第32話 浮かれな妹だけど、どうしよう……

 玄関にある鏡の前でクルリと回る私。

 膝まである長めの白いスカートが円を描く。

 姉ぇにアドバイスを受けてオシャレした私は少し浮かれていた。

 否、少しではない。


「私、こんなに可愛かったんだ……」


 ナルシストが入る程、浮かれてしまっている。

 長い後ろ髪を赤いリボンで留め、眉毛までかかっていた前髪も整えた。

 眼鏡もコンタクトで、姉ぇに似た顔になる。

 自分で言うのも何だが、ちゃんと美少女している。

 少し輪郭が丸っぽいのが気になるが、少しずつ痩せよう。

 とりあえず、小顔マッサージは始めた。


「妹よ、私になるのはムリだから自分に合った服装を探すのじゃぞ、にょほほほ。

 服は姉ぇのを着ていいぞい!

 屋根裏!

 ちゃんと綺麗にしてあるから!」


 とは姉ぇ仙人の話だ。

 綺麗にしてあるという単語に引っ掛かったが、言われた屋根裏を開ける。

 すると姉が居なくなってから使われていない、服が大量に出てきた。


「いつの間にこんなに買ったのよ……」


 貰ってそうでもあるが、基本、男性をたぶらかしてだろう。家にこんなに買うお金はない。

 中を見れば、バニーやらナース服が出てきたり、ちょっとカオスだ。そんな中で落ち着いた大人っぽい服を探す。

 姉ぇは何だかんだ、露出の多い服装も着こなすし、ギャルっぽい服装も好きだ。かと思えば、ゴスロリも着こなしていた覚えもある。

 私には無理だし、服に着られてしまう。


『どちらかと言うとシンプルな方がまとまるから、ロングな白ティーとかもいいかも。

 まぁ、無地ワンピとかで纏めちゃってもいいかもだけど』


 髪質も違う。

 姉ぇは茶髪も明るい感じである。

 比べて私も茶髪だがちょっと黒味が強い。

 年子であって、双子ではない為、こう言った所の差はあるあるである。


『清楚系処女ビッチよね。

 処女ビッチだった私が言うと何だかなーとは思うけど』


 とは姉の電話での会話で出てきた単語だ。

 調べてみると、計算して清楚を演出して男を誘う性に奔放なタイプと書いてあって、


『どこが⁈』


 と返してしまった。


『覗き見してオナニーしちゃう妹よ、何もかもその通りじゃない。

 痴漢を誘って、快楽堕ちされそうになったあんたが天然清楚系ビッチで無かったら、誰がそうなのよ?』

『誠一さんにだけ観て貰えればいいの!

 それに快楽堕ちって……』

『痴漢されて感じてたら十分ヘンタイよ、ヘンタイ。

 淫乱天然清楚系ヘンタイビッチ巨乳眼鏡生徒会女子高生。

 どこかのAVみたいに属性マシマシね。

 どうせオナニーしまくってんでしょ?』

『うぐっ』

『まぁ、私もそうだし?

 私はビッチではあるけど、今は彼の前だけだしねぇ。

 あんたもそうありたいんでしょ?

 わかるわかる。

 ダメよ? 性欲に任せて、誰彼構わずしてしまうのは……』

『しないから!』

『どーだか。

 あんたは私の妹よ』


 説得力のある言葉で嫌になる。

 さておき、話し半分で対応してくる姉はそろそろ塾にも通い始めるそうだ。

 彼氏の家で稼いだバイト代で。

 ……世の中、不公平である。


『さておき、デートでの注意点は、

 1、会話は普通に話しやすい方がいい。

 言葉遣いとかは相手に不快にさせない程度に気を付けて、普通に喋ればいいわよ。

 2、ファッションを過剰にしなくてもいいけど、地味にしていい理由にはならない。

 あと、爪や髪はちゃんと清潔にしなさいな。

 そして、これが重要なんだけど』


 姉ぇが溜める。


『3、奥手、ネガティブになってはいけない』

『?』

『基本的に、恋愛なんてのは攻めた方がいい。

 私も自分がしどー君に合わないと思って自暴自棄になりかけて、処女を無駄にしようとした、これの教訓。

 今も時々、ネガ入るから自分にも言い聞かせてる』

『姉ぇがネガティブに……?』


 ちょっと想像が付かない。

 いつも唯我独尊をいく姉ぇのポジティブにガンガン目的を決めたら突き進む。

 私はその後塵を眺めて、嫌な気持ちになることが多い。


『しどー君、マジメだからね。

 私みたいな汚れでいいのか真剣に考えちゃうのよ。

 どうしても。

 正直、性欲に堕ちる前のあんたの方が似合うとか思ったこともあるわね』


 姉ぇのその言葉は私に突き刺さった。

 こんなエロくなってしまった私が誠一さんにふさわしく無いと考えてしまっている状況にそっくりだったからだ。

 やはり、姉妹だからだろうか。


『まぁ、下手をしたらお前の姉ぇは誰とでも寝てる尻軽になっていたかもしれないわけで』

『いや、それは普通に予想内だったから……。

 今の方が予想外』

『確かに。

 一人の男をもてあそんだり、喜ばしたいと思うようになったのは、あの時の私から見たら狂っているだろうし』


 ただね、と姉ぇは続ける。


『あんたがそうなる可能性がある。

 振られても、絶対自暴自棄にならないでね?

 姉との約束』

『……』

『返事は?』

『……判った、姉ぇ。

 肝に銘じておく』


 無いと即答できなかった。

 体から来る快楽を浮かべると、流されそうになる。

 事実、今、私は性欲をコントロール出来ていない。


『まあ、そんなことより、デートよね。

 初デート』


 そんなこんなで、姉ぇからアドバイスを受けて服をコーディネートして写メとって転送したのが冒頭だ。


『いいんじゃない。

 可愛いし、無理してる感じもない。

 コンタクト疲れて眼鏡するなら太めの黒フレームで、知的感を演出するのもありね。

 メガネも使い方で十分、オシャレアイテムになるから。

 ウチのしどー君は絶対、コンタクトだけど』


 姉ぇからはこうきたので大丈夫だろう。

 それよりも、


『デートの約束出来たの?』

『塾の後にお礼するってとりつけた!』

『それ、デートいわないわよ……』


 痛いところを突かれた。


『まぁ、そこからよね、そこから。

 あのね、前も言ったけど、行動しなかったら結果は伴わないのよ!』

『言ってない言ってない。

 ネガティブになるなとは言ってたけど』

『そうそれよ!』


 姉ぇ、たまーに話飛ぶよね。

 さておき、


『お礼する際に会うからそこでデートの約束をするつもり!』

『ほー、出来なかったらハリセンボンね?

 出来たら、デートで使う服はあげるわよ。

 汚したいだろうし』


 バカにされてる気がする。

 さておき、そして迎えた塾終わり。

 正直、塾の授業中、頭にちゃんと入ってこなかった。

 いけないと思いつつ、心臓がバクバク言っていた。

 塾にお洒落は場違いなので、いつもの地味な格好だ。


「よし!」


 せめてもとトイレで一回髪を整えて、待ち合わせの場所へと向かった。

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