転換

「困った」

 ミイロは思わず呟き、溜め息をついた。迷惑かけるかもしれない、と言ってはいたものの、かけるつもりは全くなく。まさか言って数日と経たない内に、さっそく迷惑をかけるようなことになるとは思ってもおらず、甚だ遺憾ではある。それでも少しは弁解の余地はあると思う。

「誘拐されるとは……」

 まさか自分がマフィアに誘拐されるとは夢にも思わず、彼らとイザコザ起こしていないばかりか接触すらしたこともなく、何故だろうと不思議になる。

 もう一つ不思議なのが、誘拐された感が全くないことだった。拘束され狭い部屋に捨て置かれるでもなく、自由とはいかないまでも、もてなされ広い部屋で過ごせてはいる。悪くはない。オマケに薄着のF型機械人間が、目の前で艶めかしく踊り、両隣に座る薄着のF型機械人間が、食べ物飲み物を口に運んでくれる。性的アピールが幾分過剰気味ではあるが……。そこら中にある監視カメラで撮られている。まさか、これをネタに強請ゆすられるのであろうか。

「コレ見られたら、心配されるより怒られるよなー」

 エイルが拗ねる顔が目に浮かぶ。おもいっきり俯き溜め息をつく。

 そこへ運悪く? 部屋に入ってきた男たちにその現場を見られ、

「旦那、F(女)どもが気に入らねぇんですか? やっぱりM(野郎)の方が――」

 クルーを引き連れたファミリーナンバー2のアンダーボスらしき男に、接待の仕方に不服があると思われたようである。男は後ろに控えていた部下のキャプテンに顎で指示し、更にキャプテンは下のソルジャーへとジェスチャー・リレーさせる。

「いやいや‥‥ん? そういうことじゃなくて」

 否定したいがその否定も可笑しく、根本的に違う。それに『やっぱりM』のが引っかかる。

「違いやすか? Fっ気足りんと? もっと呼んで来させやしょう」

 いったい何体の機械人間を保有しているんだ、と思う。

「だから、そういうことじゃないって」

「旦那、どうして欲しいんです」

「帰らせてくれ」

「……それは旦那、話が違いやーせんでしょうか。スジ通して貰わんと」

「うん。そもそも話もしてないし、スジも通されていないからね」

 誘拐されているのだから。

「こっちは話を通して来て貰ってますぜ」

「一方的に、だけど」

 ミイロはそれこそ不服に思う。

「ヴィークルに無理矢理押し込められた」

「そりゃ、込み入った話だったもんで、誰にも聞かれず、ゆっくり話ができるって思いやしてね、コイツらに指示しやした」

 無理矢理の時点で、話という概念から外れているのだが。

「目隠しは?」

「ここは儂のプライベートな場所でして、割れると困りやす」

 分かったところで近づかない。

「口枷は?」

「騒がれると大事になりやすでしょう」

 普通の人にしたら既に大事である。

「手枷は?」

「暴れられると、つい……」

 つい、何?

「僕の意見は?」

「ここで聞きやす」

 ヴィークルに押し込まれ、一方的に話をされ、ここに連れてこられ、ようやく話のできる男が現れ、ミイロが答える番となった。ずいぶん時間差のある会話となる。

「修理って言われても――」

「何て言いやした?」

 ミイロがそう言った瞬間、アンダーボスは形相を変え、

「だから、『修理』と」

 ミイロそう答えると、くるっと踵を返し、後ろに控えていた部下のキャプテンをおもいっきり殴り飛ばした。キャプテンは、そのまま床に倒れた。 

「修理じゃねーつってんだろうが」

 それを見ていた配下のソルジャーたちは、身を竦ませ、床で倒れた男を庇うこともできずにいた。アンダーボスは追い打ちをかけるよう踏みつける。

「何度言ったらテメーらは分かんだ、コラッ、オオウッ。ドタマかち割って、海馬ぶち抜いてやろうか」

 ますます記憶なくす‥‥前に死んじゃうから。

「ス、スンマセン、兄貴――」

 踏まれながらも謝るキャプテン。まだ意識があったようだ――ではなく、

「止さないか」

 ミイロが言っても聞く耳持たず。

 それに動いたのは、F型機械人間たちだった。彼女たちは「やめてください」と、一体はアンダーボスの腕を摑み、もう二体は倒れるキャプテンに覆い被さった。

「お前ら離れンかい」

「ダメです」

 アンダーボスは摑まれた腕を振り解こうしたが、彼女はそうはさせなかった。彼は摑まれていない手で彼女を――。

「もう十分だろ」

 ミイロがその手首を押さえた。

「彼女たちまで殴る必要はないよ」

 男はキッとミイロを睨んだ。が、次第に変貌させた顔を元に戻し、握っていた拳を開き苦笑して見せた。冷静になった男は、配下のソルジャーたちに、倒れている男を手当てしてやれと命令した。

