第27話 痴漢中な妹だけど、どうしよう……

「――っ!」


 電撃のような衝撃が身体中にはしった。

 それは京都駅から乗り換え、塾がある四条へ向かう地下鉄の中だった。

 私は隣の車両に繋がる連結扉の前に追いやられていた。

 通学・通勤時間で人が多く、致し方ないと諦めつつ、携帯アプリで単語を勉強していた時だ。


 ――とんとん。


 お尻を叩かれるような感覚。

 下。見れば、手の甲だ。

 偶然だろう、と思い無視する。


 ――とんとん――ととんとん。


 また来た、しつこい。

 どうしようかと悩んでいるうちに、ぞくっとした電撃のような感覚が来たのだ。


「っあ……!」


 力強くお尻を揉まれていた。

 ビリビリとした感触が頭を突き抜け、


「――っ」


 痴漢です!

 

 と叫ぼとするが声が出なくなっていた。

 昨日、一日呆けていたせいかもしれない。

 普段なら嫌な事なのに、甘い声が漏れそうになってしまっている。

 背中までゾクゾクした感覚が来、ビクンビクンと体が跳ねてしまう。

 体だけが別の生き物のような感覚だ。

 相手もそれに気を良くしたのか、更に下へと手をはわせてくる。


「やぁ……っ」


 体を小さく振り拒否を示すが、相手の手はお構いなしとスカートの中へ。

 大きな手にぬめっとした液体の感触を自覚させられる。


(なんで私なんか狙うの……。

 姉ぇなんかに比べて地味で、眼鏡の私なんかぁ……っう!)


 惨めな気持ちになりながら、耐える、耐える、耐える。

 けれども、私の体は正直に相手の動きに合わせて、魚が跳ねるよう反応してしまう。

 私が雌だと否応が無く、気持ちよさに自覚させられていく。


「……っ」


 お尻にズボンを押し付けられる。

 大きくて熱いモノの感触。

 私の体で興奮しているのだと思うと……頬が熱くなってしまい、頭の中が掻き乱される。

 正気じゃない。

 私も、相手も。


『四条烏丸、四条烏丸』


 降りる駅。

 そのアナウンスで意識を戻される。

 頭を一回振り、走るように電車を降りる。


「はぁはぁ……」


 大きく深呼吸し、まずはたかぶったままの体を落ち着けることにする。

 私を見て、怪訝そうな顔をして歩いていく人たちは基本、皆興味が無く、日常に戻っていく。


「大丈夫ですか?

 顔が赤いようですが」


 声を掛けられてビクンとし、顔を向ける。

 姿かっこうからサラリーマンのように見える。

 心配するような声色こわいろと言葉だが、私はそのニヤついた笑顔に嫌悪感を覚えた。


「まるで、痴漢・・にあって興奮しているかのようだ」

 

 私に向けて差し出される手には、濡れたものがぬぐわれた後。

 この人が私の体をまさぐったのだと、すぐ気づいた。

 体が恐怖でコワバり固まってしまう。


「少し休憩した方がいいんじゃないかな?

 オジサンが案内しよう」


 そして嬉しそうに言ってくる

 私のような気弱な少女を狙っては手込めにする。つまり、そういう事なのだろう。

 喉が震えて声が出ない代わりに頭を横に振り、拒否を示す。


「君のようなシャイそうな子は素直になった方がいいよ。

 何人もカウンセリングしてあげたが、皆、夢中になった。

 特に君なんかは大きな胸や整った顔なのに素材を殺してしまっている……もったいない……」


 っと、手を掴まれてしまう。


「いやぁ……」

「いいからいいから。

 オジサンが楽にしてあげるよ。

 きっと、人生が変わるよ?」


 振り払おうとするが、力の差は歴然な上、身体に力が入らない。


「痛い目にあいたくないだろう?」


 ムンズと私の頭を強く掴む。

 頭蓋にきしむ痛みが抵抗を奪っていく。


「あれ、初音?

 眼鏡してどうした?」


 聞き覚えのある声で苗字を呼ばれ、振り向く。

 誰?

 何処かで見た感じはあるが知らない男性だ。

 黒色の髪の毛はしっかりと整えられており、長身で、眼のあたりのつくりも優しさを感じさせて奇麗だ。

 体のバランスも痩せすぎず太すぎない。


 ……かっこいい。


 色々あって、思考が呆けてしまっているのだろう。

 知らないその人を見て、トクンと胸が高鳴った。


「あー、妹の方か」


 姉ぇの知り合いらしい。

 私と姉ぇは確かに恰好の好みこそ違えど確かに似ている。


「……うーん、二度あることは三度あるかな。

 その人は知らない人だね?」

「……はぃ」


 微かだが、声を振り絞れた。


「介抱してくれてありがとうございます。

 代わってお礼します」

「なんだ、お前は!」

「同級生ですが、なにか?

 病院と警察にはツテがあるから必要であれば呼びましょうか?」


 と彼が睨みながら、携帯を操作する。


「ちっ!」


 サラリーマン風の人は私を放り投げるように彼にぶつけ、悪態をついて去って行ってしまう。

 助かったと思うと同時に、今まで湧かなかった恐怖心が沸き、


「――っああ」


 声にならない悲鳴で泣き叫びながら彼に抱き着いてしまった。

 知らない人だというのに。

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