第23話 憂うつな妹だけど、どうしよう……

 目覚ましで起きると、知らない天井だった。


「あ……姉ぇの彼氏さんの家か……」


 その姉ぇの部屋だ。

 二人はもう学校に向かったようだ。

 京都から舞鶴だ、時間がかかる。

 時間を見ればまだ六時だ。

 ここからなら、私の学校はすぐだ。

 まだ二時間は余裕がある。


「とはいえ、惰眠だみんを貪れる私でも無い訳で」


 真面目なのだ、私は。

 とりあえず、軽くストレッチをする。

 そして居間へ。

 今のテーブルの上、朝御飯が用意されている。


「妹へ、朝はきっちり食べること!」


 見慣れた文字のメッセージカードも添付されている。鍵も置かれていて、今度返して、とも書かれている。


「言われなくても食べますとも……」


 最近、見なくなった姉ぇの綺麗な文字だ。

 両親ともに働いていて、姉ぇが家事をしてくれて、私にはするなと厳命してきた過去を思い返す。


「料理も洗濯も掃除も出来なかったし……」


 過保護な姉である。

 とはいえ、最近は出来るようになった。

 人間、追い詰められれば出来るようになるものである。


「とはいえ、ご飯の偏りは隠しようが無くて」


 その……太る訳だ。

 胸が特にきつくなっている。


「姉ぇに女として負けているのは仕方ないにせよ……」


 医学部に行く。

 こう断言していた。


「このままだと唯一、勝てていた部分も勝てなくなる」


 嫌だなぁっと思う。

 すでにこの一点は高校受験の時に味わって割りきれたとはいえ、あれを永続的に味わうなんて耐えれないだろう。

 今まで姉ぇに追随され、追い抜かれなかったことが無かったとはいえだ。


「……私も彼氏できたら変わるのかなぁ」


 姉ぇみたいにビッチ化するのはさておき、少しは角が取れるのだろうか。

 学校でも真面目なため、信頼はされるもの、ほかの女生徒とは壁みたいなものを感じる。

 空気を読めと言う話も暗に言われることもある。

 生徒会の傘もあって虐められずにはいるモノの、ちょっと怖くなることがある。


「人付き合いも苦手だしなぁ……」


 役割を持った相手に役割で話すのは苦ではないのだが。

 例えば、昨日の様に初対面の人と話すときに壁を感じることが多い。

 特に同年代。

 偉そうだとか、そう陰で言われて無いか不安になる。


「はぁ……」


 考えていると悪い方向に行く。

 とりあえず、朝御飯だ。

 トースト、ダイス状にバラバラにしたゆで卵とピクルスにマヨネーズを合えたモノ、コーンスープ、野菜サラダ。


「く……っ」


 女性味あふれるラインナップだ。

 お洒落だ。

 さりげなく、皿の色合いとかにも拘っているのが判る。


「家に居た時より、美味しくなってる……」


 食費に不自由しなくなったのも大きいのかもしれない。

 野菜サラダのドレッシングもどうやら自家製だ。

 凝ってるのは食べていれば判る。


「愛の力よ!」


 脳裏の姉ぇがそう言った気がする。

 何というか、女としてのレベル差が取り返しのつかないものになっているのは間違いないだろう。

 姉は彼氏持ちにもなって、仲も非常に良い。

 妬みが沸かないといったら嘘だし、負けた気持ち抱く。


「……ごちそうさまでした」


 量も丁度。

 食事的には満足した。

 けれども、心情的には見せつけられた気がして、何ともいえない気分になった。


『片づけなくていいわよ。

 割るから』


 と、言付けも書かれている辺り、何ともだ。

 ムッとしたので、皿洗いぐらいはと思ったが、結果、割ってしまった。

 慣れないキッチンというのもあったが、それは言い訳だ。


「どうしよう……」


 憂うつとした朝だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る