 アンダーボスは笑みを浮かべながらミイロに振り向いた。

「スンマセンね、変なとこ見せやして。ただね、誤解されてると思うんで言わして貰いやすが、儂は機械人間は殴りやぁせん。アイツらは‥‥」

 男が顎で指したF型機械人間の一体は、床に散らばった物や倒れた男の血を片付け、一体は運ばれていった男に付き添っていった。

「‥‥言えば理解してくれますし、何せ商売道具ですからね」

「商売道具?」

 アンダーボスはミイロの疑問に意外だという顔をした。

「知りやせんでしたか。儂ら街でキャバレーもやっておりやしてね、そこのFです」

「ああ‥‥なるほどね」

 確かに街にそんなキャバレーがあることを思い出し、だから踊りも接待もでき、性的アピールが過剰なのも納得した。

「誤解して済まない」

 ミイロが謝るとアンダーボスはそれを制した。

 F型機械人間の一体が、手に救急ボックスを持って男の側に来ると、彼の手を取り手の甲を診ていた。さっき男をおもいっきり殴り飛ばした所為で、拳の皮が擦り剝けて血が滲んでいたのである。

「大した傷じゃーねぇ」

 男は彼女に言うが、彼女は「ダメです」と、彼の抵抗を無視し、手当てを始めた。男は苦笑して彼女の好きにさせることにした。

 彼の言動といい、状況といい、『商売道具』としながらも、彼は機械人間を人間並みに扱っている、とミイロは思った。それと、これは〝誘拐〟ではなく〝拉致〟だなと、言葉の意味が違うだけで、自分の状況が変わっていないのに何故か訂正していた。

「因みにですが、旦那はウチの店に来たことは?」

「済まないけど……」

 行ったことはないが、あそこを担当しているサブディーラーから噂は聞いて知っていた。

「こいつらも居ますし、いいMも居やすぜ」

「機会があったら」

 あっても行かないし、行けない。

 彼は手当てしてくれた彼女や、床を掃除していた彼女にも礼を言っていた。

「!‥‥?」

 ミイロは思い出し序でに疑問が出てきた。そう、彼らのキャバレーにいる機械人間は、街外れのサブディーラーが担当していた。それなのに何故、自分が呼ばれたのだろうか、と。機械人間の修理師である自分が拉致されてきたのだから、機械人間に関してとしか考えられないのだが、ヴィークルの中で説明された所謂『修理』とは異なるのであろうか。

「それで僕をここに無理矢理連れてきたのは何です?」

 アンダーボスは彼女たちに下がることを命じ、ミイロにはソファに座って待つように言った。それに従うしかなく、ソファに座ると、彼は誰かに連絡した。

 しばらくして部屋の扉が開き、先程までいたF型機械人間とは少し違う、美しく凛々しい女性が現れたのである。アンダーボスは彼女に近づき、腰に手を回した。

「実はこいつなんですがね。ここいらじゃ見かけねーFでして、ちょっと訳ありで手に入れたんです。もちろん法に則ってですが、ワケがあったのはこいつの持ち主でして、ソイツが‥‥まぁ、法から外れた話なんでそれは止しますが――」

 何をしたんだ、何があったんだ、と聞きたくもあり聞きたくもなし――はともかく、彼の言う通り彼女は大手メーカーのF型機械人間ではなかった。頭部の構成パーツだけでも組み合わせは何兆通りもあり、それが身体のパーツや骨格まで含めると計り知れない。それ故に大手メーカーは、二系統三型五層――性別、体型、年代層の三十種までにしていた。未成年、特に子どもの骨格及び素体は禁止されている。機械人間製造会社の中には、オーダーメイドを受注するメーカーもあり、おそらくその類の機械人間であろう。

