授業中に寝て起きたら、なぜか人魚の姿になっとった?

楠本恵士

人魚①

人魚①


 突然ですが、授業中にうたた寝をして起きたら、海の底で人魚になっていました。


 あたしは水の中で、どうしたらいいものやら思案します。

「困ったなぁ……まさか、寝て起きたら、別世界で人魚に変わっていたなんて………そんなファンタジー想定外だよ」

 海の中で揺れる髪は、顔にまとわりついてきて邪魔くさい。

 あたしがいるのは半分壊れた沈没船の中──なぜか、沈没船の中にはベットのような感触の二枚貝が口を開けていて。

 あたしは、その貝の身に横座りで座っていた。

 あたしは、あらためて自分の人魚になった体を確認する。


 Aカップの胸は、ホタテ貝を二枚使った水着で隠され。

 腰には海草のパレオが巻かれている。

 飴色の髪に、最近人魚に定番化されつつあるターコイズブルー色のヒレ耳。

 髪に付いているブルーヒトデの髪飾りが可愛い。

「あっ、指の間に水掻きがある……考えてみれば人魚なら、水中を泳ぐ時に必要か……首と脇腹にサメの鰓弓〔さいきゅう〕がある! これで水中でエラ呼吸をしているんだ……へえ~っ、陸上では肺呼吸?」

 あたしの視線と好奇心は、いよいよ下半身の魚身へと移る。


 おヘソから下の腰骨辺りから、自然な形で魚の下半身に変わっていた。

「おへソがあるってコトは、人魚は胎生?」

 小指の爪くらいの真珠色をした魚鱗が、両足が癒着した魚身を覆っている。

「膝が曲がって座れるということは、特徴は水棲哺乳類のアシカとかアザラシに近くて? 魚の側線が下半身の横についているから、人魚って魚類と哺乳類の中間生物かな?」

 腰にはターコイズブルー色の腰ビレ、尾ビレは魚の縱ビレ。

 その他には、閉じた向こう脛〔すね〕の辺りに、魚で言うところの尻ビレが、ちょこんと突き出ている。

 背中には背骨に添って短い軟条の背ビレが、尾てい骨まで生えている。


「典型的な人魚の体……さて、これからどうしよう?」

 揺らぐ海草の林を眺めながら思案している、あたしの目の前を疑似餌がスウーッと横に通りすぎて行きます。

 人魚の目には、針が見えるバレバレのワーム疑似餌でした。

(こんなバレバレの釣り針に、誰が引っ掛かるか)

 最初はそう思った、あたしだったけれど……往復する疑似餌ワームに、我慢できなくなった、あたしは偽物の餌に食いついた──パクッ

 頬を突き刺す釣り針の傷み、軽く釣糸を引っ張ると水面に向かって強く引っ張られた。

 あたしは、初めて釣られる魚の気持ちがわかった。水面が近づく。

「痛っ、痛っ、もっと優しく」


 あたしを釣り上げたのは、クルージング船に乗った若くてイイ男でした。

 アンデルセン童話のような服装をしています。

(痛っ、異世界? みたいだけれど、魔王とか勇者がいるファンタジー世界とは、どこか雰囲気が違う? なんでクルージング船?)

 あたしを釣り上げた男の人は、あたしの口に刺さった釣り針を優しく外してくれました。

 あたしと、若い男性は見つめ合います……恋の予感がします。


 クルージング船に乗っていたのは、若い男性だけではありませんでした。

 操舵室から出てきた。顔と体がキズだらけの、初老の大男が言いました。

「おっ! 美人の人魚が釣れたじゃねぇか……ピチピチしてやがる、刺身にしたら美味そうだな……船の上でさばいて食っちまうか?」

 あたしは、大男の言葉を聞いて悲鳴を上げます。

「ひいぃぃぃ!?」

 若い男性が大男を制してくれました。

「待て、魚市場で競りに出した方が金になる。逃げないように、縛って船上に転がしておくか。

それとも、この場で撲殺して競りに出すか……こちらとしたら、どちらでも金になればいい」

 大男が船に積んであった木製のオールを手にするのが見えました。

「ひっ!?」

 どうやらあの木のオールは、釣ったサメなどを撲殺してから船上に引き上げるのに使っているらしい、年期が入ったオールでした。

 大男がオールを楽しげに擦っています。

「昔、白い巨鯨と戦っていた時のコトを思えば、人魚の頭を叩き割ることくらい朝飯前……」

 白鯨のエイハブ船長? この人、エイハブ船長?

 あたしは必死に命乞いをしました。

「活きがイイ方が、きっと高値がつきますよ……殺して競りに出したら損しますよ」

 若い男性が、あたしに訊ねてきました。

「縛ってもいいか?」

「どうぞ、どうぞ、梯子〔はしご〕縛りでも。菱〔ひし〕縛りでも、ご自由に」

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