流れるさきに


トゥク タク チク チク 

部屋の空気をゆらす

静かな呼吸

肺と鼻を通過するか擦れた音 二つ



チク タク タク トゥク

白い机

彼には映らない

向き合う 二人


私よりもやつの方がここにいる

やつとは必ず見つめ合う

泳ぎ迷った視線は落ち着ける場所がない



「ねぇ」   「なに」

「あなたどこにいるの?」 「ここさ」

「うそね」  「そう思っていなよ」


会話は海底で忘れ去られた錨のようで

舞い上がる湯煙のようで


チクタッタッタッタッタッタ

彼は奴を見つめている

相変わらず私はここにいない

暮れ合いのオレンジが憎い


「なぁ」  「うん」

「じゃあきみはどこにいるの」 「ここよ」

「うそだ」 「どうして」


ズースーフー チク チク チク タク

あなたの質問は間違っている、もっと他に聞くことがあるでしょ


好きな映画や音楽は? お気に入りの場所は?

好きな食べ物や飲み物は?


恋した小説の一番の台詞は?


私のことをなにも知らない そして私もなにも知らない


ずっと前から間違っている


彼はやっと出ていった


夏の始まりのようだった

何一つ音はない



彼が最後振り返ったとき  確かに私がそこにいた。













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小河 @ua0-100

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