第6話 入部(その6)

 「失礼しまーす」


 軽音楽部の部室の扉をゆっくりと開け、周囲を確認するとそこには誰も来ていないのかもう一度確認するも軽音楽部の部室で間違いなさそうだ。


 「おかしいな~、軽音部はここなのに先輩が誰一人いないなんてどうしたんだろう…」


 「もしかしたらまだ教室にいるんじゃないかな?」


 「あ~、それだったら仕方ないよね~。先輩たち来るまでここで待っとこっか」


 巴がそう提案するとカレンは「うん」と頷き普段は音楽室として使われている軽音部の部室内にある空いてる席に座り先輩達が来るまで待っていた。


 5分が経過しても先輩達が来る気配は全くなく、それでもカレンと巴は先輩たちが来るのを待ち続ける。10分が経過し眠気が生じたのか巴は机で寝てしまっていた。


 「巴~、流石にここで眠るのはまずいよ~」


 カレンは眠ってしまった巴の体を揺さぶるも巴は全く起きる気配がなかった。


 「すぅ~~すぅ~~」


 巴はとても気持ちよさそうに眠っており、カレンは先輩が来るまでずっと待っていたのだがカレン自身睡魔に襲われながらも眠気を堪えながらも待っていた。


 すると軽音楽部の先輩らしき人物が部室に向かっているのが分かった。


 「軽音部に入る子来るかな~?」


 「どうなんだろ?いても多分バイトだなんだのと理由付けて部活に来ない子が多いんじゃないかな~」


 「もしかしたらあの歌の上手い新入生代表の子が来てたりなんて」


 「あのくらい可愛かったら間違いなくスチューデントアイドル部に入ってるよ。んっ?部室の扉空いてるぞ」


 先輩は冗談交じりでそう言いながら部室へと向かい、音楽室の扉が開いていることに疑問を感じていた。


 「君達、もしかして一年生?」


 「すみません、鍵空いていたので誰かいるのかな~と思って入ったら誰もいなかったんでここで10分ほど待ってました」


 カレンは先輩達に深々と謝りながら巴の体を再度揺さぶり始める。巴はやっと目覚め、「ふぁ~」と大きく欠伸をし始め左右確認をしていた。


 「あっ、先輩おはようございます。全然来なかったんで寝てましたよ」


 「おはようってもう朝じゃないんだぞ。それに、何で巴がその子と一緒にいるの?」


 「それはねぇ、私とカレンが同じクラスだからよ。南川みなみ先輩」


 巴はカレンと同じクラスであることを南川に伝え、あーなるほどと納得していた。


 「んで、二人は入部希望だったりするの?」


 「はい、ちゃんと名前も書いて持ってきてます」


 南川の傍にいたもう一人の女性の先輩が聞くとカレンはバッグに入れていた入部届の用紙を取り出し、それを見た巴も一緒に入部届を南川に渡した。


 「確かに入部届は受け取ったよ。それでえっと、カレンさんだっけ?楽器の希望パートとかあるのかな?」


 「私はボーカルを希望したいんですけどいいですか?一応ギターもリズムギターの方でしたら弾けますけど…」


 カレンは恥ずかしそうにそう言うと南川の表情はぱあっと明るくなり、(やはりこのカレンという子は当たりだ。これなら文化祭のライブも成功させられるぞ)と期待を膨らませていた。


 「これで軽音楽部も廃部を免れることができたよ。カレンさんに関してはてっきりスチューデントアイドル部に引き抜かれるとばかり思っていたから…」


 「どういうことですか?」


 カレンはその意味を全く理解できず南川の傍にいた先輩にその理由を尋ねる。


 「カレンさんのそのルックスと歌唱力に惚れ込みあなたをスチューデントアイドル部の部員達は今もあなたを欲しがっているはずだからね。でも巴ちゃんが勧誘してくれたおかげで私達はちゃんとしたライブができるようになったわ」


 「というか私元々軽音部に入るつもりだったんで、高校入る前も見学もしましたしスチューデントアイドルに微塵も興味ありませんので」


 カレンは即答でスチューデントアイドル部に入部することを否定し、先輩二人は一瞬にして固まり発する言葉も失う程であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る