 人工脳のシステムに関しては、大手メーカーが独自開発することもあったが、シェア率を見ると八割が未だ〝本能〟を占有していた。彼女も人工脳には〝本能〟がインストールされているようだ。

「それで話を戻しやすと、旦那にやって貰いたいんですがね」

 だとしても、サブディーラーに頼まず自分なのか、

「こいつを‥‥」

 イヤな予感しかしない。

「‥‥男にしてやってくれんですか」

「……?」

「頼む、この通りだ」

 アンダーボスは頭を下げていた。

 頭を下げられても、ミイロは彼の言った言葉の意味を上手く把握することができなかった。F型機械人間を見ると、彼女も困った顔をしている。

「えーと、取り敢えず頭を上げて貰っていいですか」

「やってくれるんですかい」

 笑みを浮かべる。

「いや‥‥っていうか――」

「イヤなんですかい?」

 若干だが睨みを利かす。

「そうじゃなくて、話を整理させて欲しいんだよ」

「ほぉ」

 話が通じたものと思っていたアンダーボスは、話の整理と言われ、少しミイロを買い被っていたのかと思い、不承不承ながら聞き入れた。

「そのぉ、男にするとは、隠語的意味合いでは‥‥」

「そんなバカな――」

「‥‥ない、ですね」

「こいつFですぜ、下ろせるモンが――」

「あーあー、そっちの意味じゃないけど、どちらにせよ理解した」

 そっちとはどっちなんだ、と言わんばかりに困惑しイラッとするアンダーボス。

「じゃぁ、彼女の身体をM型に換装しろってこと?」

「違うぜ旦那」

「彼女のデータをM型に移植しろってこと?」

「そうじゃないんだよ、旦那」

「えーと、FM型に――」

「何で分かってくりゃぁせんのですか。旦那までアイツらと同じこと言うんですかい!!」

 ミイロなら理解してくれると思い、ワザワザこのプライベートな自宅に招待し、好みのタイプであろう綺麗どこのF型を集めてもてなしたにも関わらず、言ってることがアイツらと同じ。彼を一流の機械人間の修理師と見込んで接していたが、どうにも我慢がならない、とアンダーボスは怒鳴ってしまった。

「声音を変えるってこと?」

「違う違う違う、そうじゃ、そーじゃねーんだよ旦那ぁ!! こいつを男にして欲しいんだよ儂ぁよー」

 身悶えしながら叫ぶアンダーボス。

「それが解んないんだよなー。だいたい誰、『アイツら』って」

 ミイロも多少切れ気味に困る。

「アイツらっちゅうのは、メンテ頼んでるサブディーラーのこった。そこの社長が、若いが腕の良い修理師がいるってな」

 それを聞いて、ミイロは自分が置かれている全貌が摑めた。たぶん彼はサブディーラーに同じことを頼んだ。だが話の途中で、彼の言ってることが理解できなくなり、というか面倒になり、「ウチでは技術的にできない。若いが腕の良い修理師を一人知っている」、などと言って自分に押しつけたのであろう。溜め息が出る。

「たぶんそれ、体よくあしらわれたんだよ」

「何だ!」

「その『若いが腕の良い修理師』である僕が理解できていないんだから、彼らも理解できなかったんだよ」

「なっ、アイツらぶっ潰してやる!」

「止めなよ、彼らに責任があるわけじゃない」

「儂が悪いってことでやすか?」

「良い悪いじゃなく、僕がちゃんと酌み取ってあげられてなかったんだ。済みません」

 理解して貰えないもどかしさが怒りとなっていた。それを自分より若いミイロが、自分のことを思い謝罪してきた。

「いやぁ、こっちもちゃんと説明できんまま、怒鳴り散らして済まんかった」

 怒りが消えていく。

「本題は一旦置いといて、どうしてそう思ったのか教えてくれませんか」

 アンダーボスは、長い話ではないが、と断った上で座って話そうと、隣にいるF型をソファに座らせ、その隣に自分も座っていた。最初に彼女を見た時、何処にもいないような雰囲気のある彼女をキャバレーなら映えそうだと思い、前の主人から違法な手段で搦め捕り、合法に取得したようだった。

 そして、彼女を男にしたいと思った事件を話した。

 彼女をキャバレーに連れて行ったとき、店で接客していたF型機械人間が、客から難癖を付けられていた。それを見た彼女が、店の用心棒(ファミリーのクルー)よりも先に動き、その客に啖呵切って追い出したのだと言う。それを見た彼が男気を感じた。一目惚れしたのであった。

