意戦士ワールドライン

ゆーき

第1話

「意戦士ワールドライン」


この世はいつも退屈だ。

だから夢の中で会いましょう。


「え…ゆめ…?」

目を覚ましたのは7月13日。午後16時過ぎの事だった。お絵描きをしたまま寝てしまったみたい。お腹の上には母がかけてくれた布団がある。最高に目覚めが悪い。

汗で気持ち悪い。首元にも脇にもいたるところ汗まみれだ。

そして動悸も止まらない。

ドクンドクンドクン。

頭蓋骨まで鳴り響くほどの心臓の音がする。


母「ユキミーごはんできたよ」


自分が殺される夢を見た。頭を銃でぶち抜かれた。ただの夢。悪夢。なんだろうけどあまりにもリアルな夢で気持ちが悪すぎる。


母「ユキミ?」


頭もズキズキ。心臓はドクンドクン。気持ち悪い。熱でも出てるんじゃないか?


母「ちょっとユキミ?!どうしたの?」


顔色の悪い私を見て慌てるママ。


母「ユキミ?!ねえ?」

ユキミ「あ、大丈夫。あのねママ、ちょっと変な夢見たんだ。」


ママの顔が強ばる。


母「夢…?どんな…?」

ユキミ「え、あ…忘れちゃった笑」

母「……ユキミ。やっぱり一人で寝ないでね。ママと一緒に寝ようね。」

そう言うママの目には涙が溜まっていて、そして少し怖がってる。

私のママは少々…いやかなり過保護なんだと思う。

ユキミ「えー私もう小学生だよ。一人で寝れるよ?」

母「そうね。でもママも最近変な夢見るの。だから一緒に寝てくれる?」

ユキミ「しょうがないなー」

ママも結局寂しがり屋なんだ。いいよ。一緒に寝てあげるね。


母「今日のご飯はねーハンバーグだよ〜」

ユキミ「え!チーズ入ってる??」

母「食べてからのお楽しみ〜」

ユキミ「えー」


ママのハンバーグは正直微妙だ。塩がたまに多すぎる。昔は美味しかった気がするのにな。


ユキミ「ねえママ。次いつ学校に行ける?」

母「んー…いつかね。あ、今日はなんの絵を書いてたの?」

ユキミ「ねえママ!学校行きたい!」


ママは私を外に出してくれない。


母「ママはね。ユキミが心配だから。学校に行って欲しくないの。」

ユキミ「でも私と同じ歳の子も学校に行ってるよ。みんな同じところで勉強してるよ。なんで私は…」

母「勉強ならママが教えてるでしょ。もうやめて。学校の話はしないで。」


学校の話をするといつも機嫌が悪くなる。

今日はママと手を繋いで寝るんだ。

布団をくっつけてママの手をしっかり握って目を閉じる。


あれ?ママ?横にママがいない。

家中探してみてもどこにもいない。

外に探しに行こうとするけどドアは開かない。


ユキミ「ママどこ行ったの?」


1人でぽつんと呟いたから余計に孤独を感じる。


ガチャ


ドアが空いた。ママだ。


ユキミ「ママ!どこに行ってたの!」

母「ちょっとお買い物行ってたよ〜」


嘘。なんでそんな変な服着てボロボロで帰ってきてるの?

初めて見るママの姿だ。


ユキミ「ママなんでそんな格好…」

母「今日は何して遊ぶのー?」

ユキミ「え?寝るんじゃ…?」


おかしい。外は明るい。

夜ご飯も食べてママと手を繋いで寝ていたのに。


母「じゃあお絵描きしようね!」

ユキミ「う、うん…」


ママもおかしい。

なんでそんな泣きそうな顔しているの?


毎日毎日お絵描き。

もう飽きた。


ふと窓の外に目をやると同い年くらいの男の子と目が合う。

少ししたら男の子は走ってどこかに行ってしまった。

誰だろう。私は外に出ないから分からない。


母「何描いてるのー?」

ユキミ「あのね、男の子描いてる。」

母「男の子?」

ユキミ「あの、外の……あ、あのね王子様描いてるんだよ!」

母「王子様かー!いつか迎えに来てくれるといいね。」


ママのこうゆう所が嫌いだ。

外に出してくれないのに夢だけ持たせる。

私はずっとこの狭い世界で生きていくんだろうなって余計に痛感させるんだよ。


ママは私の絵を手に取って見る。


母「ユキミ…ごめんね。」

ユキミ「え、」


ビリッ


―――


ユキミ「ん…。」

母「あ、起きたのー?」

ユキミ「え?あれ?絵は?」

母「絵?何の話―?笑 寝ぼけてるの?」


ああよかった。

全部夢だった。夢の中でママが私の絵を破いたんだ。現実じゃなくて良かった。

私が嫌だと思ったママの言動は全部夢だった。


ユキミ「あ、ああ…なんでもないよ!」

母「今日はお勉強しようねー!」

ユキミ「うん…」


ママが教えてくれる勉強。

どうして私だけ家の中で勉強するんだろう。

学校はどうゆう所なんだろう。

ランドセルだって背負ってみたい。

母「ユキミ?聞いてる?集中してよー?」

ユキミ「うん…」


そうして夕方になった。


母「そろそろママお夕飯作るからこのページまで問題解いてね。」

ユキミ「はーい。」


窓辺に寝そべってテキストの端っこにまた絵を描く。

昨日夢で描いた男の子。夢の中では上手くかけたのにな。

もう思い出せないや…どんな顔をしててどんな服を着てて…


コンコン。


ふと窓を叩く音が鳴る。外からだ。

ママにバレないようにこっそりカーテンをめくる。


そしたら君と目が合った。


全く同じ顔。同じ服を着た私の王子様。

男の子も私の顔を見て目を見開く。


母「ユキミなにしてるの?」

ユキミ「え、あ、あの、男の子…」

母「男の子?」


ママが窓を開けて

母「僕どうしたの?」

男の子「あ、連絡帳とどけにきましたー」

母「あ、連絡帳…いつもの子は?」


いつもの子って何?連絡帳って?

ママも少し焦ってる。


男の子「あーあいつは今日サボりー!」

母「あ、そうなの…次は玄関から来てね」

男の子「…」

男の子は窓辺に寝そべったまま固まった私を上から見下ろす。

男の子「お前なんで学校こねーの?」

ユキミ「え…」

母「ちょっ…!」

男の子「俺、ヒナト!お前は、ユキミだよな!連絡帳で名前見た!」

ユキミ「あ、え、…」

母「ヒナトくん。連絡帳ありがとう。もう帰ってくれる?」

ヒナト「じゃあなユキミ!学校来いよー!」


嵐のように一瞬の出来事だった。

同い年の子と初めて喋った。

突然のことすぎて頭の中ぐるぐる。


ユキミ「ねえママ。連絡帳って?いつもの子って何?」

母「それは…」

ユキミ「ママいつも隠し事ばっか。」

母「ごめんね…。」


そう言って今日もママと手を繋いで眠りにつく。

いつになったらこの生活から抜け出せるのかな。


目が覚めると朝だった。

ママはまた居ない。


ああ、この感じ。また夢なんだろうな。

外に出たくて窓を開けようとする。

でも開かない。夢の中でも自由じゃない。









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