才をしており、双子委員長とかとも良く絡んでいる。

 とも思えば、最近はクラス内だと中堅女子層とも占い話しているのをみるが私はあんまり絡んだことはない。クラスの立ち位置が絶妙に微妙なのだ。


「印象が違って驚いたわ。

 そっちの方が良くない?」

「あんがとさん。

 初音さんも水着よーにおとるやん」

「どうも」


 とはいえ、社交辞令を交わせる仲である。

 基本的にウチのクラスは委員長(兄)が仕事しているため雰囲気や仲が良いのだ。

 イジメなんかした日には翌日にイジメた側の社会的立場がなくなる恐ろしさがある。委員長(妹)をイジメたお嬢様をおとしめた実例付きだ。

 ……なお、そんな委員長(兄)とお嬢様が許嫁に成っているのはクラス内最大の謎だ。委員長(妹)とお嬢様もいかがわしい雰囲気を最近感じるし、しつけたのだろう。エロ的な意味で。


「今日、あの三人はおらへんよ」

「それは平穏だな」


 しどー君の言葉に私と暴力女が同意と笑う。

 まあ、委員長は触んなきゃ無害だし、立ち位置クラスカーストやマジメガネみたいに道徳観に拘りもしないので私とぶつかりあうことは無いのだが。


「小牧さんはいつもの彼とデートか?」

「だとええんやけど……あれの家がここやっとる関係で庭遊びみたいなもんや」


 しどー君が聞くと、暴力女は呆れたように外に視線。

 その先を観れば、いつもの野球部の彼が海に逆さに突き刺さっている。スケキヨ丼とか犬〇家を彷彿させる。

 いつものことのようだ。


「とりあえず、あれにおっぱいが大きい人を会わすわけにはいかへんし、気づかれんうちにいくわ……。

 おっちゃんサイダー、二つもってくでー」


 と嵐のように去っていく。

 そして、また何かやらかしたのか、彼氏が沖に吹き飛ばされている。

 いつも思うが、漫画の様に人って吹き飛ぶものなのだと感心はする。

 関わりたくはないが。


「姉ぇ、誰……あの人?」


 っと、私の後ろにいつの間にか隠れていた妹がオズオズと尋ねてきた。


「クラスメイトよ。

 あんたみたいに、普段はメガネをしていて、占い本持っててネクラネクラしてたから変わりように驚いたけど。

 私ほどじゃないにせよ、美人じゃん、普通に」


 素直にもったいないと感想。

 常日頃から自分の魅力をちゃんと引き出せと、お節介ながら思う。


「女は自分で化けれるわよね、やっぱり。

 特に彼氏の前では。

 今度、あれの通常時の写真みせるから比べるといいわよ。

 参考になりそうだから」

「……うん」


 とりあえず、人のふり見てなんちゃらだ。

 妹に対して口煩い姉になってる気がするが、事実だ。仕方ない。


「さて、もうひと泳ぎしようか?」


 昼が終わり、しどー君がそう提案してきたので、それに乗る。


「まあ、焦ることではないかな……」


 ふと、前を歩く妹としどー君の後ろ姿を見て呟く。

 しどー君を妹のことで悩ませている私が自分勝手になっていないかと不安に感じたのだ。

 だから、海で遊んでいた二人は楽しそうであり、遅々としているが進んではいるのだと、私はそう自分に言い聞かせる。

 恋愛も何もかも、人のペースは有るものだ。


「焦って処女を間違った方向で失おうとして、反省したはずなんだけどなあ……私」

 

 とはいえ、悩むのもビッチらしくない。


「おりゃ!」

「「……!」」


 頭を振り、二人に後ろから抱きつくのだった。

 とりあえず、遊ぼう。

 もし悩みが残ったら明日の私に任せよう。

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