「だから男にして欲しいんだ。どうです旦那、分かって貰えやしたか」 

 嬉しそうにキラキラと輝く彼の顔。

 彼が何故そう思ったのかを聞き、ミイロは心の中で〈やっぱり分からない〉と叫んでいた。『どうです』と言われても……。ミイロは彼女の全身を見つつ、テクニカルな問題で考えているフリをして唸って見せた。が、先程アンダーボスにした質問と否定を思い出し、更に彼女が店でしたという行為を考えていた。

 機械人間が人間に対し、啖呵を切って追い出すのはイレギュラーなことではある。しかし、できないわけではない。法改正により人間に外傷を与えぬ限りは、防御行動は法的範囲内である。双方に外傷が及ぶことを鑑みれば、機械人間が割って入ることも考えられる。第一は主人の保護なのは間違いないのだが……。

「もしかしてだけど、君はその客を知っていたのかい?」

 ミイロは目の前の艶めかしく――もとい。目の前のF型に訊ねた。

「はい」

 彼女はその客を知っており、前の主人の知り合いであることも知っていた。その行為は前の主人の嫌がらせだと認識していたという。

 いずれにせよ彼女の行為に、彼は男気を感じたのだ。

 知覚できる範囲意外。視覚や聴覚ではない。内面?

 ミイロはアンダーボスを見た。

「彼女の心を男にしろ、と?」

「そうそう、それそれ、それだよ旦那!!」

 ミイロを指さし、やっと理解して貰えたと喜んでいた。

 そのミイロにとっては盲点だった。まさかである。

「できるんですよね」

「……」

「……」

「えっ‥‥」

 アンダーボスはミイロと彼女を見比べ、上げた腕がゆっくりと下がり、弾けていた笑顔が終息していった。

「‥‥できない?」

「残念だけど、それは無理だよ」

「どう‥‥して?」

「あなたも知ってると思うけど、機械人間には基本とした生物学的見地からの男女。所謂MM型とFF型。それに、MF型、MMF型、FM型、FMF型というトランスジェンダー型や両性具有型が存在している」

「ウチの違う店にいる」

「彼ら彼女らの声も変えられる」

「おおっす」

「けどね、変えられない物があるんだよ。それは思考なんだ」

「?」

「彼女の行為を見て、あなたは男気を感じた。しかし、彼女はF型。この時点で自分が言っていたことに矛盾していると、気づかないといけないよ」

「Fだが男の考えをした?」

「普通であればその認識で構わない。けどね、あなたに分かって貰うために詳しく言うと、機械人間の思考は、敢えて言うと間性。もっと言えば、機械人間に性差はなく、あるのは人間性。その思考を声音や話し方、仕草で、人間が知覚できる性差へと変換させているに過ぎない。だからあなたが彼女に感じた男気ってやつは、勝手にあなたが男と感じただけなんだ。それに、助けようとする行動や思考に、男女の違いはないよ」

