スカイブレイダー
けろよん
第1話 戦いに挑戦する少女
人間界と隣り合う場所にある異世界クインバース。かつてそこで大きな戦いがあった。
暗黒の神ダークデウスがその邪悪の力で地上を脅かし始めた。異世界の女神は人間界から勇者を召喚し、その大いなる魔を封じ込める事に成功した。
戦いが終わって自分達の世界に帰った勇者達は女神から神秘の鎧を授けられ、隣の世界から魔を監視する任務を請け負った。
時が流れた現代、そんな勇者の末裔も自分達の生活で忙しくなったので神秘の鎧はその時の実力者に貸し与えられる事になった。
かつては勇者の力が健在である事を示し平和が守られている事を願う為に行われていた儀式は時が経って戦いの腕を競う大会の祭典へと変わった。
各地から代表選手が選ばれ、鎧を纏って武を競う。その大会が行われる時期が今年もまたやってきた。
コンクリートの町に並ぶ家々、その周りに張り巡らされた道路。人々は今日も元気に学校に行ったり会社に行ったり買い物に行ったりそれぞれの活動に励んでいた。ここはどこにでもあるありふれた現代世界。
普通の住宅街にある普通の一軒家。一般家庭の食卓の席でどこにでもいる中学二年生の少女が朝と同じようにもりもりと晩御飯を食べていた。
「むしゃむしゃ、晩御飯おいしー!」
その顔は朝よりも数段輝いている。もう何も迷いは無いかのような純粋な笑顔をしている。
彼女の名前は一条空良(いちじょう そら)。友達からはソラヨシの愛称で親しまれている元気いっぱいの少女だ。
彼女がご飯をよく食べるのはいつもの事だった。両親はそんな元気いっぱいの娘をいつも微笑ましく見ていた。だが、その日のパパは浮かない顔をしていた。
パパは箸を止めてしばし考え、ついに思いきったようにテーブルの向かいの席でご飯をもりもり食べている娘に言った。
「なあ、空良。晩御飯の時ぐらいそれ……脱がないのかね」
「だって嬉しいんだもん!」
「もうパパ。娘に脱げなんてセクハラですよ。空良だってもう中学生なんですからね」
「そうじゃなくてだなあ!」
パパが憤慨するのには理由がある。別に娘の裸が見たいわけではない。そんな物は小学生の頃に一緒に風呂に入ってたくさん見ている。
娘が着ているのがとても際どくてセクシーなビキニアーマーだから困っているのだ。とても家で着るような物ではない。いや、外で着るような物でもないが。
空をイメージしたかのような空色で軽そうなその衣装は元気な娘にはとてもよく似合っていたが、やはり親としては気になってしまうものだ。
だが、気にしているのはパパだけでママは気にしていなかった。その理由をパパは知っているが娘をさらに調子づかせてしまうだけなのでここで言及したりはしなかった。
ママがやんわりと昔を思いだすように言う。
「空良が大会に出るなんてあの日を思いだすわね」
「ああ、思いだすな」
「……?」
パパとママの言うあの日を空良は知らない。ただ今朝の事を思いだすのだった。
その日は大事なテストのある日だった。数日前からこの日が来るのを待っていた空良は朝起きるなりすぐにベッドから跳び降りて窓のカーテンを開けた。
空は朝からよく晴れていた。絶好の運動日和だ。幸先のいいスタートに空良は満足の笑みを浮かべてうなづいた。
すぐに朝ごはんを食べる為に部屋を出てリビングに向かう。よく食べて体力を付けなければならない。
今日は大会に出場する学校代表を選ぶ為の選抜試験がある。試験は実技で行われる。優勝した者……つまり学校で一番強い者が代表に選ばれて本戦に進むのだ。
試験は学校の生徒なら誰でも受けられるが、大会に興味が無かったり運動が得意ではなかったりしてみんなが受けるわけではなく、意外と希望する人は少なかった。
空良の学校には強い人がいる。だから諦める人もいるが、空良は諦めなかった。
去年は負けてしまったが、中学二年生となった今年こそ優勝するべく、空良は朝からいつもより張り切ってご飯を多めに食べていた。
「ぱくぱく、朝ごはんおいしい!」
そんな娘を両親は微笑ましく見ている。
「今日はまた一段とよく食べるなあ」
「大事な試合があるのよね」
「うん! 勝つためにエネルギーの補充をしとかなくっちゃあ!」
「あんまり空回りしないようにするんだぞ」
「何事も慎重にね」
「去年で学んだから大丈夫。今年こそやるよ!」
空良は優勝を目指していたが、両親は娘の実力をあまり信じてはいないようだった。
「そうは言ってもお前の学校の生徒会長は強いんだろう?」
「去年二年生で出場した彼女が今年も出るんですってね?」
「大丈夫。今年はあたしが学校で一番になるから!」
「無理をして怪我をするんじゃないぞ」
「あなたはそそっかしいから張り切りすぎて転んじゃ駄目よ」
「去年と同じ失敗はもうしないから! 行ってきます!」
そして空良は朝食を食べ終え、身だしなみを整えてから鞄を持つと、元気に家を飛び出していくのだった。
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