第28話 一目惚な妹だけど、どうしょう……

 落ち着いた。

 そして現状理解抱きついてる

 顔から火が出て、再び落ち着きがなくなり、彼の胸の中から慌てて離れる。


「あのあの、お名前をお聞きしていいですか……?」


 私は何てことになっていたんだろうと自己嫌悪し……、更には彼を見ると心臓がバクンバクンうるさく跳ねる。

 それを誤魔化すように述べた台詞がこれだ。

 彼は一旦、整った顔を怪訝そうにして何故か困惑を示すが、


「あぁ、確かに名前は言ってなかったね。

 誠一せいいちだ。

 まことに数字のいちと書く」

「誠一さん……私は……」

「知ってる初音さんだろ?

 初音の妹の」


 姉ぇと敬称無しで呼び合える程度かつ私のことを話せる程に、仲がいいらしい。

 援助交際相手の誰かだろうかと邪推をしてしまい、流石に失礼だと打ち消す。

 同年代に大金を貢がせるような姉ぇではない。

 多分。


「誠一さん、すぐ着替えてきますので、ちょっと待っててください!」


 っとコンビニで下着を買って、トイレの個室へ駆け込む。

 今履いているのを脱ぐと、


「うわ……」


 引いた。

 糸も引いてるし、私自身も引いた。

 ぐちゃぐちゃで、メスの匂いが個室に立ち込める。

 自分で出したとはいえ……自己嫌悪してしまう。

 もう姉ぇのことをビッチと言えない気がする。

 自分も性に貪欲だということが、嫌でも実感してしまった。

 正直、痴漢は嫌だった。しかし、体は気持ちよいと反応してしまったのは否定出来なくなっている。

 自己嫌悪が再び襲ってくる。


「……しっかりしろ、自分」


 頭を振って邪念を撲滅し、ささっと着替える。


「お待たせしました」

「別に、大丈夫だ。

 何かあったらことだし」


 コンビニ前、待っていなくてもいいのに、待ってくれていた。

 その事実が私を嬉しくする。


「初音さんの方こそ、大丈夫かい?」

「はい。

 ……先ほどはありがとうございました。

 その、はい、みっともない所もお見せしまして……。

 抱き着いたり」

「いや、初音さんが無事でよかった。

 それに僕の胸程度で落ち着いてくれるなら安いもんさ。

 困っている人は見捨てられん」


 私を観て彼が微笑んでくれる。


 ――トクン。


 心臓がうるさい。

 さっきからずっとこうだ。

 頬も熱をもってそうな感じだ。


「顔が赤いが大丈夫か?」


 言われ、右手でおでこを触られる。

 ヒンヤリとした感触が私に伝わり、気持ちよくなり、


「ふぁ……」


 瞬間、思考が溶けた。

 先ほど痴漢と会った時のような快感が体中に行き渡り、足元から崩れ落ちそうになる。

 ただ大きな違いがあった。


(もっとして、して欲しい……)


 心の底からその手に身を委ねたくなっている自分がいた。


「いえ、だ、だ、大丈夫です」


 慌てて、離れ、深呼吸。


(すぅ……はぁ……)


 落ち着く。

 そして面白そうに私を観てくれている彼と目線が会うと、胸がまた跳ねた。

 制御不能だ。

 どうしたんだろう、私は。


「ぁ……」


 お腹の奥が更に大きくトクンと鳴った気がした。

 脳裏に思い出されるは、姉ぇとしどーさんの情事。

 私も、この誠一さん……っと、したいと浮かんだのだ。

 初対面にも関わらずだ。

 ハシタナイと感じる自分は居ない。

 それどころか、この人が運命の人なのだと、決め付けてそれに違和感がない。

 一目惚れ、初恋というのはこういうことなのだろうか、そう自覚した。


「……あの、誠一さん」

「何だい?」

「今度、またお会いできませんか?

 ……その、今日のお礼をしたいので」


 と、私は初めて男の人に誘いをした。

 彼は悩んだ様子を、一瞬だけ、見せたが、


「判った」


 っと頷いてくれた。

 私の心が兎の様に跳ねた。


「連絡先も交換していいですか⁈

 お願いします!」


 っと、勢い余って誠一さんの胸元に携帯をグイグイと押し付けてしまう。

 そんな様子を怒らずに、笑ってくれる。

 やっぱり優しい人だし、同年代のクラスメイトに比べ大人びている感もあり、ますますカッコよく感じる。


「これでいいかい?」

「はい♪

 ありがとうございます!」


 っと、交換が完了する。


「おっと、そろそろ塾に行く時間だ」

「あ、私もです」


 携帯の時間を観てお互いに気付く。


「送ろう、どこだい?」


 聞かれ答えると、同じ塾だ。

 嬉しくなりながら、隣で歩く。

 クラスを聞くと、彼は一番上。

 私は平均より少し上だ。

 一緒じゃなくて寂しいという気持ちが沸く。


「……勉強できるんですね?」

「これしか取り柄が無いからね、初音にもよく弄られる」


 また、姉ぇが話題に出た。

 ……気分が悪くなる。

 イライラした感情には覚えがある、嫉妬だ。


「姉ぇがその……援助交際とかしてたのは……」


 私の女の部分がそう言わせていた。


「知ってるし、今は違うことも知っている。

 初音自身は悪い奴ではないし、初音のことを悪く言いたい訳でも無いだろう?」

「……はい」


 諭すような口調に、ハッとさせられる。私は姉を貶めるところだった。いけないいけない。


「まぁ、それに関しては病気みたいなものだから。

 少しづつ直っていくと思う」


 話す話題が無くなり……塾についてしまう。


「ここでお別れだ」

「はい……」


 お別れの時が来てしまった。

 寂しく思い、手が震えてしまう。


「もし、帰り道で怖いようだったら、連絡をくれ。

 隣で歩くぐらいは出来るし、京都駅までだったら送れる」


 そんな私を観てくれたのか、突然の提案。

 本当にこの人は優しいと、私の胸が熱くなった。


「……はぃ!」


 そして思いっきり笑顔を向けることが出来た。

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