「……」

 アンダーボスは項垂れ、肩を落としていた。その背中を隣に座るF型がさすっていた。

「詳しーことは解んねーがよー、儂ぁ何となーく理解した。野郎との世界で生きてきたから、性分がそう思ってしまったんだろうな。そんな儂がなぁ……」

 彼は顔を上げ、横の彼女の髪を撫でていた。

 撫でられている彼女は目を瞑り、うっとりとしていた。

 そんな二人を見て、ミイロはそうは言っておきながら、〝本能〟がインストールされている機械人間に限って、イレギュラーが多い。今更だが、〝本能〟を不思議に思う。

 そこへ扉が開き、

「大変です若っ!」

 とソルジャーの一人が入り込んできた。

「何だ!?」

 アンダーボスは貌を変え、その男を見据えた。

「女がカチコミして来やした」

「はぁぁあっ、女だぁ!? モニタァ!!」

 その声で壁にあるモニタが点き、映像を映した。

「あっ――」

 モニタを観て、ミイロは思わず漏らした。

「何だこの女は!?」

 モニタには、ミディアムヘアの金髪の若い女が、男たちに囲まれながらも一人の男の腕をねじ上げている映像が映し出されていた。

「実は、そこにいらっしゃる旦那を返せと」

「旦那だぁ?」

 手を指し伸べられ、アンダーボスに見られ、ミイロは苦笑した。

 すると、モニタとミイロを見比べたアンダーボスは、思わず快活に笑いだしていた。

「やっぱり、旦那もですかい」

 だから、『』に意味が分からない。

「たぶん早く帰して貰わないと、彼の腕が折られる可能性が……」

「そうですかい、豪儀な女だ。気に入った。どうなるか観ていやしょう」

「いやいやいや、冗談じゃ済まなくなるから」

 ミイロは慌てて制した。

 そう言われ、報せに来たソルジャーに、「旦那は丁重にお送りする。摑まえた若いのは離してくれ、と伝えてこい」と命令した。

「そういや、旦那もなかなかだが‥‥」

 アンダーボスはミイロに手首を摑まえられたときのことを思い出した。手を振り解こうとしたが、ビクともしなかったのだ。そんな彼なのに、何故無抵抗のままヴィークルに乗せられたのか気になった。

「‥‥何故、儂らに抵抗しようとしなかったんです」

「えー、痛いの厭でしょ」

 彼の発言にアンダーボスは、一瞬真顔になり、思考し、笑いだした。

「旦那は面白いや。まるで機械人間みたいだのぉ」

「えっ」

「んっ‥‥冗談ですぜ旦那」

 アンダーボスは彼の二の腕を叩いて笑った。

 それはそうと、今回礼になった分を支払い、更に店の機械人間のメンテナンスを総てミイロに任せると彼は決めたと言うのだが、ミイロは何もしていないし、店の機械人間のメンテナンスも多くは対応できないから、今まで通りサブディーラーに頼むといいと断った。しかし彼は、あそこのサブディーラーは用済みにすると言い張り、その上で横にいるFだけでも面倒見てくれと頼んできた。二人に頭を下げられ、無下に断ることもできずミイロは承諾することにした。


 鉄門を抜けた処で立ちはだかり、玄関先を見据えたエイルは、ミイロが現れたのを見て一瞬喜びの笑顔をするが、男たちに頭を下げられながら見送られ、手には抱えるほどの荷物を持ったその状況に怪訝な顔つきになる。

「何あれ?」

 どう考えても想像していたものとは可成り異なる。それでも無事に出てきたことには安堵した。

「ごめん心配かけて」

 苦笑するミイロ。

「無事なのは良いけど、どういうこと?」

 エイルが玄関先を見ると、マフィアのクルーがまた頭を下げてきた。

 ミイロは荷物を抱えながら、取り敢えず行こうとエイルを促し、マフィアのナンバー2であるアンダーボスの私邸を出た。その先に、自分たちのヴィークルが駐めてあることに安堵し、彼は事の成り行きを彼女に話した。

「コレがその謝礼ってこと?」

「いらないって言ったんだけど、店で出してる食べ物かなんかで、大したモンじゃないからって渡された。その割には重いんだよね」

 一緒に出された中には、キメるやつとか、キメられるやつとかも混じっていたり、機械人間用のドラッグ・データもあったが、それら違法の物は丁重に省かせてもらった。

 ヴィークルのフロントにある荷台のブートを開け、荷物をそこに入れる。

「そう言えば、見つけるの意外と早かったね」

「プライマスが、道で乗り捨てられていたこのヴィークルを見つけて、連絡寄越してくれたのよ」

 今日ミイロは、プライマスのメンテナンスに行っていた。新しい身体に移植してから久しぶりのメンテナンスだった。その後、彼らに捕縛され連行された。

「コレにあなたが素直に連れ去られた映像が撮られてたの。それに彼らのヴィークルが映っていたから、調べたんだけど。あの人たちヴィークルを登録してなかったのよ」

 ヴィークルにカメラが搭載されており、いつ何時でも映像を録画していた。ヴィークルを呼び戻したエイルは、その映像を検証し、映っていたヴィークルが誰の所有かを割り出そうとしたが、どうやらそのヴィークルは彼らの違法行為用らしく、登録すらされていなかった。それでも街にある監視カメラを辿り、ようやく見つけたということだった。

「まぁ無事だったし、仕事も貰えたんだから、あとはなかったことにしましょう」

「そう‥‥だね」

 彼女の『あとはなかったことにしましょう』とはどういう意味なのか、ミイロは訊かないことにした。

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