僕はモブ兼ご都合主義
未来紙 ユウ
第一章 異世界での邂逅
プロローグ 『闇の中に』
光が消えた。
視界を隠された、というわけではない。実際に周りが暗いのだ。昼が一瞬で夜に切り替わった、ということだろう。
最後の記憶は──自分の腹に刺さったナイフで、目の前の男の喉を掻っ切ったところで終わっている。
なにが起こったのか考える余地もなく、ぬかるみに足を取られた『僕』は闇の中へと落ちた。
◀ ◁ ▼ ▽
──ここはまるで獄炎の中。
熱い、熱い、熱い、熱い。口から煙が出て内臓が燃え尽きていく感覚。内側から灼熱が自分を包み込み、最期には身体ごと熔けて消える。そうなることがわかってしまう。
返り血で染まった手を誰かが掴んで、そのあと、すぐに触覚も消え失せた。
もうなにも見えない。誰かが自分の名前を叫んでいた気がする。それが誰なのか、もうわからない。もうなにも聴こえない。
なにかが自分を塗り潰す。
意識が遠ざかり、ジェットコースターで急降下していく感覚を思い出しながら──硬い床が泥に変わっていた。
──。
────。
──────。
殺して、殺して、殺して、殺して、自分が何者なのか、どこから来たのか、そんな些細なことがどうでもよくなる。
耳元で囁く悪魔を振り払い、殺して、殺して、殺して、殺して、殺しているうち、いつしか周りには仲間がいた。
あの日、ムカイ・アオイは暗闇に包まれた森の中で目を覚ました。なぜそうなったのかはわからない。ただそれだけは覚えている。
討伐隊の一員として、仲間と共に一匹でも多く魔獣を倒す。
毎日、毎日、殺して、殺して、血をかぶって、内臓を取り出して、死体を担いで、生活費を稼ぐ。
もう内臓を見ても吐き気はしない。放置された死体の、腐った牛乳が染み込んだ雑巾をも超越してくる匂いにも慣れた。
赤く塗り替わった服を着るのも普通になり、早朝から夕暮れまで一日中、魔獣を狩り続ける。
あれから十年が経った。
年齢は多分、十六ぐらいだと思う。
地味な灰色の目立たない髪に、顔が無駄に整っている分、我ながら生気が感じられない死んだ目が残念──命を奪ってきた代償だ。
機械のように、あらゆる感情を押し殺して魔獣を斬り、ときには人だって斬り殺す。
殺した相手は死ぬことで誰かに喜ばれる悪人だけだが、手には剣から伝わる肉体の感触が残る。
──それでも仲間がいたから頑張れた。
──もう、その仲間はどこにもいない。
人間同士でなぜ争うのか。人類を救うため奮闘していた仲間たちが、なぜその人類に殺されなくてはならなかったのか。
目的もなく、ただルーティンのように魔獣狩りをこなしていたある日、討伐隊の拠点にある知らせが入った。
今となっては運命だと確信を持てる。
闇の中にいたアオイの心に、一筋の光が差し込んだ瞬間だった。
「王都からの伝令です! 魔獣が本格的に凶暴化し始めたことを受け、異世界より勇者を召喚したとのこと。魔獣討伐を本格化するに当たり、勇者と共に凶悪な魔獣の討伐に参加する人材を求む!」
それが、絶望の中にいたアオイに生きる理由を与えてくれるなど、このときには想像もできなかった。
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